異能力と妖と

彩茸

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再会編

落魅

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―――長いようで短い僕達の喧嘩は、突然終わりを迎えた。
体力を消耗しフラフラになっていた晴樹が、木の根に躓いて転倒した。僕はすかさず
刃を晴樹の首元に当てる。

「・・・降参」

 晴樹は両手を上げてそう言うと、銃をホルスターに仕舞って言った。

「負けちゃった。・・・僕は何をすれば良い?」

 僕は少し悩む。戻って来いと言っても、今の状態の晴樹は負けたからという理由
 だけで戻ってきてしまう。それは嫌だ。

「・・・・・・一緒に、落魅を殴ろう」

「・・・え、正気?」

 僕の言葉に晴樹は驚いた顔をする。だがすぐに無表情に戻り、小さく頷いた。

「よし、そうと決まれば早速準備だ」

 僕がそう言うと、晴樹は首を傾げて言った。

「準備?」

「ああ。・・・落魅は強い。勝つどころか、攻撃を当てるのさえ難しいと思ってる。
 だから、僕達は自分の異能力をフル活用するんだ」

 小声でそう言うと、晴樹も声を小さくして聞いてきた。

「静兄の能力って霧だよね?」

「そうだよ。元々目くらまし程度の事しかできなかったけど、ちょっとは成長
 したんだ。・・・晴樹もそうなんだろ?最初に姿を隠してたアレ、お前の能力
 だよな?」

「うん、まあね。・・・光を操るって、視覚すらも操作できるんだよ」

 凄いでしょと晴樹は無表情のまま言う。僕は頷き、晴樹に言った。

「晴樹の能力で、僕の姿だけを隠せ。落魅の隙は僕が作る。・・・殴るのは、お前の
 役目だ」

「・・・・・・分かった」

 晴樹は躊躇いがちに言う。怖いのか?と聞いたら、小さく首を縦に振った。

「大丈夫、晴樹の事は僕が守るから」

「静兄・・・」

 僕の言葉に、晴樹は不安そうな声で言う。だから僕は、笑顔で言った。

「兄ちゃんに任せろ!」

 そうして僕達は戦闘中の落魅にそっと近付く。落魅は天春達に集中しているのか、
 こちらを気にする様子はない。

「・・・晴樹」

 僕が名前を呼ぶと晴樹は静かに頷き、能力を発動させる。
 僕達兄弟の作戦が、始動した。



―――僕は落魅に静かに近付きながら、霧を作り出す。ここは霧ヶ山、能力を使った
ところで分かりはしない。

「・・・晴樹、あのお兄さんはどうしたんですかい?」

 落魅がそう言って晴樹を見た。今だ、と僕は駆ける。

「知らない、あっちに逃げて行った」

 晴樹が、僕がいる方向の逆側を指さす。落魅は多少訝しんだものの、そちらの方を
 向く。その瞬間、僕は落魅の背後から顔面に向かって手を出した。

「っ?!」

 落魅が慌てて避けようとするが、僕の方が一瞬早かった。
 晴樹の能力が解かれる。それと同時に、僕は落魅に対して恨み、憎しみ、そして
 とびっきりの殺意を込めて言った。

「・・・幻霧」

 僕の出した霧が落魅の顔面を覆う。霧は段々と濃く広がっていき、落魅の全身を
 覆った。

「な、何ですかい、これ・・・!!」

 落魅が苦しそうに頭を抱える。それを見た僕は、晴樹に言った。

「今だ」

 晴樹は落魅へと駆け出し、思いっ切り腕を振り上げる。そして大きな音を立てて、
 落魅の頭を殴った。

「ガッ・・・!!」

 落魅はふらりとよろめくと、地面に崩れ落ちる。僕が霧を消して覗き見ると、
 落魅は気絶していた。

「た、倒した・・・?」

 ボロボロになった天春が、驚いた顔で僕と晴樹を見る。
 僕と晴樹は顔を見合わせると、無言でハイタッチをした。

「凄いよ二人共!」

「やったな!!」

 誠と和正がそう言いながら嬉しそうに駆け寄ってくる。晴樹は和正を見ると、
 サッと僕の後ろに隠れた。

「あー、えっと・・・晴樹?」

 僕が声を掛けると、晴樹は無言のまま数歩後ろに下がる。下がった先で何かに
 引っかかって後ろに倒れ込んだ。

「うっ・・・」

 晴樹が引っ掛かったのは変化が解けて二つの尻尾を持つ猫の姿に戻った赤芽
 だった。赤芽は苦しそうな声を上げると、薄っすらと目を開ける。そして晴樹と
 目が合うと、言った。

「・・・謝りなさいよ」

「あ、ご、ごめん・・・」

 晴樹が赤芽に謝ると、赤芽は前足を僕に向けて言った。

「私じゃないわよ、静也に謝りなさいって言ってるの」

 晴樹は僕を見た後、目を逸らす。天春はそんな晴樹の元に歩み寄ると、頬を
 叩いた。

「兄弟だろ、馬鹿!!」

 天春は大きな声でそう言うと、晴樹の腕を掴んで僕の前へ連れて来る。
 晴樹は僕の顔を見ると無表情だったその顔を一変させ、大粒の涙を流し始めた。

「ごめっ、なさい・・・。静兄のことっ、嫌いって、言っちゃって、ひくっ、ごめん
 なざい・・・!」

 嗚咽を漏らしながら言う晴樹の頭を、僕は優しく撫でる。そして晴樹をそっと
 抱きしめながら言った。

「うん、良いよ。・・・僕も、ごめん。あの日、駆け付けるのが遅くなってごめん、
 怖い思いしてたのに助けてあげられなくてごめん。・・・生きていてくれて、
 ありがとう」

「ひっく、うぐ、うあああああああ!!」

 晴樹は声を上げて泣き出した。僕はそっと背中を擦る。
 僕も泣きそうだったけど、我慢した。ここで僕も泣いたら、晴樹を不安にさせて
 しまうかもしれないから。僕は晴樹の、だから。
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