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第3章 絶海の孤島ダンジョン編

EX14 商人と帝国騎士団長の話

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 ヴォルフォニア帝国最南端の都市バリガンガルド。
 先日ドラゴンの復活に伴う地震と魔響震によって大規模な被害を受けた。
 しかし、冒険者によって利益がもたらされ活気のある街は復活も早かった。
 住民たちの活動により、街は元の賑わいを取り戻しつつあった。

 そんなバリガンガルドの冒険者ギルド。

 建物自体は崩壊してしまったが、庭に幕屋を建てて仮営業中である。
 石材が運び込まれ、建物も復旧が進められていた。

 そんなギルドの敷地の一角で、二人の男が会話を交わしていた。

 一人はチェインハルト商会の若き会長エド。
 もう一人は巨体に鎧を身につけた武人だった。

 ヴォルフォニア帝国騎士団長のガイアンであった。

「わざわざお会いいただきありがとうございます、ガイアン様」

 丁寧に礼を述べ、頭を下げるエドにガイアンは小さく鼻を鳴らす。

「巡察のついでだ。それよりチェインハルト商会がなんの用だ? ガレンシア公国への技術供与をやめろという冒険者ギルドの要求なら、いくらしても無駄だぞ?」

 ガレンシア公国はヴェルターネックの森を挟んだ大陸南部にある小国である。
 ガレンシア公はヴォルフォニア帝国領のバリガンガルドの城主でもある。
 つまりガレンシア公は一国の主でありながら、帝国の家臣でもあるのだ。

 そういった関係からガレンシア公は、帝国から軍事技術の提供を受けていた。
 帝国の進んだ軍備を取り入れて、大陸南部で有利な地位を占めようとしているのだ。

 これに抗議しているのが冒険者ギルドだった。

「ただでさえ大陸情勢はきな臭いですからね。これ以上戦乱の種が増えれば、冒険者の活動が抑制されてしまいます。そうなれば冒険者ギルドは運営が難しくなります」

 冒険者ギルドはどこの国にも所属しない独立組織である。
 土地を持たず、所属する冒険者から得る利益だけで運営されている。

 利益の内容は様々だ。
 冒険者が得た魔物素材の取引の仲介料。
 国などからの高額依頼の紹介料。
 ダンジョン保険などの保険料から出る利益、などなど。

 しかしどれも、冒険者が活動してこそ得られるものである。
 大陸中で戦争が起こって冒険者が冒険をしなくなれば、ギルドへの利益もなくなる。

「貴様の商会もギルドとの取引で儲けている。その儲け口がなくなるのは避けたいということか」

 チェインハルト商会の事業は大きく三つ。
 魔鉱石の採掘事業。
 それを材料にした商品の生産。
 そしてその販売である。

 冒険書や魔鉱石を利用した冒険アイテムなど、そのほとんどは冒険者ギルド向けだ。

 冒険者ギルドが儲からないと、取引をしているチェインハルト商会も困る。
 だから会長直々に釘を刺してきた。

 ……とガイアンは考えたのだが、

「違いますよ」

 エドはあっさりとその考えを否定してきた。

「そもそも、その件についてのご相談なら、お会いすべきはあなたではなく、軍務大臣のカッセル様でしょう?」
「む……たしかにな」

 ガイアンは帝国の騎士団を統率するが、帝国の軍事的な方針は軍務大臣と皇帝に決定権がある。

「ではなんの用だ?」
「発掘のお手伝いをお願いしたいと思いまして?」
「発掘?」

 エドの思いもよらない発言にガイアンは眉をひそめる。

 騎士団に向かって発掘とは場違いもはなはだしい。

「それは学者連中の仕事だろう。なぜわざわざオレに声をかける?」

「危険だからですよ。発掘場所も、発掘したいものも」

 エドはニヤリと笑みを浮かべて答える。

「帝国の精鋭、ヴォルフォニア騎士団でなければ頼めないのです。なにしろ大規模な人員の投入が必要ですのでね」

「……いったい、どこでなにを掘り出すというのだ」

 怪訝な表情のままのガイアンに、エドは笑顔のまま答える。

「場所は絶海の孤島ダンジョン。目的は、ゴーレム軍団の発掘です」
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