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第6章 ガルアシラ・ヴォルフォンシアガルド編

221 相反

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〈…………なるほどな〉

 エドの言葉に、俺はすぐにそう反応した。

 驚きはしたが、考えてみれば納得の答えだ。
 異世界に転生した人間の目的としては、当たり前すぎて逆に盲点だった。

〈ええと、つまりあんたも、魔王の力を持ってるってことか〉

「ええ」

 そう言ってエドは手袋を脱いで右手のひらをこちらに向けた。
 そこには、背後の肉塊と同じようなものが埋め込まれていた。

〈魔王の肉片を移植したのか……?〉

「そうです。今は制御していますが、これを活用すれば他人の精神を自由に操り、ショック死させることも可能です」

〈…………〉

「すでにご存知でしょうが、僕は天空塔ダンジョンでヘルメスの残滓から魔王のことを聞きました。そしてすぐにこのことを思いついたのです。魔王の力を利用すれば元の世界に戻ることができる。それもこの世界でしか使えない能力を持った状態でね」

〈それを達成するために、チェインハルト商会を作ったのか〉

「その通りです。冒険者たちにダンジョンを探索させて魔王の破片を探し、実験に必要な魔鉱石も採掘しました。そして魔王が用いていた術式と、ヘルメスが残した術式の再発見と解析……それらを続けることで、元の世界へ戻る方法を生み出したのです」

 それがクーネアさんが言っていた大規模な実験……。
 だが、もちろんエドは彼女にその通り語っちゃいなかったんだろうな。
 帝国に対抗する強力な兵器の開発とでも言ってたんだろう。

「元の世界に戻るには、膨大な魔力と因果を歪める強力な術式。そして一度繋いだゲートを、元の世界が崩壊しないように安全に閉じるまで魔力を供給し続ける原料が必要になります」

 最初の『膨大な魔力』は魔王。
 次の『強力な術式』は俺。

 ん?
 じゃあ最後の『魔力を供給し続ける原料』は?

 まさか……。

「察しがいいですね。そうです。『この世界』ですよ」

 やっぱりか。

 エドが今やっていることを続ければ、この星が崩壊するという話だった。
 でもエドが何のためにそんなことをしようとしているのかは不明とも。

 破滅願望でもなきゃそんなことやる意味はないものな。

 けど、エドがこことは別の世界を視野に入れているなら話は別だ。

 自分が元の世界に帰る。
 そのためなら、こっちの世界はどうだっていい。
 そういうことか。

「この世界は『物質』と『魔力』がバランスを保って存在していますが、両者は本質的には同じものです。そして均衡を傾けてしまえば、片方が消え去るまで変換が続きます」

 そして、この世界は魔力だけとなり、二つの世界を結ぶゲートを安全に閉じるための燃料として消費される……。

 もしかしたら。
 俺たちが元いた世界も昔は『物質』と『魔力』が均衡していたのかもな。
 それが物質側に偏って、現代では『魔力』はほとんど残っていない。
 だから魔法は現代には存在しなくなった。
 ……なんてこともあるかもしれない。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 それよりエドだ。

〈そんなことはさせるわけにはいかないな〉

「なぜです? こんな野蛮で遅れた世界などどうなっても構わないでしょう? 元の世界に戻りたいとは思わないのですか? 魔王の力を持っていれば、どんなことでも思いのままなんですよ?」

 ああ……なるほどな。

 こいつはこの世界が嫌いなんだな。
 あるいは、元の世界のことも。

 だから滅んでもいい。
 魔王の力で蹂躙したい。
 そう思ってる。

 俺も、まあ元の世界に戻りたいって思ったことは何度もあるさ。
 けど、それとこれとは話が別だ。

〈悪いな。俺は、こっちの世界に失いたくないものがいくつもある〉

 だから崩壊なんかされちゃ困るんだよ。

「そうですか……まあ、それでも計画は変わらないのですがね」

 何だって?

「クーネア、こちらへ」
「……はい」

 エドの呼びかける声に、答える声がした。

 クーネアさん!?
 いつの間に!
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