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第四部
進路
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―――昼食を振る舞ってもらった後、真悟さんからバイト代をもらい狗神に連れ
られて家へ帰る。今までバイトをしたことはないが、ここまで万札の入った封筒を
貰うことはないんだろうなと思いながら茶封筒を覗いていた。
狗神に別れを告げ、家の中に入る。すると、少し開いた扉からトテトテと千代が
出迎えに来てくれた。
「ソウタ、おかえり。イトたち、おひるねしてるから、チヨひま」
「ただいま。というか千代って糸繰が寝てても動けるんだな」
「ようりょくきれるまで、チヨうごける。イト、いつもよりおおめにくれた。
いっぱいあそびたいって、イトいってたけど、ねむけにまけてた」
「ははっ、そうか」
千代とそんな会話をしながら、リビングへ入る。見回すと、ソファの上では糸繰が
令を抱いて眠っており、床では御鈴が大の字になって眠っていた。
「風邪引くぞ、御鈴」
そう言いながら御鈴を揺すると、目を覚ました彼女は大きく欠伸をしておかえりと
笑みを浮かべる。ただいまと返すと、目を覚ました令が糸繰の頬をペシペシと
叩いた。
「糸繰、起きろー。蒼汰が帰ってきたぞ」
令の言葉に、糸繰は眠たげな顔のまま起き上がる。そして彼は俺を見ておかえりと
ゆっくり口を動かすと、千代に視線を移した。
「イト、おはよう。チヨ、ひまだった」
文句ありげな声の千代に、糸繰は申し訳なさそうな顔をする。
〈ごめん千代、寝ちゃうとは思ってなかったんだ。〉
「ひっしにあらがってるイト、みてておもしろかった。だから、ゆるす」
クスクスと笑った千代に、糸繰は恥ずかしそうに顔を逸らした。
「・・・あ、そうだ御鈴」
ふと御鈴に伝えようと思っていた事があることを思い出し、声を掛ける。
どうしたのじゃ?と首を傾げた御鈴に、俺は言った。
「進路決めたよ。俺、御鈴の従者しつつ神になる」
「へ・・・・・・?」
御鈴を始め、他の面子の動きが止まる。
「今日狗神に言われたんだ、神じゃない奴から見れば俺は既に神だって。御鈴も
気付いてたんだろ?俺の神の力が強くなってるって」
「まあ、そうじゃが・・・本当に良いのか?」
御鈴の問いに、俺は頷いて言った。
「どうせこの体じゃ、人間の会社に就職ってのも難しいんだ。両親への言い訳は
・・・友人が立ち上げた会社に住み込みで働くことになった、でどうだ?」
「それで納得してくれるのか・・・?」
令が心配そうに聞いてくる。
「さあ?・・・まあでも、進路も全部俺がやりたいようにして良いって、両親が前に
帰って来た時に言われてたんだ。これで反対されたら、ふざけんなって感じだし。
もし許可を取るんだとしたら、両親じゃなくて主にだな」
そう言って御鈴を見ると、彼女は少し時間をくれと悩む様子を見せながら言った。
〈蒼汰がしっかり神様になったら、もう兄弟じゃなくなるのか?〉
糸繰がそう書いたメモを渡してきたので、はあ?何でと首を傾げる。
〈だって、神様は偉いし。妖なんかが弟を名乗るのはまずいだろ。〉
「偉いって言うけどなあ・・・御鈴を見てみろ、あんなんだぞ?それに俺は、自分を
偉いとは思ってない。元々人間だから、尚更な」
悲しげな顔をしていた糸繰にそう言うと、御鈴がムスッとした顔を向けてくる。
それを見た令は、何とも言えない顔をしていた。
「まあ・・・もし糸繰がそれでも引け目があるってんなら、俺にも考えがある」
そう言うと、糸繰は首を傾げた。俺は糸繰の頭をポンポンと撫でながら、口を
開く。
「命令だ、糸繰。俺が神になろうが、お前は俺の弟でいろ。良いな?」
その言葉に糸繰は目を見開く。そして柔らかな笑みを浮かべた彼は、メモに
ペンを走らせると俺の前に跪いた。
「えっ、ちょっ・・・」
困惑した声を上げている間にも、糸繰は頭を撫でていた俺の手を取りメモを
握らせる。
