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第三部
紅葉狩り
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―――暑かった夏が終わり、秋を迎える。紅葉狩りじゃ!と楽しそうに言う御鈴に
連れられ森の中を歩いていると、令が耳をピンと立てて立ち止まった。
「令?何かあったのか?」
そう聞くと、令は木々をじっと見つめる。御鈴と顔を見合わせ首を傾げていると、
ガサリという音と共に黒い猫又が姿を現した。
「赤芽・・・さん!」
令が上ずった声でそう言うと、猫又姿の赤芽がクスクスと笑う。
「ごきげんよう。呼び捨てで良いわよ、令」
「ひゃいっ!!」
ガチガチに緊張している様子の令に、糸繰が吹き出す。それに釣られ我慢しきれ
なかった俺と御鈴も吹き出すと、令がジト目でこちらを見てきた。
「この森に何か用事?」
赤芽がそう聞いてきたので、御鈴が紅葉狩りをしに来たことを伝える。
すると、赤芽はそれなら!と尻尾を揺らして言った。
「おすすめの場所があるのよ、一緒に行かない?」
俺たちの視線は自然と令へ向く。令は俺達を一瞥すると、尻尾をゆらりと揺らして
赤芽に言った。
「行きたい!」
―――上機嫌で赤芽の隣を歩く令に付いて歩く。赤芽は時折こちらを振り返り、
ちゃんと付いて来ているか確認しているようだった。
「ここよ」
そう言って赤芽が立ち止まったので視線を上げると、そこは少し開けた場所
だった。辺りを見渡すと紅葉した樹木が立ち並んでおり、御鈴が嬉しそうに
声を上げる。
「凄いの!紅葉狩りし放題じゃ!!」
「紅葉狩りし放題って何だよ・・・」
御鈴の言葉に突っ込むと、勢いじゃ勢い!と御鈴は頬を膨らませる。
〈そういえば、紅葉狩りって何をするんだ?〉
そう糸繰に問われ、確かに・・・と俺は首を傾げる。
紅葉を見て、楽しんで・・・うーん。
「お花見みたいなもの、かな・・・」
そう言うと、糸繰は〈なるほど。〉と書いたメモを見せてくる。
「そうじゃな、お花見みたいなものじゃ!折角だから、こっそり持ってきたものも
あるんじゃぞ」
俺が手に持っていたメモを覗き込んだ御鈴が、そう言って腰に提げていた袋から
水筒を取り出した。
「あ、それ俺の・・・」
「すまんの、借りてしもうた」
御鈴の言葉に別に良いけどと答えると、彼女は袋の中を漁りプラスチック製の
マグカップを取り出す。そういえば買った気がするなあ・・・なんて思って
いると、よく振られた水筒からマグカップの中に緑色の液体が注がれた。
「抹茶か?それ」
そう聞くと、御鈴は笑顔で頷く。
「信者に抹茶の粉を貰っての!実は朝のうちに作っておったのじゃ」
「良い匂いがするな」
令がそう言って御鈴の肩に乗り、匂いをくんくんと嗅ぐ。赤芽も興味がある
ようで、いつの間にか獣人姿に変化していた彼女がマグカップを覗き込んでいた。
「皆の分もあるぞ。赤芽もどうじゃ?」
「良いの?ありがとう!」
嬉しそうに笑う赤芽にもマグカップが渡され、地面に座って皆で抹茶を飲む。
これもあるぞと差し出された豆大福に既視感を覚えていると、御鈴が言った。
「先日、利斧に沢山貰っての。皆で食べよう」
ああ、利斧に前貰ったやつと同じなんだ。そう思いながら、抹茶と豆大福を交互に
口に運ぶ。
夢中になって食べている令と赤芽が、ふと顔を上げる。そして偶然目が合うと、
互いに恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「青春だな」
ボソリと呟く。俺もこんな甘酸っぱい青春を送ってみたかった・・・。
