神と従者

彩茸

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第二部

制止

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―――目が覚めると、何処か見覚えのある天井が目に映った。
体を起こし周りを見るが、誰も居ない。

「っ・・・」

 糸繰に絞められていた首が痛い。御鈴の気配は近くになく、俺は溜息を吐いて
 ボソリと呟いた。

『消えよ』

 もう体の変質とか今更だろう。そんなことを考えつつ、痛みの消えた首を擦る。
 見覚えがあるが・・・何処だっけ。そう思っていると、扉が開く音がする。
 そちらを見ると、楓華が立っていた。

「良かった、ちゃんと生きてた」

 楓華はそう言って安心したような顔で笑う。そこで思い出した、ここは山霧家か。
 俺は何でこんな所に・・・?そう思っていると、再び扉が開く。

「おや、平気そうな顔をしていますね」

 そう言いながら部屋に入ってきたのは利斧で、俺の顔を見るとニッコリと笑った。

「利斧・・・?」

 何で利斧までいるんだと首を傾げると、楓華が俺の隣に座って言った。

「学校から帰ってたら、気絶した蒼汰を背負ってる利斧さんに会ってね。事情を
 聴いて、そのまま家に来てもらったの」

「他の人達は?」

「圭梧はまだ学校、お父さんは仕事。お母さんはご飯作ってくれてる」

 俺の問いに楓華はそう答えると、利斧を見る。利斧はしゃがんで俺と目線を合わ
 せると、俺の胸に指先を当てて言った。

「・・・蒼汰、人間を辞めるのに積極的なのは構いませんが、流石に死にかけるのは
 いかがなものかと」

「え、いや、そんなつもりじゃ・・・」

「私が通りかからなければ、貴方はあの鬼に首をへし折られていたんですよ?人間は
 危機が訪れると本領を発揮するらしいですが・・・。まさか御鈴そっちのけで、
 なんてことはありませんよね?」

 利斧の目つきが鋭くなる。楓華が心配そうな顔で俺を見ている中、俺は言った。

「あいつが、糸繰が襲い掛かってきたんですよ。俺を殺せば御鈴を殺しやすくなる
 なんて聞いて、黙っていられるとでも?」

 殺される前に、殺さないと。そう呟いた俺の頭を、楓華が撫でる。

「ねえ蒼汰、相手は鬼だったんでしょ?だったら、戦わない方が良いよ」

 そう言った楓華に、何でと首を傾げる。すると、利斧が言った。

「鬼というのは、妖の分類で言うところの大妖怪。人間に近い見た目の鬼は、
 その中でも強い部類に入ります。いくら蒼汰の体が既に人間とはかけ離れて
 いるとしても、貴方はまだ人間だ。完全に人間を辞めるまでは、勝てると
 思わないことです」

「・・・あのね、蒼汰。昔、お父さんと伯父さんも鬼と戦ったことがあるんだって。
 その時は強い人達が集まってて、妖の手も借りていたんだけど・・・それでも、
 勝てる気がしなかったんだって」

「それ、その後どうなったんだ?」

 楓華の言葉にそう聞くと、楓華は複雑そうな顔で言った。

「倒したよ、伯父さんが。でも、伯父さんもお父さんも死にかけてたみたい。
 それから何があったのか・・・お父さんも伯父さんも、教えてくれないけど」

 あの《最強》が、死にかけるような相手なんだよ。そう言った楓華は、俺の手を
 掴んで言った。

「だから、戦わないで。蒼汰は死んじゃ駄目、逃げてでも生きて」

「でもそれじゃあ、御鈴が!」

「これ以上、私の友達が死ぬのは見たくないの!!」

 泣きそうな顔で叫ぶように言った楓華に、ビクリと体を震わせる。

「あ・・・ごめん、こっちの話」

 そう呟くように言った楓華は、手を離して俯く。

「・・・死ぬ気はない。死んだら、御鈴を守れなくなるし」

 俺の言葉に楓華はうんと小さく頷いて、怒鳴ってごめんねと部屋を出て行った。
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