手を開きメモを見ると、そこにはハッキリとした丁寧な字でこう書かれていた。
〈仰せのままに。〉
られて家へ帰る。今までバイトをしたことはないが、ここまで万札の入った封筒を
貰うことはないんだろうなと思いながら茶封筒を覗いていた。
狗神に別れを告げ、家の中に入る。すると、少し開いた扉からトテトテと千代が
出迎えに来てくれた。
「ソウタ、おかえり。イトたち、おひるねしてるから、チヨひま」
「ただいま。というか千代って糸繰が寝てても動けるんだな」
「ようりょくきれるまで、チヨうごける。イト、いつもよりおおめにくれた。
いっぱいあそびたいって、イトいってたけど、ねむけにまけてた」
「ははっ、そうか」
千代とそんな会話をしながら、リビングへ入る。見回すと、ソファの上では糸繰が
令を抱いて眠っており、床では御鈴が大の字になって眠っていた。
「風邪引くぞ、御鈴」
そう言いながら御鈴を揺すると、目を覚ました彼女は大きく欠伸をしておかえりと
笑みを浮かべる。ただいまと返すと、目を覚ました令が糸繰の頬をペシペシと
叩いた。
「糸繰、起きろー。蒼汰が帰ってきたぞ」
令の言葉に、糸繰は眠たげな顔のまま起き上がる。そして彼は俺を見ておかえりと
ゆっくり口を動かすと、千代に視線を移した。
「イト、おはよう。チヨ、ひまだった」
文句ありげな声の千代に、糸繰は申し訳なさそうな顔をする。
〈ごめん千代、寝ちゃうとは思ってなかったんだ。〉
「ひっしにあらがってるイト、みてておもしろかった。だから、ゆるす」
クスクスと笑った千代に、糸繰は恥ずかしそうに顔を逸らした。
「・・・あ、そうだ御鈴」
ふと御鈴に伝えようと思っていた事があることを思い出し、声を掛ける。
どうしたのじゃ?と首を傾げた御鈴に、俺は言った。
「進路決めたよ。俺、御鈴の従者しつつ神になる」
「へ・・・・・・?」
御鈴を始め、他の面子の動きが止まる。
「今日狗神に言われたんだ、神じゃない奴から見れば俺は既に神だって。御鈴も
気付いてたんだろ?俺の神の力が強くなってるって」
「まあ、そうじゃが・・・本当に良いのか?」
御鈴の問いに、俺は頷いて言った。
「どうせこの体じゃ、人間の会社に就職ってのも難しいんだ。両親への言い訳は
・・・友人が立ち上げた会社に住み込みで働くことになった、でどうだ?」
「それで納得してくれるのか・・・?」
令が心配そうに聞いてくる。
「さあ?・・・まあでも、進路も全部俺がやりたいようにして良いって、両親が前に
帰って来た時に言われてたんだ。これで反対されたら、ふざけんなって感じだし。
もし許可を取るんだとしたら、両親じゃなくて主にだな」
そう言って御鈴を見ると、彼女は少し時間をくれと悩む様子を見せながら言った。
〈蒼汰がしっかり神様になったら、もう兄弟じゃなくなるのか?〉
糸繰がそう書いたメモを渡してきたので、はあ?何でと首を傾げる。
〈だって、神様は偉いし。妖なんかが弟を名乗るのはまずいだろ。〉
「偉いって言うけどなあ・・・御鈴を見てみろ、あんなんだぞ?それに俺は、自分を
偉いとは思ってない。元々人間だから、尚更な」
悲しげな顔をしていた糸繰にそう言うと、御鈴がムスッとした顔を向けてくる。
それを見た令は、何とも言えない顔をしていた。
「まあ・・・もし糸繰がそれでも引け目があるってんなら、俺にも考えがある」
そう言うと、糸繰は首を傾げた。俺は糸繰の頭をポンポンと撫でながら、口を
開く。
「命令だ、糸繰。俺が神になろうが、お前は俺の弟でいろ。良いな?」
その言葉に糸繰は目を見開く。そして柔らかな笑みを浮かべた彼は、メモに
ペンを走らせると俺の前に跪いた。
「えっ、ちょっ・・・」
困惑した声を上げている間にも、糸繰は頭を撫でていた俺の手を取りメモを
握らせる。
手を開きメモを見ると、そこにはハッキリとした丁寧な字でこう書かれていた。
〈仰せのままに。〉
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