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第二部
失言
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―――御鈴が持ってきてくれた作り置きの昼食を食べ、解熱剤を飲む。
昼食はあまり味がしなくて、味付けミスったかな・・・なんて考えていた。
「ごめんな、味薄かっただろ」
俺が言うと、御鈴は丁度良かったぞ?と首を傾げる。
「味覚も鈍感になっておるのなら、病院に行った方が良いのではないか?」
「・・・こんな体なのに、医者に診せてどうにかなるのかよ」
ふと口から零れた言葉に、自分でも驚く。ハッとして御鈴を見ると、御鈴は目に
涙を浮かべて呟いた。
「・・・すまぬ。妾の所為じゃのに・・・」
「え、いや、違っ・・・!」
慌てて言うが、御鈴は涙を拭い食器を持って部屋を出て行く。
閉まった扉を見て、俺はどうしたら良いか分からず頭から毛布を被った。
―――気付けば眠っていたようで、目を覚ました時には部屋の中は真っ暗だった。
手探りで電気スタンドのスイッチを押す。時計を見ると22時を過ぎており、夕飯も
風呂もまだじゃねえかと起き上がる。
立ち上がり、部屋を出る。きっと御鈴は寝ているんだろうなと思いながら静かに
台所へ向かうと、電気が付いていた。
「あれ・・・?」
不思議に思いながらも近付く。すると物陰に隠れて気付かなかったのだが、そこで
御鈴が地面に座ってウトウトと舟を漕いでいた。
「御鈴、そこで寝てたら風邪引くぞ」
そう言いながら御鈴を揺すると、御鈴は目を開けて俺を見る。だがすぐに気まず
そうな顔をすると、顔を逸らした。
「・・・夕飯、作っておいた。蒼汰が嫌じゃなければ食べてくれ・・・」
御鈴はそう言うと立ち上がり、何処かへ行こうとする。
このままでは御鈴に避けられ続けてしまう。そう思った俺は、咄嗟に御鈴の腕を
掴んだ。
「そのっ、昼、ごめん!」
慌てて言った言葉に御鈴は振り返ると、悲しそうな笑みを浮かべて首を横に振る。
「蒼汰を人間から外れた体にしてしまった原因を作ったのは妾じゃ。ああ言われ
ても、文句を言う資格はない」
「言い訳になるけど、俺っ、自分でも何であんなこと言ったのか分からなくて、
その・・・」
御鈴の言葉にそう言うが、そこから先の言葉が出てこない。
無理矢理にでもひねり出そうと、目一杯思考を回しながら口を開く。
「えっと、だから、御鈴が気にすることじゃないっていうか、そもそも力をくれって
言ったのは俺だし・・・!」
何を言えば良い、どうすれば御鈴は俺の傍にいてくれる?そんな考えが頭の中を
グルグルと回る。
何か言わないと・・・。そんな思いが思考の邪魔をする。勝手に混乱し始めた頭は
感情までグチャグチャにしていくようで、気付けば涙が溢れていた。
「蒼汰?!」
御鈴が驚いた声を上げる。
「ごめっ、なさい・・・もう、言わないから・・・。嫌いに、ならないでっ、
グスッ、どっか、行かないで・・・!」
ごめんなさい、ごめんなさいと、親に叱られた小さな子供のように謝り続ける。
もうすぐ二十歳だってのに、何やってんだ俺。そんなことを考えながらも、涙を
ボロボロと流していた。
「・・・しゃがめ、蒼汰」
御鈴の言葉に頷き、その場にしゃがむ。涙を拭い続けていた袖はビショビショに
なっていた。
「あのな、蒼汰。妾が悪いのは事実じゃが、その・・・ああ言われると、流石に
傷付く。蒼汰、不満があるなら溜め込まずに言ってくれ、妾を責めてもらっても
構わぬ。だが・・・先に一言言ってくれ、な?」
御鈴はそう言って俺の頭を優しく撫でる。止まらない涙を拭う俺の手をそっと掴み
頬を摺り寄せた御鈴は、優しい笑みを浮かべて言った。
「避けてしまって、悪かった。妾はちゃんと蒼汰の傍にいるぞ」
手に御鈴の体温が伝わる。どっと押し寄せてきた安心感に、頬が緩む。
御鈴は俺の顔を見ると苦笑いを浮かべ、優しく抱きしめてきた。俺も御鈴の背中に
腕を回し、そっと抱きしめる。
「あり、がと・・・」
しゃがれた声で呟く。涙はいつの間にか止まっており、御鈴のフフッと笑う声が
