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第一部
襲撃者
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―――それから数日後のことである。料理中に、襲撃を受けた。
折角稲荷寿司を作っていたのに。そう思いながら、御鈴を庇うように前に立つ。
『柏木』
そう言って出した柏木に、神の力を纏わせる。
「タイミング悪すぎるんだよ・・・」
柏木を構えながら言うと、人間に鬼の角を生やしたような姿をした襲撃者は
ニタリと笑った。
「タイミングを図って襲いに来るほど、オレは利口じゃないんでね」
言葉を喋った襲撃者に驚く。今まで襲い掛かってきた奴らは奇声こそ上げど、
こんな風には喋らなかった。
知能の高い奴は厄介だ。そう思いながら警戒の眼差しを向けると、襲撃者は
言った。
「お前、名前は?」
「・・・人に名前を聞くときは、先に名乗れって教わらなかったか?」
突然名前を聞かれたことに驚きつつ、そう返してみる。襲撃者は少し驚いた顔を
した後、クスリと笑って言った。
「これは失礼。オレは糸繰、以後お見知りおきを」
「・・・蒼汰だ」
俺が答えると、襲撃者・・・糸繰はニタリと笑う。そしてまるで敵意を感じさせ
ない歩き方で、俺に近付いてくる。
いつでも殴れるようにと柏木を動かすと、糸繰は言った。
「悪いね、命令なんだ」
その瞬間、俺は壁に背中を打ち付けていた。
一瞬の事で何があったか理解できないでいると、糸繰は御鈴に手を伸ばす。
「やめっ・・・!」
立ち上がろうとするも、背中が痛くて動けない。令が御鈴と糸繰の間に割って
入るが、糸繰が軽く手を振っただけで吹き飛ばされてしまった。
気絶した令を見た御鈴は距離を取ろうと後ろに下がるが、生憎ここは家の中。
すぐに追い詰められてしまう。
躊躇いがちに、御鈴は俺を見る。大方、命令するか悩んでいるのだろう。
「神様、貴女のお名前は?」
糸繰が御鈴の頬に触れる。
何故名前を聞くんだ、知らないのかと思っていると、ふと思い出した。令と初めて
会った日、彼が言っていた言葉を。
妖の中には、名前を使って無理矢理操れる奴もいる。それだけじゃない、呪術に
使われることもある。
もしかして、こいつ・・・!
「答えるな!」
口を開いた御鈴に叫ぶ。御鈴は驚いた顔で俺を見つつ口を閉ざす。糸繰は俺を睨み
つけると、小さく舌打ちをして言った。
「・・・良い従者をお持ちのようで」
糸繰は懐から手のひらサイズの小さな人形のようなものを取り出すと、ブツブツと
何かを呟き始めた。
ゾワリと寒気がし、柏木を持つ手に力を籠める。
「お前、蒼汰って言ったよな」
糸繰の言葉に、まずいと思った。糸繰は何処かから取り出した待ち針を人形の腕に
刺す。
そして、ニタリと笑って言った。
『汝は蒼汰。その体、我が思うままに操らせよ』
その瞬間、柏木を持っていた右腕に激痛が走った。
あまりの痛みに声も出ず、握っていた柏木を落とす。
「蒼汰!!」
俺に駆け寄ろうとした御鈴の首根っこを糸繰は掴み、持ち上げる。暴れる御鈴に
糸繰は困った顔をすると、御鈴に向かって言った。
「あんな使えない従者、捨てちゃえば良いんじゃないですか?神様。使えないものは
捨てる、オレは主にそう習いましたけど」
御鈴は動きを止める。そして、冷たい目で糸繰を見て言った。
「妾の選んだ従者を侮辱するか、貴様」
初めて見る御鈴の表情に、その氷のように冷たい目に、背筋が凍る。糸繰も多少
ビビったようで、表情を強張らせた。
「・・・まあ良いです。オレは貴女の名前が分からないと殺せませんし、取り敢えず
主の所へ連れ帰ります」
ああ、従者と会うのは最後になりますかね。そう言って糸繰がニタリと笑う。
・・・このままだと御鈴が。どうする、そうすれば良い?どんどん強くなっていく
痛みで飛びそうな意識を、どうにか繋ぎ止めながら考える。
もっと俺に力があれば。・・・・・・あれ、力?
