上 下
152 / 286
第4章 フィオンティアーナ編

128 城門前にて

しおりを挟む
 どうも、リビングアーマーの俺です。
 隣にいるのは人犬族のロロコ。
 反対隣はエルフのクラクラ。
 斜め後ろにドワーフ嬢のアルメル。
 鎧の中にゴブリン嬢のラファ。
 そして俺たちを先導するのはドラゴン娘のドグラだ。

 ラファの魔力過活性症を治すため、医者がいるフィオンティアーナにやってきた。
 ……のはいいんだけど。

 到着すると、城門の前には長蛇の列。
 なんでも、侵入者があったとかで検問が強化されてるらしい。

 まいったな……。
 と思っていると、ドグラが「すぐに入れる」と言い出したのだ。

 よく分からないまま、俺たちは彼女についていく。

 ドグラは長蛇の列を無視して、どんどん城門に向かっていく。
 列に並んでいる人たちが俺たちを奇異な目で見てくる。

 そりゃそうだろう。
 どう見ても横入りしようとしてるようにしか見えない。

 実は、他にも何人か列を無視して城門を抜けている者がいた。
 けどそれは、豪華な馬車に乗った貴族とかだった。
 どうやら、中にいる要人と会う約束があったりするみたいだった。

 俺たちはどう見ても、そんな約束があるようなメンバーには見えない。

 しかしドグラは平然と城門の前まで来て、

「おい」

 列を監視している兵士に声をかけた。

「ああん? なんだお嬢ちゃん」

「我らは今すぐここを通りたい。すぐにメディシア家の当主に知らせろ」

「っ……お名前をお聞きしても?」

 当主と聞いて口調が急に丁寧になったな。

「ドグラじゃ」

「ドグラ様? ドグラ様、ドグラ様……」

 兵士は持っていた紙束をめくる。
 どうやら中の人間と約束がある人物をあらかじめ書き記してあるらしい。

「ないなぁ……ええと、当主のラフィオン様で合ってます? お約束は何時ですか?」

「約束? そんなものはない」

「ない? ええと、おそれながら、本当にラフィオン様とお知り合いの方ですか?」

「いや、知らぬ。ラフィオンとやらと会うたことは一度もないの」

「…………」

 ドグラの言葉に兵士は盛大なため息をついた。
 と思ったら俺の方を睨んできた。

「ちょっとあんたねえ。娘の遊びに付き合ってないでおとなしく並んでなきゃだめだよ。こっちだって暇じゃないんだ」

 ブツクサ言ってくる兵士。
 いや、そんなこと言われても……。

「おい」

 と、ドグラは兵士に呼びかける。

「今すぐラフィオンとやらに伝えろ。執務室の左から二番目の棚の、上から三番目の引き出しに入っている箱を開封して中の手紙を読め、とな」

「あのねぇお嬢ちゃん――」

「良いのか? これを知らせなかったことで、そなたは仕事をクビになるやも知れぬぞ。それどころか、フィオンティアーナから永久追放されるかもな。あるいは家族もろとも縛り首に……」

「ちょ、ちょちょ!」

 焦った口調でドグラを止める兵士。
 ちょっと困惑してる。
 ただの子供のお遊びに思えなくなってきたんだろうな。

 わかる。
 ドグラの口調と表情、年季が入ってて怖いんだよ。

「ええと……お手数ですけど、一応確認してもらえますか?」

 アルメルがそう言って、すっ、と兵士になにかを渡す。
 兵士はそれをしまうと、

「仕方ないな。待っていろ」

 そう言って、門の内側にいる兵士のところへ歩いていった。

〈今なにを渡したんだ?〉

「これです」

 あ、銀貨!

「こういうときスムーズに運ぶなら大した出費ではありません。ヴォルフォン貨じゃないからそこまで価値は高くないですしね」

 そうなのか。
 ええと、ヴォルフォンっていうのはヴォルフォニア帝国の通貨単位だったな。
 この世界では一番価値が安定してるって話だったはず。

 そうじゃないってことは、べつの国が発行している通貨ってことになる。
 価値が低いってことはつまり……。

「ドワーフ貨か。珍しいな」

 クラクラが言ってくる。

〈ドワーフ貨?〉
「その通り、ドワーフ族の間で使われている通貨だ。純度は高くないが、造形が細かいので収集品として人気がある」
〈へー〉

 そうだそうだ。
 通貨の価値は純度で決まるんだった。

 ……ドワーフ貨はそれだけじゃないみたいだな。

「中には宝飾品と同等の扱いをされるような名品もあると聞いたことがある」

 そりゃすごい。

「まあ私はそこまでのものは持ってないですけどね。こういうときに便利なので何枚かは持ち歩いてるんです」

 なるほどな。
 俺たちの世界で言う記念硬貨とかそういうのに近いのかもな。

 なんて話してると、さっきの兵士が戻ってきた。
 なんかやけに急いでいる。
 それに顔が青い。

「ああああああの!」

 兵士は俺たちの前で直立の姿勢を取ると、身体が半分に折れるくらい深く礼をした。

「ささささ先ほどは大変失礼をいたしましたっ! ラフィオン様がお会いになられますのでどうぞこちらへっっっ!」

 なんだこの急変。
 なにがあったの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...