神と従者

彩茸

文字の大きさ
上 下
69 / 156
第二部

邪魔

しおりを挟む
―――転々と咲く花を近くで見ると、それは白やピンクのコスモスに似た形状のもの
だった。綺麗だなーなんて御鈴と笑い合っていると、ゾワリと寒気がする。
・・・知っているが、いつもと違う気がする。そんなことを思いながら振り返ると、
そこには糸繰が立っていた。

「よう、蒼汰」

 俺と目が合った糸繰は、そう言ってニタリと笑う。

「お前、タイミング悪く現れる才能でもあるのか・・・?」

 俺の言葉に糸繰は笑みを浮かべたまま、相変わらず敵意を感じさせない歩き方で
 近付いてくる。
 御鈴を守るように前へ出ると、彼は口を開いた。

「お前のタイミングが良すぎるだけだろ。この前なんて、その所為で散々だったん
 だからな」

「は・・・?」

 糸繰の言葉に、俺は首を傾げる。

「あと少しで殺せそうだったのに、《武神》に邪魔されたんだ。逆にオレが死にかけ
 るし、主に話したら蒼汰に興味持って連れて来いって言われるし・・・。しかも
 生かしてだぞ?」

 さっさと死んでくれなかったお前の所為だからな。糸繰はムスッとした顔でそう
 言うと、懐から手のひらサイズの人形を取り出した。

「・・・まあ、そういう訳だから。付いてきてくれよ、蒼汰」

「誰が付いて行くかよ」

 糸繰の言葉にそう返すと、彼は溜息を吐いて人形に針を刺した。

「じゃあ力尽くだ。傷付けるなとは言われてないんでね。・・・ああ、神様も一緒に
 来てくださいね?」

 糸繰はそう言って御鈴を見る。御鈴はキッと糸繰を睨むと、ハッキリと言った。

「断る!!」

「・・・そうですか」

 俺を見た糸繰は小さな声で何かを呟く。
 突然若干の痛みを持ち始めた手に、呪いかと思いながら柏木をクルリと回した。
 それを見た糸繰が、首を傾げる。

「・・・お前、呪いに耐性あるタイプだっけ?」

 突然糸繰にそう言われ、何の事だと言いかけた。・・・言いかけて、やめた。

「さあ、どうだろうな?」

 俺はニヤリと笑みを浮かべる。恐らく俺が痛みを感じにくくなっているだけなの
 だろうが、勘違いしてくれるならそれに越したことはない。
 俺の言葉に糸繰は一瞬動揺した様子を見せる。そして嫌そうな顔でボソッと
 呟いた。

「主に怒られるな、これ・・・」



―――糸繰の神通力による呪いでその場にへたり込んで動けなくなっている御鈴を
庇いながら、戦い続ける。

「諦めろよ、糸繰!」

 そう言いながら、糸繰の攻撃を避ける。
 真悟さんとの模擬戦で得た経験のおかげか、糸繰の動きがよく見えた。

「何度も言わせるな、なんだよ」

 糸繰はそう言いながら、攻撃の手を止めない。
 早々に気絶させられた令は御鈴に預けた。あとは、こいつを退かせるだけなのに。
 そう思いながら、柏木を避ける糸繰に内心舌打ちする。

『汝は蒼汰。我が思うままに操らせよ』

 何度目かも分からない呪いの重ね掛け。こちらも神通力で痛みを消して抵抗する
 が、それでもまた襲い掛かってくる痛みに頭がおかしくなりそうだった。
 御鈴の命令があるため、糸繰に対して神通力が使えない。命令の取り消しを頼もう
 にも、御鈴の名前が呼べないため話し掛けることすらままならない。自分に対して
 なら使える神通力で、ただひたすら攻守を繰り返していた。



―――どれだけ経った?分からない。・・・もう、嫌になってきた。
ああ、邪魔だ。糸繰の呪いによって、神通力によって、強さを増す痛みが邪魔だ。
消しても消しても襲い掛かってくる痛みが邪魔だ。
痛い、柏木を離しそうになる。痛い、無理矢理動かしている体が悲鳴を上げている。
・・・ああ、本当に邪魔だ。邪魔、邪魔、邪魔。

「はあっ・・・」

 開いた口から息が漏れる。
 そうだ、痛みを感じにくくなるだけじゃ駄目なんだ。

「ははっ・・・」

 笑みが零れる。
 そうだ、そうだよ。・・・邪魔なら、しまえば良い。

「蒼汰、蒼汰・・・!」

 御鈴が俺の名前を呼んでいる。
 なあ御鈴、これは俺の問題だ。だから使っても良いよな?命令に背いていない
 もんな?

「・・・お前、何だその気配」

 そう言った糸繰がやっと攻撃の手を止めて、俺から距離を取る。
 気配?知るかそんなもの。そんなことをぼんやりと考えながら、俺は温かくなった
 胸の辺りに手を当てて口を開いた。

『我、拒絶す。我を縛るものよ、消えよ。神の御業をもちて消え失せよ』

 そう言った途端に、全身から痛みが消える。
 少し体が動かしにくい気もするが、痛いよりはマシだ。

「・・・これなら、殺れる」

 そう呟いて、俺は糸繰に向かって駆け出した。
 糸繰は後ろへ下がりながら人形に針を刺す。足から力が抜けるが、感覚だけで
 地を蹴った。
 柏木が糸繰に当たる。顔を顰め柏木の当たった場所を押さえた糸繰に、蹴りを
 繰り出す。
 間一髪といった様子で蹴りを躱した糸繰に、柏木で殴り掛かる。ガンッと音が
 して、糸繰は苦しそうな顔で地面に膝を突いた。
 今だ、と柏木を振り上げる。ハッとした顔で俺を見た糸繰に、思い切り柏木を
 振り下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い流れ星3

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
美幸とシュウ、そして、野々村と和彦はどうなる!? 流れ星シリーズ、第3弾。完結編です。 時空の門をくぐったひかりとシュウ… お互いの記憶をなくした二人は…? 誤解ばかりですれ違う和彦と野々村は、一体どうなる? ※表紙画はくまく様に描いていただきました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

月は夜をかき抱く ―Alkaid―

深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。 アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...