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第二部
邪魔
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―――転々と咲く花を近くで見ると、それは白やピンクのコスモスに似た形状のもの
だった。綺麗だなーなんて御鈴と笑い合っていると、ゾワリと寒気がする。
・・・知っているが、いつもと違う気がする。そんなことを思いながら振り返ると、
そこには糸繰が立っていた。
「よう、蒼汰」
俺と目が合った糸繰は、そう言ってニタリと笑う。
「お前、タイミング悪く現れる才能でもあるのか・・・?」
俺の言葉に糸繰は笑みを浮かべたまま、相変わらず敵意を感じさせない歩き方で
近付いてくる。
御鈴を守るように前へ出ると、彼は口を開いた。
「お前のタイミングが良すぎるだけだろ。この前なんて、その所為で散々だったん
だからな」
「は・・・?」
糸繰の言葉に、俺は首を傾げる。
「あと少しで殺せそうだったのに、《武神》に邪魔されたんだ。逆にオレが死にかけ
るし、主に話したら蒼汰に興味持って連れて来いって言われるし・・・。しかも
生かしてだぞ?」
さっさと死んでくれなかったお前の所為だからな。糸繰はムスッとした顔でそう
言うと、懐から手のひらサイズの人形を取り出した。
「・・・まあ、そういう訳だから。付いてきてくれよ、蒼汰」
「誰が付いて行くかよ」
糸繰の言葉にそう返すと、彼は溜息を吐いて人形に針を刺した。
「じゃあ力尽くだ。傷付けるなとは言われてないんでね。・・・ああ、神様も一緒に
来てくださいね?」
糸繰はそう言って御鈴を見る。御鈴はキッと糸繰を睨むと、ハッキリと言った。
「断る!!」
「・・・そうですか」
俺を見た糸繰は小さな声で何かを呟く。
突然若干の痛みを持ち始めた手に、呪いかと思いながら柏木をクルリと回した。
それを見た糸繰が、首を傾げる。
「・・・お前、呪いに耐性あるタイプだっけ?」
突然糸繰にそう言われ、何の事だと言いかけた。・・・言いかけて、やめた。
「さあ、どうだろうな?」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。恐らく俺が痛みを感じにくくなっているだけなの
だろうが、勘違いしてくれるならそれに越したことはない。
俺の言葉に糸繰は一瞬動揺した様子を見せる。そして嫌そうな顔でボソッと
呟いた。
「主に怒られるな、これ・・・」
―――糸繰の神通力による呪いでその場にへたり込んで動けなくなっている御鈴を
庇いながら、戦い続ける。
「諦めろよ、糸繰!」
そう言いながら、糸繰の攻撃を避ける。
真悟さんとの模擬戦で得た経験のおかげか、糸繰の動きがよく見えた。
「何度も言わせるな、命令なんだよ」
糸繰はそう言いながら、攻撃の手を止めない。
早々に気絶させられた令は御鈴に預けた。あとは、こいつを退かせるだけなのに。
そう思いながら、柏木を避ける糸繰に内心舌打ちする。
『汝は蒼汰。我が思うままに操らせよ』
何度目かも分からない呪いの重ね掛け。こちらも神通力で痛みを消して抵抗する
が、それでもまた襲い掛かってくる痛みに頭がおかしくなりそうだった。
御鈴の命令があるため、糸繰に対して神通力が使えない。命令の取り消しを頼もう
にも、御鈴の名前が呼べないため話し掛けることすらままならない。自分に対して
なら使える神通力で、ただひたすら攻守を繰り返していた。
―――どれだけ経った?分からない。・・・もう、嫌になってきた。
ああ、邪魔だ。糸繰の呪いによって、神通力によって、強さを増す痛みが邪魔だ。
消しても消しても襲い掛かってくる痛みが邪魔だ。
痛い、柏木を離しそうになる。痛い、無理矢理動かしている体が悲鳴を上げている。
・・・ああ、本当に邪魔だ。邪魔、邪魔、邪魔。
「はあっ・・・」
開いた口から息が漏れる。
そうだ、痛みを感じにくくなるだけじゃ駄目なんだ。
「ははっ・・・」
笑みが零れる。
そうだ、そうだよ。・・・邪魔なら、消してしまえば良い。
「蒼汰、蒼汰・・・!」
御鈴が俺の名前を呼んでいる。
なあ御鈴、これは俺の問題だ。だから使っても良いよな?命令に背いていない
もんな?
