神と従者

彩茸

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第一部

来客

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―――雑談しながら何度かお茶をおかわりし、そろそろ帰ろうかなと思っていた時。
雨谷がふと雪華を見て言った。

「・・・雪華、迎えに行ってくれる?」

 雪華はかしこまりましたと言って部屋を出て行く。

「何かあったんですか?」

 そう俺が聞くと、雨谷はお茶を啜って言った。

「結界の近くにお客さんが来ててね~。きっと依頼の品取りに来たんだろうな~
 って」

 そういうの分かるものなんですねと言うと、まあね~と雨谷は頷く。

「なら、妾達は帰った方が良いの」

 御鈴がそう言うと、雨谷は湯飲みを置いて言った。

「どっちでも良いよ~。彼、神とかにも縁があるタイプだし」

 君には帰ってほしいけど~と雨谷が利斧を見る。
 そう言われると帰りたくなくなりますねと利斧が笑顔で返すと、雨谷はあっそと
 嫌そうな顔をした。



―――少しして、雪華が戻ってくる。その後ろに居た人を見て、俺は目を丸くした。

「静也さん?!」

「え、蒼汰くん?!」

 静也さんも驚いた顔をして、御鈴ちゃんもいるじゃんと呟く。

「あれ、シズちん知り合いだったの?」

 そう言った雨谷も少し驚いた顔をしており、雪華もあら・・・と声を漏らして
 いた。

「世間って狭いですね」

「狭いにも程があるじゃろう・・・」

 利斧と御鈴がそう言うと、静也さんは利斧を見てどちら様ですか?と首を傾げる。

「初めまして、利斧と申します。雨谷の古い知り合いです」

「初めまして、神宮 静也です。雨谷の・・・あれ、俺って雨谷の何?」

 利斧の言葉に静也さんはそう言って雨谷を見る。

「何って、えーっと・・・オイラのお気に入り?」

 首を傾げて答えた雨谷に、何だそれと静也さんは笑う。仲良いんだろうなあなんて
 思っていると、静也さんが言った。

「蒼汰くんは、どうしてここに?」

「彼に誘われたので」

 俺が利斧を指さすと、なるほどと静也さんは頷く。

「取ってくるから、シズちん座って待ってて~」

 そう言って雨谷は立ち上がり、部屋を出て行く。雪華もお茶を取りに部屋を出て
 行き、俺の横に座った静也さんを利斧が興味深そうな目で見ていた。



―――雪華がお茶を持って戻ってくる。俺達のおかわりも注いできてくれたようで、
もう少しのんびりさせてもらおうかななんて考えていた。

「・・・貴方、雨谷と仲が良いのですね」

 ふと、利斧が静也さんを見て言う。

「まあ、はい。学生の頃から何度もお世話になっているので」

 静也さんがそう言うと、利斧は笑みを浮かべて言った。

「そうでしたか。・・・雨谷に気に入られるくらいですし、貴方も何処か
 でしょうね」

 え、喧嘩売ってる?!と内心驚きながら利斧をバッと見る。
 ニコニコと笑う利斧に、静也さんは苦笑いを浮かべて言った。

「よく言われます。雨谷にも人間としての自覚を持てって度々言われますし・・・」

「・・・静也様は、本当に自覚を持ってくださいませ。見ているこちらが心配になり
 ます」

 雪華が口を挟む。そんなにかと思っていると、部屋の襖が開いた。

「お待たせ~」

 雨谷がそう言いながら部屋へ入ってくる。はいと雨谷が静也さんに手渡した物を
 見て、御鈴が呟いた。

「刀・・・?」

 静也さんは頷くと、鞘から刀身を少し出して言った。

「少し前に倒した妖がすっごい硬くてさ、刃零れしちゃったんだ。それで、雨谷に
 修理頼んでたんだけど・・・」

 静也さんは首を傾げると、雨谷を見る。

「・・・なあ雨谷、これ違う刀だよな?」

「あ、バレた?」

 静也さんの言葉に雨谷はヘラヘラと笑う。

「雨谷様、ちゃんと説明しないと納得して頂けないかと」

 雪華が言うと、雨谷は少し申し訳なさそうな顔で言った。

「いや~、ごめんね?流石のオイラでも、あそこまでボロボロになってたら直せ
 なくてさあ。折ってそれに作り直したんだよね~」

「貴方なら、刀であればどうとでもできると思っていたのですが」

 なるほどと納得している静也さんを横目に、利斧が言う。

「オイラを何だと思ってるのさ。言っとくけど、万能じゃないからね?」

 雨谷が嫌そうな顔でそう返すと、利斧は小さく笑って言った。

「・・・元とはいえ、神のくせに」

 まさか、また怒らせようとしてるのか。
 雨谷は一瞬ゾッとするような冷たい目を見せるが、すぐにヘラヘラと笑う。
 そして、利斧の隣に座って言った。

「それブーメランじゃない?自分じゃ斧の手入れもできないくせにさあ」

 神が万能な訳がないじゃ~ん。そう言ってニヤリと笑った雨谷に、利斧は少し
 不機嫌そうな顔をする。

「け、喧嘩するなよ・・・?」

「そうですよ、喧嘩は良くないですよ!」

 静也さんの言葉に便乗するように言うと、御鈴と雪華もうんうんと頷く。
 利斧と雨谷は互いに嫌そうな顔をして、溜息を吐いた。



―――夕暮れの空を眺めながら、朧車に乗って帰路に就く。静也さんは雨谷の所に
泊まるらしく、気を付けてねと見送られた。

「・・・利斧、機嫌を治したらどうじゃ?」

 ムスッとした顔をしている利斧に、御鈴が呆れた顔で言う。

「まさか追加でぼったくられるとは思わないじゃないですか・・・」

 利斧はそう言うと、ひどいと思いませんか?と俺を見る。

「いや・・・あれは明らかに利斧が悪いですよ。喧嘩売り過ぎですって」

「一々反応してくるのが面白くて、つい・・・」

 俺の言葉に、利斧はボソリと呟く。子供かと突っ込みたくなったが、前に御鈴が
 殆どの神は純粋で子供っぽいと言っていたことを思い出し、溜息を吐くだけに
 留めておいた。
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