神と従者

彩茸

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第一部

選択権

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―――山頂で、用意したサンドイッチやおむすびを皆で囲んで食べる。

「あの・・・利斧さんは、御鈴とはどういう関係なんですか?」

 俺が聞くと、利斧は言った。

「ああ、呼び捨てで構いませんよ。そうですね・・・御鈴が初めて会った神、
 でしょうか。数年間この世界について御鈴に教えていたりもしていたんですよ」

「妾の親みたいなものじゃ。・・・まあ、いつの間にか姿を消しては突然現れる
 ような奴じゃったが」

「こちらにも用事がありましたからね。知らないうちに殺されていないようで
 何よりです」

 御鈴の言葉に利斧はそう言うと、おむすびに齧りつく。美味しそうな顔をして
 食べる利斧に気に入ってくれたようで良かったなんて思っていると、利斧が俺を
 見た。

「そういえば蒼汰さん。貴方、御鈴の従者になってからどれくらい経ってます?」

「蒼汰で良いですよ。えっと・・・半年とちょっとくらいですかね」

 利斧の問いにそう答えると、ちょっと失礼とおむすびを飲み込んだ利斧は俺の胸に
 指先で触れる。
 そして不思議そうな顔で首を傾げ、御鈴を見て言った。

「御鈴、何故半年でここまでしまったのです?」

「・・・え?」

 俺は首を傾げる。御鈴は目を伏せると、泣きそうな声で言った。

「わざとではない。与え過ぎてしまって、それで・・・」

 利斧は溜息を吐く。俺の胸から手を離した利斧は、御鈴の頭をポンポンと撫で
 ながら言った。

「主なら、ちゃんと説明しておきなさい。彼が今どのような状況なのか、そして
 何をしなければいけないのか。良いですね?」

 御鈴はコクリと頷くと、俺を見る。俺に何かあったのか?そう思っていると、
 御鈴は口を開いた。

「あのな、蒼汰。ずっと、言えずにいたのじゃが・・・お主の体は今、
 という状態にある。完全な変質を100とすると、今のお主は50といった感じじゃ。
 これ以上変質が進むと、目に見えて体に影響が出始める。・・・最悪、死を覚悟
 せねばならない」

 本当にすまない。御鈴が、涙を流しながら言う。
 ちらりと利斧を見ると、彼は俺に言った。

「まあ御鈴のことですから、力を与え過ぎた際はどうなるかについて話しています
 よね?あれを教えたのは私なのですが・・・少し、付け足しをさせてください。
 ・・・蒼汰、貴方にはがあります」

「選択権・・・?」

「ええ、御鈴の従者として人間を辞めてでも一生を共に過ごすか、死を選び人間
 として死ぬか。実を言いますと、触れた感じ蒼汰が変質によって死ぬ可能性は
 かなり低くてですね・・・。体質的なものかは分かりませんが、私が今まで
 出会った従者の中でも神の力に適合しやすい精神を持っているのですよ。まあ、
 それでも所詮は人間ですからね。体は耐えられなくなりますし、このままいけば
 人間を辞めるということは確実なのですが」

 首を傾げた俺に利斧はそう言うが、あまりにも急で理解が追い付かない。
 えっと、その・・・と言い淀んでいると、利斧はニッコリと笑って言った。

「安心してください。もし死を選ばれるのであれば、私が責任をもって殺して
 差し上げます」

 利斧が両手を前に突き出すと、ゲームで見るような大きな戦斧が現れる。それを
 掴んだ利斧は、どうされますか?と俺に問う。
 今決めなければいけない、何となくそんな気がした。

「・・・前、御鈴に言われたんです。守るついでで良い、傍にいてくれって」

 だから・・・と俺は御鈴を見る。御鈴はボロボロと涙を流しながら、何も言わず
 俺を見た。

「だから、俺は御鈴の傍にい続けます。それに・・・守ってやるって、言いました
 から。自分の言葉には、ちゃんと責任持ちますよ」

 利斧は俺の言葉を聞くと、そうですかと斧を消す。

「蒼汰・・・」

 御鈴が涙を拭って抱き着いてくる。御鈴の頭を撫でていると、利斧が立ち上がって
 言った。

「御鈴、良い従者を持ちましたね。蒼汰、おむすび美味しかったです。・・・では、
 私はこれで」

「え、暇なんじゃ・・・」

 俺がそう言うと、利斧は笑う。

「少々、用事ができまして」

「用事?」

 空気を読んでかずっと黙っていた令が口を開く。利斧は頷くと、再び手元に斧を
 出現させて言った。

「先程出して気付いたのですが、少々切れ味が悪くなっているような気がしまして。
 知り合いに刀鍛冶をしている者がいるので、研いでもらいに行こうかと」
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