「・・・お前、何だその気配」
そう言った糸繰がやっと攻撃の手を止めて、俺から距離を取る。
気配?知るかそんなもの。そんなことをぼんやりと考えながら、俺は温かくなった
胸の辺りに手を当てて口を開いた。
『我、拒絶す。我を縛るものよ、消えよ。神の御業をもちて消え失せよ』
そう言った途端に、全身から痛みが消える。
少し体が動かしにくい気もするが、痛いよりはマシだ。
「・・・これなら、殺れる」
そう呟いて、俺は糸繰に向かって駆け出した。
糸繰は後ろへ下がりながら人形に針を刺す。足から力が抜けるが、感覚だけで
地を蹴った。
柏木が糸繰に当たる。顔を顰め柏木の当たった場所を押さえた糸繰に、蹴りを
繰り出す。
間一髪といった様子で蹴りを躱した糸繰に、柏木で殴り掛かる。ガンッと音が
して、糸繰は苦しそうな顔で地面に膝を突いた。
今だ、と柏木を振り上げる。ハッとした顔で俺を見た糸繰に、思い切り柏木を
振り下ろした。
だった。綺麗だなーなんて御鈴と笑い合っていると、ゾワリと寒気がする。
・・・知っているが、いつもと違う気がする。そんなことを思いながら振り返ると、
そこには糸繰が立っていた。
「よう、蒼汰」
俺と目が合った糸繰は、そう言ってニタリと笑う。
「お前、タイミング悪く現れる才能でもあるのか・・・?」
俺の言葉に糸繰は笑みを浮かべたまま、相変わらず敵意を感じさせない歩き方で
近付いてくる。
御鈴を守るように前へ出ると、彼は口を開いた。
「お前のタイミングが良すぎるだけだろ。この前なんて、その所為で散々だったん
だからな」
「は・・・?」
糸繰の言葉に、俺は首を傾げる。
「あと少しで殺せそうだったのに、《武神》に邪魔されたんだ。逆にオレが死にかけ
るし、主に話したら蒼汰に興味持って連れて来いって言われるし・・・。しかも
生かしてだぞ?」
さっさと死んでくれなかったお前の所為だからな。糸繰はムスッとした顔でそう
言うと、懐から手のひらサイズの人形を取り出した。
「・・・まあ、そういう訳だから。付いてきてくれよ、蒼汰」
「誰が付いて行くかよ」
糸繰の言葉にそう返すと、彼は溜息を吐いて人形に針を刺した。
「じゃあ力尽くだ。傷付けるなとは言われてないんでね。・・・ああ、神様も一緒に
来てくださいね?」
糸繰はそう言って御鈴を見る。御鈴はキッと糸繰を睨むと、ハッキリと言った。
「断る!!」
「・・・そうですか」
俺を見た糸繰は小さな声で何かを呟く。
突然若干の痛みを持ち始めた手に、呪いかと思いながら柏木をクルリと回した。
それを見た糸繰が、首を傾げる。
「・・・お前、呪いに耐性あるタイプだっけ?」
突然糸繰にそう言われ、何の事だと言いかけた。・・・言いかけて、やめた。
「さあ、どうだろうな?」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。恐らく俺が痛みを感じにくくなっているだけなの
だろうが、勘違いしてくれるならそれに越したことはない。
俺の言葉に糸繰は一瞬動揺した様子を見せる。そして嫌そうな顔でボソッと
呟いた。
「主に怒られるな、これ・・・」
―――糸繰の神通力による呪いでその場にへたり込んで動けなくなっている御鈴を
庇いながら、戦い続ける。
「諦めろよ、糸繰!」
そう言いながら、糸繰の攻撃を避ける。
真悟さんとの模擬戦で得た経験のおかげか、糸繰の動きがよく見えた。
「何度も言わせるな、命令なんだよ」
糸繰はそう言いながら、攻撃の手を止めない。
早々に気絶させられた令は御鈴に預けた。あとは、こいつを退かせるだけなのに。
そう思いながら、柏木を避ける糸繰に内心舌打ちする。
『汝は蒼汰。我が思うままに操らせよ』
何度目かも分からない呪いの重ね掛け。こちらも神通力で痛みを消して抵抗する
が、それでもまた襲い掛かってくる痛みに頭がおかしくなりそうだった。
御鈴の命令があるため、糸繰に対して神通力が使えない。命令の取り消しを頼もう
にも、御鈴の名前が呼べないため話し掛けることすらままならない。自分に対して
なら使える神通力で、ただひたすら攻守を繰り返していた。
―――どれだけ経った?分からない。・・・もう、嫌になってきた。
ああ、邪魔だ。糸繰の呪いによって、神通力によって、強さを増す痛みが邪魔だ。
消しても消しても襲い掛かってくる痛みが邪魔だ。
痛い、柏木を離しそうになる。痛い、無理矢理動かしている体が悲鳴を上げている。
・・・ああ、本当に邪魔だ。邪魔、邪魔、邪魔。
「はあっ・・・」
開いた口から息が漏れる。
そうだ、痛みを感じにくくなるだけじゃ駄目なんだ。
「ははっ・・・」
笑みが零れる。
そうだ、そうだよ。・・・邪魔なら、消してしまえば良い。
「蒼汰、蒼汰・・・!」
御鈴が俺の名前を呼んでいる。
なあ御鈴、これは俺の問題だ。だから使っても良いよな?命令に背いていない
もんな?
「・・・お前、何だその気配」
そう言った糸繰がやっと攻撃の手を止めて、俺から距離を取る。
気配?知るかそんなもの。そんなことをぼんやりと考えながら、俺は温かくなった
胸の辺りに手を当てて口を開いた。
『我、拒絶す。我を縛るものよ、消えよ。神の御業をもちて消え失せよ』
そう言った途端に、全身から痛みが消える。
少し体が動かしにくい気もするが、痛いよりはマシだ。
「・・・これなら、殺れる」
そう呟いて、俺は糸繰に向かって駆け出した。
糸繰は後ろへ下がりながら人形に針を刺す。足から力が抜けるが、感覚だけで
地を蹴った。
柏木が糸繰に当たる。顔を顰め柏木の当たった場所を押さえた糸繰に、蹴りを
繰り出す。
間一髪といった様子で蹴りを躱した糸繰に、柏木で殴り掛かる。ガンッと音が
して、糸繰は苦しそうな顔で地面に膝を突いた。
今だ、と柏木を振り上げる。ハッとした顔で俺を見た糸繰に、思い切り柏木を
振り下ろした。
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