神と従者

彩茸

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第二部

家族

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―――それから数日経ち、年が明ける。両親から新年の挨拶の電話が掛かってきた
ことに驚きつつも職場の同僚らしき人と会話をしていると、御鈴と令、そして糸繰が
目を丸くしてこちらを見ていた。

「そ、蒼汰が異国の言葉を喋っておった・・・」

「にゃんだあれ、呪文か・・・?」

 電話を終えた俺に、御鈴と令が言う。

「覚えたんだよ。仕事中は携帯の電源切ってるらしいから、何かあったとき両親に
 連絡を取るのにあっちの言葉が分からないと内線繋いでもらえないし」

 そう答えると、糸繰が羨ましそうな顔をする。何だよと糸繰を見ると、彼は少し
 遠慮がちにメモを差し出してきた。

〈いいな、家族。〉

 メモにはそう書かれており、俺は溜息を吐く。そしてメモを御鈴に渡すと、彼女は
 少しムッとした表情で糸繰を見た。

「何を言っておる!妾達はもうじゃろう!!」

 御鈴の言葉に、糸繰は目を見開く。
 言うと思った。そう思いながら、俺は糸繰の頭を優しく撫でて言った。

「お前は御鈴の信者で俺の道具だーとか思っているんだろうが、俺達はそうじゃない
 からな。俺にとっちゃ御鈴は主である前に家族だし、糸繰だって家族だよ」

 糸繰は信用に足る妖だった。それは、ここ数日で嫌という程思い知らされた。
 仮面の男にどんな扱いを受けていても疑うということをせず、どこまでも純粋に
 自分を受け入れてくれる者を信じ続ける。狂気とも言える程の従順さは、親に
 捨てられ孤独を生きていた糸繰が救いを求めた末に辿り着いたものだったのかも
 しれない。
 ・・・そして今、彼は新たな心の拠り所を見つけた。そんな糸繰が裏切るとは到底
 思えなかった。

〈家族って、そんな簡単になっても良いものなのか?〉

 不安げな顔で、糸繰がそう書かれたメモを俺に差し出してくる。

「良いだろ、別に。・・・俺だって独りには慣れてたけど、寂しいものは寂しいん
 だよ。だから、お前もずっと独りでいる必要はない」

 自分でそう言って、ふと御鈴と出会う前の生活を思い出す。
 ・・・そうか、自分に嘘吐いてたんだな、俺。

「あ、分かった」

 突然令が声を上げる。首を傾げると、令が俺の肩に飛び乗って俺と糸繰を交互に
 見ながら言った。

「にゃーんか既視感あると思ってたんだけど、お前らボクが前に住んでた所の近くで
 暮らしてた兄弟に似てるんだ。まあ、いつの間にか祓い屋に消されてたけど」

「兄弟・・・」

 俺が呟くと、御鈴がハッとした顔をする。
 そして嬉しそうに俺を見ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら言った。

「蒼汰!!お主が望んでいたものが手に入ったの!」

「何か望んでたっけ?」

 心当たりがなく、首を傾げる。すると御鈴は、俺と糸繰の手をがっしりと握った。

「妾と契約した時、望むものを聞いたじゃろう!お主は言っておったはずじゃ、
 『じゃあ、兄弟が欲しい』と!!」

 ・・・言われてみれば、そんなことを言った気がする。御鈴がそれは与えられない
 からと、代わりに神の力を分け与えてくれたんだったか。

「糸繰と兄弟なあ・・・。糸繰はどう思う?」

 そう言って、糸繰を見る。糸繰は暫く悩んだ後、暗い目に俺を映し自嘲気味な
 笑みを浮かべてペンを走らせた。

〈嬉しい。なんて言ったら、怒るよな?〉

「いや、別に?怒ることじゃねえだろ、嫌じゃないし」

 メモを見てそう答えると、糸繰は驚いたような顔で俺を見た。暗かった瞳が、
 少しの輝きを取り戻す。

「じゃあ決まりじゃの!」

「まあ兄弟だからって、何が変わるって訳でもないと思うけどな」

 御鈴の言葉に、令がそう言って笑う。
 ・・・雪は降らずともかなり寒かったその日。かつて敵だった妖が、主に捨てられ
 殺してくれと頼んできた鬼が、俺の兄弟になった。
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