〈どうした?羨ましそうな顔して。オレの分も食べるか?〉
「いや、豆大福もっと食べたいとかそういうのじゃないから」
糸繰の差し出したメモにそう答え、最後の一口を飲み込む。糸繰は不思議そうな
顔をしながらも、手に持っていた豆大福をゆっくりと口に運んだ。
―――豆大福を沢山食べ満足げな顔をしている赤芽に、令がそっと近付く。
首を傾げた赤芽に、令は思い切ったように言った。
「あっ、あのさ!ボクと、その・・・と、友達になってほしいんだ!」
「え、友達?」
きょとんとした顔の赤芽に、令はコクコクと頷く。
「君と仲良くなりたいって、思って・・・。別に嫌なら諦め」
「良いわよ」
「へっ?!!」
さらりと答えた赤芽に、令は素っ頓狂な声を出した。その様子が面白くて思わず
吹き出すと、御鈴がベシッと俺の足を叩く。
「良かったの、令」
ニコニコと笑う御鈴に令は恥ずかしそうな顔をすると、赤芽を見る。
「私、友達から始めましょうっていう展開好きなのよ。昔クラスメイトに貸して
もらった漫画に描いてあったの」
そう言った赤芽は、少し意地悪そうな笑みを浮かべて令を見た。
「気付いてないと思った?私そこまで鈍感じゃないの」
「にゃう・・・」
たじたじになっている令に、糸繰も吹き出す。御鈴が俺と同じ様に糸繰の足を
叩くと、糸繰はクスクスと笑うのを止め御鈴から離れるように俺の傍へやって
きた。
〈怒られた。〉
しょんぼりとした顔の糸繰に、ドンマイと苦笑いを浮かべる。
「・・・さて、妾はそろそろ帰ろうかの。令、夕飯の時間には戻ってくるのじゃぞ」
「え、御鈴様?!」
「ほら、帰ろう蒼汰!」
驚いた顔の令を無視して、御鈴が俺の腕を引っ張る。そうだなと俺は頷いて、
糸繰に手を差し出した。
「糸繰、帰るぞ」
俺の言葉に糸繰は令をちらりと見ると、頷いて俺の手を掴む。手を繋いだまま
歩き出した俺達の背中越しに、赤芽の声が聞こえた。
「仲良いのね。良い家族に恵まれてるじゃない」
連れられ森の中を歩いていると、令が耳をピンと立てて立ち止まった。
「令?何かあったのか?」
そう聞くと、令は木々をじっと見つめる。御鈴と顔を見合わせ首を傾げていると、
ガサリという音と共に黒い猫又が姿を現した。
「赤芽・・・さん!」
令が上ずった声でそう言うと、猫又姿の赤芽がクスクスと笑う。
「ごきげんよう。呼び捨てで良いわよ、令」
「ひゃいっ!!」
ガチガチに緊張している様子の令に、糸繰が吹き出す。それに釣られ我慢しきれ
なかった俺と御鈴も吹き出すと、令がジト目でこちらを見てきた。
「この森に何か用事?」
赤芽がそう聞いてきたので、御鈴が紅葉狩りをしに来たことを伝える。
すると、赤芽はそれなら!と尻尾を揺らして言った。
「おすすめの場所があるのよ、一緒に行かない?」
俺たちの視線は自然と令へ向く。令は俺達を一瞥すると、尻尾をゆらりと揺らして
赤芽に言った。
「行きたい!」
―――上機嫌で赤芽の隣を歩く令に付いて歩く。赤芽は時折こちらを振り返り、
ちゃんと付いて来ているか確認しているようだった。
「ここよ」
そう言って赤芽が立ち止まったので視線を上げると、そこは少し開けた場所
だった。辺りを見渡すと紅葉した樹木が立ち並んでおり、御鈴が嬉しそうに
声を上げる。
「凄いの!紅葉狩りし放題じゃ!!」
「紅葉狩りし放題って何だよ・・・」
御鈴の言葉に突っ込むと、勢いじゃ勢い!と御鈴は頬を膨らませる。
〈そういえば、紅葉狩りって何をするんだ?〉
そう糸繰に問われ、確かに・・・と俺は首を傾げる。
紅葉を見て、楽しんで・・・うーん。
「お花見みたいなもの、かな・・・」
そう言うと、糸繰は〈なるほど。〉と書いたメモを見せてくる。