耳元で聞こえた。
「蒼汰、夕飯食べるか?」
御鈴がそう聞いてきたのでコクリと頷く。
「そうか、じゃあついでやるから座って待ってるんじゃぞ」
「え、いや自分で・・・」
俺の言葉に御鈴は良いから良いからと、赤子をあやすように背中をポンポンと
叩く。安心するなあ・・・なんて思いながら、俺は小さく頷くのだった。
―――御鈴が用意してくれていたのはお粥で、俺のために作ってくれていたんだと
実感する。
熱いお粥を息で冷まして、口に運ぶ。昼と同じくあまり味はしないのだが、ほんのり
甘みを感じた。
食べ終わり、食器を片付けようとする。それを御鈴に制され、体温計を渡された。
「やっておくから、熱を測っておれ。まだ顔色悪いままじゃぞ?」
そう言われ、大人しく熱を測る。測定終了の音と共に表示を見ると、昼よりほんの
少ししか熱が下がっていなかった。
これ明日学校行けるのかな・・・なんて考えながら解熱剤を飲む。
「どうじゃった?」
「普通に熱あった・・・」
俺の言葉に御鈴は心配そうな顔をする。だがすぐにニッコリと笑うと、洗い
終わった食器を乾燥機に入れて言った。
「大丈夫じゃ、きっとよくなる!」
今日はもう着替えて寝るんじゃな。そう言った御鈴は、俺の手を取る。
「え、風呂・・・」
「そんなもの明日じゃ!お風呂の中で倒れられても困るからの、妾と一緒に寝よう」
安心させようとしてくれているのか、御鈴は笑顔で言う。
「一緒にって・・・もし風邪だったらうつしちゃいけないし、俺一人で寝るよ」
俺が言うと、御鈴は安心しろ!と胸を張る。
「神や妖は人間よりも丈夫じゃからな、風邪の心配は無用じゃ!」
「その、言って良いのか分かんないけど・・・俺、もう半分以上人間じゃなく
なってるっぽいし、御鈴にもうつるやつなんじゃ・・・」
うつしたりしたら申し訳なさが凄い。そんなことを考えながら言うと、御鈴は
しょんぼりした顔で言った。
「蒼汰は、妾と一緒に寝たくないのか・・・?」
俺は瞬時に首をブンブンと横に振る。
嫌じゃない、むしろ一緒に寝たい!・・・なんて言葉が出そうになったが、喉まで
出かかったところでどうにか押し留めた。
昼食はあまり味がしなくて、味付けミスったかな・・・なんて考えていた。
「ごめんな、味薄かっただろ」
俺が言うと、御鈴は丁度良かったぞ?と首を傾げる。
「味覚も鈍感になっておるのなら、病院に行った方が良いのではないか?」
「・・・こんな体なのに、医者に診せてどうにかなるのかよ」
ふと口から零れた言葉に、自分でも驚く。ハッとして御鈴を見ると、御鈴は目に
涙を浮かべて呟いた。
「・・・すまぬ。妾の所為じゃのに・・・」
「え、いや、違っ・・・!」
慌てて言うが、御鈴は涙を拭い食器を持って部屋を出て行く。
閉まった扉を見て、俺はどうしたら良いか分からず頭から毛布を被った。
―――気付けば眠っていたようで、目を覚ました時には部屋の中は真っ暗だった。
手探りで電気スタンドのスイッチを押す。時計を見ると22時を過ぎており、夕飯も
風呂もまだじゃねえかと起き上がる。
立ち上がり、部屋を出る。きっと御鈴は寝ているんだろうなと思いながら静かに
台所へ向かうと、電気が付いていた。
「あれ・・・?」
不思議に思いながらも近付く。すると物陰に隠れて気付かなかったのだが、そこで
御鈴が地面に座ってウトウトと舟を漕いでいた。
「御鈴、そこで寝てたら風邪引くぞ」
そう言いながら御鈴を揺すると、御鈴は目を開けて俺を見る。だがすぐに気まず
そうな顔をすると、顔を逸らした。
「・・・夕飯、作っておいた。蒼汰が嫌じゃなければ食べてくれ・・・」
御鈴はそう言うと立ち上がり、何処かへ行こうとする。
このままでは御鈴に避けられ続けてしまう。そう思った俺は、咄嗟に御鈴の腕を
掴んだ。
「そのっ、昼、ごめん!」
慌てて言った言葉に御鈴は振り返ると、悲しそうな笑みを浮かべて首を横に振る。
「蒼汰を人間から外れた体にしてしまった原因を作ったのは妾じゃ。ああ言われ
ても、文句を言う資格はない」
「言い訳になるけど、俺っ、自分でも何であんなこと言ったのか分からなくて、
