神と従者

彩茸

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第一部

武器

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―――家に帰り、昼食を作る。パンにハムやレタスを挟んだ簡単なサンドイッチを
皿に乗せ、御鈴の前に置く。

「蒼汰、明日も休みか?」

 御鈴がそう聞いてきたので頷くと、御鈴は膝に乗せた令を撫でながら言った。

「明日は妾に付き合え。お主は見ていて心配になる、だから妾が力の使い方を教えて
 やろう」

「え、良いのか?」

「当り前じゃ。大切な従者が力の使い過ぎで死ぬなんて、妾は絶対に嫌じゃからな」

 そう言って御鈴は頷く。
 テーブルの下にキャットフードを入れた器を置き、自分の席にサンドイッチを
 持って座る。いただきますと手を合わせ食べ始めると、御鈴の膝から降りた令が
 俺を見上げて言った。

「なあ蒼汰、ボクもそれ食べたい」

「いや、猫にハムは与えちゃ駄目って書いてあったし。令は食わない方が良いと
 思う」

 俺の言葉に、令は不服そうな顔をしながらもキャットフードを食べ始める。
 やっぱり猫又も猫だよな?なんて考えつつ、俺はサンドイッチに視線を戻した。



―――次の日。御鈴と俺は、俺達が出会った山に居た。
どうやら御鈴は俺と二人きりが良いらしく、付いて行こうとした令に来るなと言って
いた。

「えっと・・・御鈴?」

 先程から無言で俺に抱き着いたまま離れない御鈴に、声を掛ける。
 御鈴は顔を上げると、心配そうな顔で俺を見て言った。

「・・・蒼汰、無理してないか?妾の与えた力が、蒼汰の体を蝕んでおる気が
 しての」

「え?特に何も感じないけど」

「自覚がないならまだ良い。・・・じゃが、異変を感じたら妾にすぐ言えよ?」

 与える量が多かったのかもしれぬ。そう呟いた御鈴は、俺からそっと離れる。

「昨日の戦いを見て思ったが、お主はあの棒に神の力をそのまま引っ付けて戦って
 おった。分かりやすく例えるならば、木の棒にそれっぽい形の石を括り付けて、
 斧ですと言い張っているようなものじゃな」

 御鈴はそう言うと、手元に長い棒を出現させた。
 俺が使っているものとは少し違うそれを地面に突き刺しながら、御鈴は続ける。

「身長の問題で妾はこれを振り回せぬが・・・力のは教えられる。ただ
 石を括り付けただけの斧のようなものでは木を切ることはできぬからの、加工
 して使えるようにするといった感じじゃ」

「それができるようになれば、力を一度に消耗させ過ぎるって事がなくなるのか?」

 俺が聞くと、そうじゃと御鈴は頷く。

「少ない力で威力も上がる。そっちの方が良いじゃろう?」

 そう言った御鈴に、そうだなと俺は頷いた。



―――それから数時間経ち、俺は地面に座り込んでいた。御鈴に教わった方法で、
神通力を使って出したいつもの長い棒に神の力を纏わせる練習を続けていたのだが、
御鈴のOKが出ないまま気付けば地面に膝を突いていた。

「良くはなっておる、良くはなっておるんじゃが・・・」

 何でかのう・・・と御鈴は俺に寄り添いながら言う。

「何かごめん・・・」

 そう言いながら襲ってくる眠気に抗おうとしていると、御鈴が言った。

「そういえば蒼汰。お主が棒を出す時、柏木と言っておったが・・・それが何か
 分かっておるか?」

「え?いや、何か思い浮かんだから言ってるだけだけど・・・」

 俺がそう言うと、やはりかと御鈴は納得したように言う。

「《柏木》はの、その棒の名前じゃよ」

 そう言って俺の足元に置いた棒を御鈴は指さす。そうだったのか?!と驚くと、
 知らずに使えていたのが不思議でならんと言われた。
 驚きで眠気が吹っ飛びクリアになった頭で考える。棒・・・柏木に力を纏わせる
 イメージはできているつもりだが、御鈴曰くまだ力を注ぎ過ぎているらしい。
 使った力は回復するまで戻らないので、もっと少ない力で全体に力を纏わせる
 必要がある。
 ・・・今まで直感でどうにかしていたが、いざ考えてみると難しい。
 柏木、かあ・・・と思いながら柏木に触れる。
 すると突然、言葉が頭に思い浮かんできた。あれ?と思いながら口を開く。
 胸の辺りが温かくなるのを感じながら、俺は言った。

『契りの遂行がために汝を使わせよ。諸共に主を守らん』

 御鈴が驚いた顔で俺を見る。
 何で突然あんな言葉・・・と思いながら棒を手に取ると、今までとは違う不思議な
 感じがした。
 まるで自分の一部であるかのような感覚。それにビビッていると、御鈴が言った。

「な、何故今の一瞬で綺麗に纏えるようになったんじゃ・・・」

「何か突然言葉が浮かんできて」

 そう言うと、御鈴は独り言のようにブツブツと呟いた。

「主従・・・いや、共闘か?蒼汰の神通力に柏木が意思を持って応えた・・・。
 武器に意思が宿るというのは聞いたことがあるが、まだ数ヶ月程度じゃぞ?
 そんなことが有り得るのか・・・ふむう・・・」

 暫く悩んでいた様子の御鈴は、まあ細かいことは良いか!と笑って俺を見る。

「できたことに変わりはないからの、凄いぞ蒼汰!」

 御鈴がそう言って俺の頭を撫でる。恥ずかしさと共に込み上げてきた嬉しさに、
 俺は笑みを零した。
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