「そうじゃな、お花見みたいなものじゃ!折角だから、こっそり持ってきたものも
あるんじゃぞ」
俺が手に持っていたメモを覗き込んだ御鈴が、そう言って腰に提げていた袋から
水筒を取り出した。
「あ、それ俺の・・・」
「すまんの、借りてしもうた」
御鈴の言葉に別に良いけどと答えると、彼女は袋の中を漁りプラスチック製の
マグカップを取り出す。そういえば買った気がするなあ・・・なんて思って
いると、よく振られた水筒からマグカップの中に緑色の液体が注がれた。
「抹茶か?それ」
そう聞くと、御鈴は笑顔で頷く。
「信者に抹茶の粉を貰っての!実は朝のうちに作っておったのじゃ」
「良い匂いがするな」
令がそう言って御鈴の肩に乗り、匂いをくんくんと嗅ぐ。赤芽も興味がある
ようで、いつの間にか獣人姿に変化していた彼女がマグカップを覗き込んでいた。
「皆の分もあるぞ。赤芽もどうじゃ?」
「良いの?ありがとう!」
嬉しそうに笑う赤芽にもマグカップが渡され、地面に座って皆で抹茶を飲む。
これもあるぞと差し出された豆大福に既視感を覚えていると、御鈴が言った。
「先日、利斧に沢山貰っての。皆で食べよう」
ああ、利斧に前貰ったやつと同じなんだ。そう思いながら、抹茶と豆大福を交互に
口に運ぶ。
夢中になって食べている令と赤芽が、ふと顔を上げる。そして偶然目が合うと、
互いに恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「青春だな」
ボソリと呟く。俺もこんな甘酸っぱい青春を送ってみたかった・・・。
〈どうした?羨ましそうな顔して。オレの分も食べるか?〉
「いや、豆大福もっと食べたいとかそういうのじゃないから」
糸繰の差し出したメモにそう答え、最後の一口を飲み込む。糸繰は不思議そうな
顔をしながらも、手に持っていた豆大福をゆっくりと口に運んだ。
―――豆大福を沢山食べ満足げな顔をしている赤芽に、令がそっと近付く。
首を傾げた赤芽に、令は思い切ったように言った。
「あっ、あのさ!ボクと、その・・・と、友達になってほしいんだ!」
「え、友達?」
きょとんとした顔の赤芽に、令はコクコクと頷く。
「君と仲良くなりたいって、思って・・・。別に嫌なら諦め」
「良いわよ」
「へっ?!!」
さらりと答えた赤芽に、令は素っ頓狂な声を出した。その様子が面白くて思わず
吹き出すと、御鈴がベシッと俺の足を叩く。
「良かったの、令」
ニコニコと笑う御鈴に令は恥ずかしそうな顔をすると、赤芽を見る。
「私、友達から始めましょうっていう展開好きなのよ。昔クラスメイトに貸して
もらった漫画に描いてあったの」
そう言った赤芽は、少し意地悪そうな笑みを浮かべて令を見た。
「気付いてないと思った?私そこまで鈍感じゃないの」
「にゃう・・・」
たじたじになっている令に、糸繰も吹き出す。御鈴が俺と同じ様に糸繰の足を
叩くと、糸繰はクスクスと笑うのを止め御鈴から離れるように俺の傍へやって
きた。
〈怒られた。〉
しょんぼりとした顔の糸繰に、ドンマイと苦笑いを浮かべる。
「・・・さて、妾はそろそろ帰ろうかの。令、夕飯の時間には戻ってくるのじゃぞ」
「え、御鈴様?!」
「ほら、帰ろう蒼汰!」
驚いた顔の令を無視して、御鈴が俺の腕を引っ張る。そうだなと俺は頷いて、
糸繰に手を差し出した。
「糸繰、帰るぞ」
俺の言葉に糸繰は令をちらりと見ると、頷いて俺の手を掴む。手を繋いだまま
歩き出した俺達の背中越しに、赤芽の声が聞こえた。
「仲良いのね。良い家族に恵まれてるじゃない」
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