その・・・」
御鈴の言葉にそう言うが、そこから先の言葉が出てこない。
無理矢理にでもひねり出そうと、目一杯思考を回しながら口を開く。
「えっと、だから、御鈴が気にすることじゃないっていうか、そもそも力をくれって
言ったのは俺だし・・・!」
何を言えば良い、どうすれば御鈴は俺の傍にいてくれる?そんな考えが頭の中を
グルグルと回る。
何か言わないと・・・。そんな思いが思考の邪魔をする。勝手に混乱し始めた頭は
感情までグチャグチャにしていくようで、気付けば涙が溢れていた。
「蒼汰?!」
御鈴が驚いた声を上げる。
「ごめっ、なさい・・・もう、言わないから・・・。嫌いに、ならないでっ、
グスッ、どっか、行かないで・・・!」
ごめんなさい、ごめんなさいと、親に叱られた小さな子供のように謝り続ける。
もうすぐ二十歳だってのに、何やってんだ俺。そんなことを考えながらも、涙を
ボロボロと流していた。
「・・・しゃがめ、蒼汰」
御鈴の言葉に頷き、その場にしゃがむ。涙を拭い続けていた袖はビショビショに
なっていた。
「あのな、蒼汰。妾が悪いのは事実じゃが、その・・・ああ言われると、流石に
傷付く。蒼汰、不満があるなら溜め込まずに言ってくれ、妾を責めてもらっても
構わぬ。だが・・・先に一言言ってくれ、な?」
御鈴はそう言って俺の頭を優しく撫でる。止まらない涙を拭う俺の手をそっと掴み
頬を摺り寄せた御鈴は、優しい笑みを浮かべて言った。
「避けてしまって、悪かった。妾はちゃんと蒼汰の傍にいるぞ」
手に御鈴の体温が伝わる。どっと押し寄せてきた安心感に、頬が緩む。
御鈴は俺の顔を見ると苦笑いを浮かべ、優しく抱きしめてきた。俺も御鈴の背中に
腕を回し、そっと抱きしめる。
「あり、がと・・・」
しゃがれた声で呟く。涙はいつの間にか止まっており、御鈴のフフッと笑う声が
耳元で聞こえた。
「蒼汰、夕飯食べるか?」
御鈴がそう聞いてきたのでコクリと頷く。
「そうか、じゃあついでやるから座って待ってるんじゃぞ」
「え、いや自分で・・・」
俺の言葉に御鈴は良いから良いからと、赤子をあやすように背中をポンポンと
叩く。安心するなあ・・・なんて思いながら、俺は小さく頷くのだった。
―――御鈴が用意してくれていたのはお粥で、俺のために作ってくれていたんだと
実感する。
熱いお粥を息で冷まして、口に運ぶ。昼と同じくあまり味はしないのだが、ほんのり
甘みを感じた。
食べ終わり、食器を片付けようとする。それを御鈴に制され、体温計を渡された。
「やっておくから、熱を測っておれ。まだ顔色悪いままじゃぞ?」
そう言われ、大人しく熱を測る。測定終了の音と共に表示を見ると、昼よりほんの
少ししか熱が下がっていなかった。
これ明日学校行けるのかな・・・なんて考えながら解熱剤を飲む。
「どうじゃった?」
「普通に熱あった・・・」
俺の言葉に御鈴は心配そうな顔をする。だがすぐにニッコリと笑うと、洗い
終わった食器を乾燥機に入れて言った。
「大丈夫じゃ、きっとよくなる!」
今日はもう着替えて寝るんじゃな。そう言った御鈴は、俺の手を取る。
「え、風呂・・・」
「そんなもの明日じゃ!お風呂の中で倒れられても困るからの、妾と一緒に寝よう」
安心させようとしてくれているのか、御鈴は笑顔で言う。
「一緒にって・・・もし風邪だったらうつしちゃいけないし、俺一人で寝るよ」
俺が言うと、御鈴は安心しろ!と胸を張る。
「神や妖は人間よりも丈夫じゃからな、風邪の心配は無用じゃ!」
「その、言って良いのか分かんないけど・・・俺、もう半分以上人間じゃなく
なってるっぽいし、御鈴にもうつるやつなんじゃ・・・」
うつしたりしたら申し訳なさが凄い。そんなことを考えながら言うと、御鈴は
しょんぼりした顔で言った。
「蒼汰は、妾と一緒に寝たくないのか・・・?」
俺は瞬時に首をブンブンと横に振る。
嫌じゃない、むしろ一緒に寝たい!・・・なんて言葉が出そうになったが、喉まで
出かかったところでどうにか押し留めた。
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