「離せ!このっ!」
ジタバタと暴れ続ける御鈴をニタニタと笑いながら掴んでいる糸繰が、クルリと
背を向ける。
俺は胸の辺りが温かくなるのを感じながら、右腕に手を当てて呟いた。
『消えよ』
一瞬にして腕の痛みが消える。そのまま背中に手を当て、もう一度消えよと呟く。
柏木を掴み、痛みの消えた体でゆらりと立ち上がる。そして、思いっ切り地面を
蹴った。跳躍し、家から出て行こうとする糸繰と距離を詰める。御鈴の命令で
動いたあの時のように跳躍は出来ないが、それでもいつもより高く跳んだ気が
する。
柏木を振り上げた俺は、静かに言った。
「俺の主を返せ」
振り返った糸繰は、俺の姿を見て目を見開く。それと同時に柏木を振り下ろすと、
糸繰は御鈴から手を離してそれを避けた。
今の避けるのかよと思いながら、御鈴を守るように立つ。
「何で動ける。オレの呪いは効いてたはずだが?」
糸繰がそう言って俺を睨む。俺は糸繰を睨み返して言った。
「人間舐めんな」
俺の言葉を聞いた糸繰は何かに気付いたようで、ああなるほどと呟く。
「そうか、お前人間だもんな。人間は名前が分かれているんだっけか」
そうだそうだと自嘲するように笑った糸繰は、柏木を警戒しているのか俺から
視線を外すことなく家から出て行く。
「じゃあな蒼汰、また会おう」
ニタリと笑った糸繰は、俺達の前から姿を消した。
折角稲荷寿司を作っていたのに。そう思いながら、御鈴を庇うように前に立つ。
『柏木』
そう言って出した柏木に、神の力を纏わせる。
「タイミング悪すぎるんだよ・・・」
柏木を構えながら言うと、人間に鬼の角を生やしたような姿をした襲撃者は
ニタリと笑った。
「タイミングを図って襲いに来るほど、オレは利口じゃないんでね」
言葉を喋った襲撃者に驚く。今まで襲い掛かってきた奴らは奇声こそ上げど、
こんな風には喋らなかった。
知能の高い奴は厄介だ。そう思いながら警戒の眼差しを向けると、襲撃者は
言った。
「お前、名前は?」
「・・・人に名前を聞くときは、先に名乗れって教わらなかったか?」
突然名前を聞かれたことに驚きつつ、そう返してみる。襲撃者は少し驚いた顔を
した後、クスリと笑って言った。
「これは失礼。オレは糸繰、以後お見知りおきを」
「・・・蒼汰だ」
俺が答えると、襲撃者・・・糸繰はニタリと笑う。そしてまるで敵意を感じさせ
ない歩き方で、俺に近付いてくる。
いつでも殴れるようにと柏木を動かすと、糸繰は言った。
「悪いね、命令なんだ」
その瞬間、俺は壁に背中を打ち付けていた。
一瞬の事で何があったか理解できないでいると、糸繰は御鈴に手を伸ばす。
「やめっ・・・!」
立ち上がろうとするも、背中が痛くて動けない。令が御鈴と糸繰の間に割って
入るが、糸繰が軽く手を振っただけで吹き飛ばされてしまった。
気絶した令を見た御鈴は距離を取ろうと後ろに下がるが、生憎ここは家の中。
すぐに追い詰められてしまう。
躊躇いがちに、御鈴は俺を見る。大方、命令するか悩んでいるのだろう。
「神様、貴女のお名前は?」
糸繰が御鈴の頬に触れる。
何故名前を聞くんだ、知らないのかと思っていると、ふと思い出した。令と初めて
会った日、彼が言っていた言葉を。
妖の中には、名前を使って無理矢理操れる奴もいる。それだけじゃない、呪術に
使われることもある。
もしかして、こいつ・・・!
