神と従者

彩茸

文字の大きさ
上 下
118 / 150
第三部

武器

しおりを挟む
―――こちらにやってきた静也さんに、圭梧が嬉しそうな顔で近付く。圭梧の稽古を
つけてほしいという要望に静也さんは快く応じ、木刀を取ってくると立ち去ろうと
した。

「伯父さん!今日はさ、真剣でやろうよ!」

 圭梧の提案に、静也さんは一瞬嫌そうな顔をする。

「怪我させたら晴樹に怒られるんだって・・・」

「怪我しない程度でやめるから!お願い!!」

 鞘から出した方が実践っぽくて戦いやすいんだ!と付け加えるように言った
 圭梧に、静也さんは渋々といった様子で頷いた。
 圭梧に近付いた静也さんは圭梧の持っていた刀に手をそっと当て、ボソリと呟く。

「夜月、頼むから手加減してくれよ・・・」

「え?」

「・・・いや、何でもない」

 首を傾げた圭梧に、静也さんは眉を下げて笑みを浮かべる。

「蒼汰くん、御鈴ちゃん。危ないから離れてよう?」

 由紀がそう言って俺と御鈴を連れて後ろへ下がる。

「あー・・・なあ彩音、俺か圭梧くんが何かしでかしそうになったら止めてくれ」

「貴方達を私が止められると思う??・・・まあ、良いわよ。怪我されるのは
 嫌だしね」

 静也さんの言葉に呆れたような顔で言った彩音さんは、パンッパンッと手を叩く。

「境内からは出ないこと、あと物は壊さないこと!・・・よーい、始め!!」

 彩音さんの合図と共に、刀を抜いた圭梧と静也さんがぶつかる。キンッと音が
 鳴る度に、緊張感がその場を包む。

「相変わらず、速いのう・・・」

 御鈴が呟く。そうだなと頷く俺の目には、二人の動きがしっかりと見えていた。
 いつの間にここまで見えるようになっていたんだろう。そんなことを考えながら、
 絶え間なく刃がぶつかり合う様子を眺める。

「あっ・・・」

 暫くの打ち合いの後、圭梧の持っていた刀が弾かれる。

「あっ!!」

 静也さんの慌てたような声。弾かれた刀が、宙を舞いながら俺達の方へと向かって
 いた。

『柏木』

 落ち着いて柏木を出し、跳び上がって宙を舞っていた刀を叩き落とす。少し離れた
 地面へ突き刺さった刀を圭梧が拾いに走ると、静也さんが俺を見て言った。

「ごめんな、助かった。・・・にしても、今の凄かったな。跳躍力が人間じゃ
 なかった」

「まあ、体が変質してもう色々と人間辞めちゃってますし。誰にも怪我がなくて
 良かったです」

 そう答えて笑みを浮かべると、頼もしいなと静也さんも笑みを浮かべる。

「ごめん蒼汰ぁ・・・」

 しょんぼりとした様子の圭梧に気にするなと笑うと、由紀が少し怒った様子で
 言った。

「圭くん、あんなに大きく振るから弾かれるんだよ?もっと脇を絞ってさあ・・・」

 あ、そこに怒るんだ?

「ごめん・・・。でも何かそうした方が良い気がして」

 ちゃんと謝るのか。そう思っていると、静也さんが苦笑いで言った。

「夜月がしてくれたのかもな」

「夜月があ?」

 訝しげな顔で手に持った刀を見る圭梧。静也さんは刀を鞘に仕舞いながら口を
 開く。

「圭梧くんも雨谷に言われただろ?妖刀には意思がある、だから名前を呼んで
 お願いしたら戦いやすくなるかもよって」

「伯父さんはやってたのか?」

「うーん・・・たまに?俺がそれを言われたのって祓い屋始めてからだし、願掛け
 程度くらいだな」

「妖刀に言葉って通じるんですか?」

 思わず口を挟む。静也さんは少し悩む様子を見せると、笑みを浮かべて言った。

「通じるんじゃないかな?いまいち実感は湧かないけど、夜月を作った本人が言った
 ことだし。それに・・・」

「それに?」

「雨谷が妖刀の名前を呼ぶとさ、その刀の雰囲気が少し変わるんだよ。凄く感覚的な
 ものなんだけど、何となく嬉しそうというか」

 刀が嬉しそうというのはよく分からないが、まあ静也さんが言うのならそうなん
 だろう。

「柏木と同じじゃのう」

 御鈴がそう言って俺の腕に抱き着く。そうだっけ?と首を傾げると、御鈴は
 ニッコリと笑って言った。

「お主は神通力を使って、柏木と協力関係を結んだじゃろう?妾が渡したのじゃ
 から、感覚的に分かる。柏木が蒼汰を気に入ってるということがな!」

「えー、皆良いなあ。私も自分の武器と何か不思議な力で繋がってみたーい」

 羨ましそうな声で由紀が言う。

「使い込めば一心同体になるわよ。特に由紀の武器はね」

 彩音さんがそう言うと、そうだなと静也さんが笑う。

「そういえば、由紀の武器って?」

 そう聞くと、それはねー・・・と由紀は勿体ぶって背負っていた鞄に手を
 突っ込む。
 ・・・その時だった。地鳴りのような音と共に、背中に寒気が走る。何だと
 後ろを見ると、鳥居の前で三つ目の妖がこちらを睨みつけていた。半開きの
 口からボタボタと垂れている涎に、生理的な嫌悪感を覚える。

「静也、連れて帰ってこないでって言ってるじゃない」

 彩音さんがムッとした顔で言う。

「無理なの分かって言ってるだろ、好きで連れてきてる訳じゃない」

 溜息を吐いた静也さんがそう言いながら鳥居へ向かって歩き出す。そんな彼に、
 由紀が声を掛けた。

「お父さんは休んでて!私がやる!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...