異能力と妖と

彩茸

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夏季休暇編

理由

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―――それから数日後、梅雨が明けた。蛙の一件で更に周りから注目を集めるように
なった僕達は、あの場に居なかった彩音も巻き込んで同学年の生徒達から話し掛け
られる機会が増えた。
今まで積極的に人間と関わることが無かったので、慣れない日々に段々と疲労が
溜まっていく。
そんなある日、屋上で昼食を食べているとクラスメートの女子に話し掛けられた。

「ねえねえ山霧くん!夏休みに暇な人集めてキャンプ行こうって話になったん
 だけど、山霧くんも来る?」

 夏休みは晴樹と一緒にのんびり過ごそうかと考えていたのだが、これは断って良い
 のだろうか?そんなことを考えていると、先生に呼び出され来るのが遅れていた
 和正と誠が合流した。

「あ、狗神くんと日野くん!二人もキャンプ行かない?」

 そう言われた誠と和正は顔を見合わせる。そして、僕を見ると言った。

「静くんが行くなら行く」

「俺も。静也が行くなら参加する」

 そう言われた女子は、期待の眼差しで僕を見る。何だこの断り辛い空気。

「えー、あー・・・晴樹が行くなら、行きます」

 僕の言葉に女子は目を輝かせると、聞いてくる!と言って屋上を出て行った。



―――数分後、彩音が晴樹と清水さんを連れて屋上へやって来た。

「ねえ静也、キャンプ行くわよね?!」

 開口一番そう言った彩音の後ろで、清水さんが苦笑いを浮かべる。晴樹は呆れた顔
 で彩音を見ており、その後ろから先程キャンプの話を持ち掛けてきた女子が顔を
 出した。

「山霧くん、弟くんが山霧くん行くなら行くって!」

「ええ・・・」

 女子の言葉にそうきたかと晴樹を見ると、晴樹は僕を見て言った。

「・・・静兄、決めて」

「あのね!キャンプ予定地、清水さんの両親が経営してる会社の子会社がやってるん
 だって!それでね、行ったら美味しいスイーツ用意してくれるかもって!!」

 彩音が目をキラキラさせながら言う。・・・なるほど、スイーツ目当てか。

「行くわよね!ねっ!!」

 彩音の圧が凄い。一人で行けよと言いたいところだが、彩音のことだ、友達と
 一緒に行きたいのだろう。
 僕は溜息を吐くと、分かったよと頷く。

「やったあ!」

 クラスメートの女子と彩音が声を揃えて言う。そして二人は顔を見合わせると、
 恥ずかしそうにはにかんだ。

「詳しい日程決まったら伝えるね!」

 そう言って女子は屋上を後にする。僕は最後の一口を飲み込むと、晴樹に言った。

「珍しいな、晴樹が参加するなんて」

「・・・だって、静兄出掛けたら僕一人で家にいることになるじゃん。嫌だよ、
 そんなの」

 天狗さんの所に行けば良いじゃないか、そう言おうとして思い出した。
 そうだ、今天狗さんの所には落魅がいるんだった。

「日程決まったら、家に連絡しなくちゃ」

 誠がパンを頬張りながら言う。彩音も頷くと、清水さんを見た。

「清水さんもちゃんと連絡しなきゃ駄目よ?」

「はい、ついでに神宮さんがスイーツ好きなことも話しておきますね!」

 清水さんと彩音はニコニコと笑う。

「そういえば、キャンプ予定地って何処にあるんだ?」

 ふと和正が尋ね、清水さんが大まかな場所を答える。
 すると、和正が一瞬凍り付いたような表情になった。だがすぐに普段の表情へ
 戻り、清水さんにお礼を言う。
 そのまま和やかに時間は過ぎ、僕達は午後の授業へと向かうのだった。



―――放課後。どうしても昼間の和正の表情が気になった僕は、部活に行く前の
和正を呼び出す。
人気のない場所まで連れ出し、僕は聞いた。

「和正、昼休みに清水さんからキャンプ予定地の場所聞いたろ?あの時、何であんな
 顔してたんだ」

 和正は驚いた顔をして僕を見る。そして周囲に誰も居ないことを確認すると、
 小声で言った。

「・・・実はな、そのキャンプ場がある地域・・・俺の、地元なんだ。キャンプする
 だけだし、何の問題もないんだけど・・・つい、な」

 苦笑いを浮かべる和正に、そっかという言葉しか出て来なかった。
 和正が虐待を受けていた話は入学してそんなに経たない頃に聞いたが、詳しく何が
 あったのかまではよく知らない。そもそも、そこまで深入りする勇気は無かった。

「何か・・・ごめん。悪いこと聞いた」

「気にするな。キャンプ楽しもうぜ!」

 僕の言葉に、和正はそう言って笑う。
 じゃあ部活行ってくると手を振って去っていく和正に手を振り返していると、
 何となく嫌な予感がした。
 何事もなく無事に終わると良いけど・・・。そう思いながら、僕は寮へ戻るの
 だった。
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