「答えるな!」
口を開いた御鈴に叫ぶ。御鈴は驚いた顔で俺を見つつ口を閉ざす。糸繰は俺を睨み
つけると、小さく舌打ちをして言った。
「・・・良い従者をお持ちのようで」
糸繰は懐から手のひらサイズの小さな人形のようなものを取り出すと、ブツブツと
何かを呟き始めた。
ゾワリと寒気がし、柏木を持つ手に力を籠める。
「お前、蒼汰って言ったよな」
糸繰の言葉に、まずいと思った。糸繰は何処かから取り出した待ち針を人形の腕に
刺す。
そして、ニタリと笑って言った。
『汝は蒼汰。その体、我が思うままに操らせよ』
その瞬間、柏木を持っていた右腕に激痛が走った。
あまりの痛みに声も出ず、握っていた柏木を落とす。
「蒼汰!!」
俺に駆け寄ろうとした御鈴の首根っこを糸繰は掴み、持ち上げる。暴れる御鈴に
糸繰は困った顔をすると、御鈴に向かって言った。
「あんな使えない従者、捨てちゃえば良いんじゃないですか?神様。使えないものは
捨てる、オレは主にそう習いましたけど」
御鈴は動きを止める。そして、冷たい目で糸繰を見て言った。
「妾の選んだ従者を侮辱するか、貴様」
初めて見る御鈴の表情に、その氷のように冷たい目に、背筋が凍る。糸繰も多少
ビビったようで、表情を強張らせた。
「・・・まあ良いです。オレは貴女の名前が分からないと殺せませんし、取り敢えず
主の所へ連れ帰ります」
ああ、従者と会うのは最後になりますかね。そう言って糸繰がニタリと笑う。
・・・このままだと御鈴が。どうする、そうすれば良い?どんどん強くなっていく
痛みで飛びそうな意識を、どうにか繋ぎ止めながら考える。
もっと俺に力があれば。・・・・・・あれ、力?
「離せ!このっ!」
ジタバタと暴れ続ける御鈴をニタニタと笑いながら掴んでいる糸繰が、クルリと
背を向ける。
俺は胸の辺りが温かくなるのを感じながら、右腕に手を当てて呟いた。
『消えよ』
一瞬にして腕の痛みが消える。そのまま背中に手を当て、もう一度消えよと呟く。
柏木を掴み、痛みの消えた体でゆらりと立ち上がる。そして、思いっ切り地面を
蹴った。跳躍し、家から出て行こうとする糸繰と距離を詰める。御鈴の命令で
動いたあの時のように跳躍は出来ないが、それでもいつもより高く跳んだ気が
する。
柏木を振り上げた俺は、静かに言った。
「俺の主を返せ」
振り返った糸繰は、俺の姿を見て目を見開く。それと同時に柏木を振り下ろすと、
糸繰は御鈴から手を離してそれを避けた。
今の避けるのかよと思いながら、御鈴を守るように立つ。
「何で動ける。オレの呪いは効いてたはずだが?」
糸繰がそう言って俺を睨む。俺は糸繰を睨み返して言った。
「人間舐めんな」
俺の言葉を聞いた糸繰は何かに気付いたようで、ああなるほどと呟く。
「そうか、お前人間だもんな。人間は名前が分かれているんだっけか」
そうだそうだと自嘲するように笑った糸繰は、柏木を警戒しているのか俺から
視線を外すことなく家から出て行く。
「じゃあな蒼汰、また会おう」
ニタリと笑った糸繰は、俺達の前から姿を消した。
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