神と従者

彩茸

文字の大きさ
上 下
31 / 150
第一部

選択権

しおりを挟む
―――山頂で、用意したサンドイッチやおむすびを皆で囲んで食べる。

「あの・・・利斧さんは、御鈴とはどういう関係なんですか?」

 俺が聞くと、利斧は言った。

「ああ、呼び捨てで構いませんよ。そうですね・・・御鈴が初めて会った神、
 でしょうか。数年間この世界について御鈴に教えていたりもしていたんですよ」

「妾の親みたいなものじゃ。・・・まあ、いつの間にか姿を消しては突然現れる
 ような奴じゃったが」

「こちらにも用事がありましたからね。知らないうちに殺されていないようで
 何よりです」

 御鈴の言葉に利斧はそう言うと、おむすびに齧りつく。美味しそうな顔をして
 食べる利斧に気に入ってくれたようで良かったなんて思っていると、利斧が俺を
 見た。

「そういえば蒼汰さん。貴方、御鈴の従者になってからどれくらい経ってます?」

「蒼汰で良いですよ。えっと・・・半年とちょっとくらいですかね」

 利斧の問いにそう答えると、ちょっと失礼とおむすびを飲み込んだ利斧は俺の胸に
 指先で触れる。
 そして不思議そうな顔で首を傾げ、御鈴を見て言った。

「御鈴、何故半年でここまでしまったのです?」

「・・・え?」

 俺は首を傾げる。御鈴は目を伏せると、泣きそうな声で言った。

「わざとではない。与え過ぎてしまって、それで・・・」

 利斧は溜息を吐く。俺の胸から手を離した利斧は、御鈴の頭をポンポンと撫で
 ながら言った。

「主なら、ちゃんと説明しておきなさい。彼が今どのような状況なのか、そして
 何をしなければいけないのか。良いですね?」

 御鈴はコクリと頷くと、俺を見る。俺に何かあったのか?そう思っていると、
 御鈴は口を開いた。

「あのな、蒼汰。ずっと、言えずにいたのじゃが・・・お主の体は今、
 という状態にある。完全な変質を100とすると、今のお主は50といった感じじゃ。
 これ以上変質が進むと、目に見えて体に影響が出始める。・・・最悪、死を覚悟
 せねばならない」

 本当にすまない。御鈴が、涙を流しながら言う。
 ちらりと利斧を見ると、彼は俺に言った。

「まあ御鈴のことですから、力を与え過ぎた際はどうなるかについて話しています
 よね?あれを教えたのは私なのですが・・・少し、付け足しをさせてください。
 ・・・蒼汰、貴方にはがあります」

「選択権・・・?」

「ええ、御鈴の従者として人間を辞めてでも一生を共に過ごすか、死を選び人間
 として死ぬか。実を言いますと、触れた感じ蒼汰が変質によって死ぬ可能性は
 かなり低くてですね・・・。体質的なものかは分かりませんが、私が今まで
 出会った従者の中でも神の力に適合しやすい精神を持っているのですよ。まあ、
 それでも所詮は人間ですからね。体は耐えられなくなりますし、このままいけば
 人間を辞めるということは確実なのですが」

 首を傾げた俺に利斧はそう言うが、あまりにも急で理解が追い付かない。
 えっと、その・・・と言い淀んでいると、利斧はニッコリと笑って言った。

「安心してください。もし死を選ばれるのであれば、私が責任をもって殺して
 差し上げます」

 利斧が両手を前に突き出すと、ゲームで見るような大きな戦斧が現れる。それを
 掴んだ利斧は、どうされますか?と俺に問う。
 今決めなければいけない、何となくそんな気がした。

「・・・前、御鈴に言われたんです。守るついでで良い、傍にいてくれって」

 だから・・・と俺は御鈴を見る。御鈴はボロボロと涙を流しながら、何も言わず
 俺を見た。

「だから、俺は御鈴の傍にい続けます。それに・・・守ってやるって、言いました
 から。自分の言葉には、ちゃんと責任持ちますよ」

 利斧は俺の言葉を聞くと、そうですかと斧を消す。

「蒼汰・・・」

 御鈴が涙を拭って抱き着いてくる。御鈴の頭を撫でていると、利斧が立ち上がって
 言った。

「御鈴、良い従者を持ちましたね。蒼汰、おむすび美味しかったです。・・・では、
 私はこれで」

「え、暇なんじゃ・・・」

 俺がそう言うと、利斧は笑う。

「少々、用事ができまして」

「用事?」

 空気を読んでかずっと黙っていた令が口を開く。利斧は頷くと、再び手元に斧を
 出現させて言った。

「先程出して気付いたのですが、少々切れ味が悪くなっているような気がしまして。
 知り合いに刀鍛冶をしている者がいるので、研いでもらいに行こうかと」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

処理中です...