上 下
81 / 286
第2章 バリガンガルド編

70 進撃のリビングアーマー軍団

しおりを挟む
 どうも、リビングアーマの俺です。
 どうも、リビングアーマの俺その2です。
 どうも、リビングアーマの俺その3です。
 どうも、リビングアーマの俺その4です。
 どうも、リビングアーマの俺その5です。
 どうも、リビングアーマの俺その6です。
 どうも、リビングアーマの俺その7です。8です。9です――

 え、それはもういいって?

 いやーごめんごめん、なんか楽しくなっちゃってさ。

 なにしろ五十四体である。
 俺が五十四体、横に並んで道を進撃しているのだ。

 チェインハルト商会のエドに借りた魔響震対策済みの最新鎧。
 そこに俺の意識をコピーさせてある。

 それが街の南城壁を出て、ドラゴン復活間近の湖に向けて進軍中というわけだ。

 手には剣と盾を装備している。
 超強そう。

 しかも、

 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 ドラゴンが眠る湖に近づくにつれて魔響震がどんどん大きくなってる。
 けど!
 なんともない!

 前の鎧だとあんなに気持ち悪くなったのにな。

 というわけでいざドラゴン退治!

 いや倒さないんだっけ。
 封印するだけ。

 五十四体いるオレのうちの一人が、エドから預かった金属板を持っている。
 そこにはドラゴンの魔力を封じる魔法陣が描かれている。

 これをドラゴンの口に放り込めばミッションコンプリートだ。

 うまくいくかな……。

 まあ最悪この五十四体が全部ぶっ壊れても問題ない。
 オレの意識はもともと宿っていた鎧の方にも残してあるからだ。

 この街に来るまで使っていたやつね。
 魔響震の影響で意識を失って。
 そのあと街のあちこちに行っちゃってたけど。

 そのあと南城壁に集まりつつある。

 そっちの様子も見ておこうか。

◆◇◆◇◆

 はい、こちら南城壁上のオレです。

 ロロコと兜パーツ。
 ラッカムと右脚パーツ。
 エドと左脚パーツ。

 この三人と三つが揃ってる。

 ドワーフ嬢のアルメルと胴体パーツはここに向かっている途中。

 残る腕パーツはまだエルフのクラクラに装着されている。
 クラクラは休憩を終えて、また亀モンスターの討伐を行っている。
 タフだなぁ……。

 しかし、おかげで亀モンスターはだいぶ数を減らしていた。

 中には暴走をやめて動かなくなった奴もいる。
 街に突っ込めば討伐されるし、かといって湖畔に戻ればドラゴンがいるし……。
 と亀も困っているのだろう。

 そんな状況で絶賛バトル中だが、城壁ではなんか重要な話をしてる。
 ええい、場面が飛んでややこしいな。

 なんだって?

 ロロコの仲間はここに来てない?

 え、どういうこと?

 ラッカムさんが人犬族のみんなを連れてきてると思っていた。
 オレとロロコはそこに合流するためにこのバリガンガルドまでやってきた。

 なのにいないって……。

「心配しないでくれ。人犬族のみんなは安全だ」

 とラッカムさん。

「なんで?」

 と首を傾げるロロコ。
 疑ってるっていうより、単純にわからないって顔だな。

 そりゃそうだ。
 ついこの間まで領主にひどい扱いを受けていたのだ。

 なのにもう問題がなくなったなんて簡単に信じられない。

「私から説明いたしましょう」

 とエドが言ってくる。
 え、なんであんたが?

「人犬族の皆さんには生活の安定と安全を保障し、賃金も支払った上で、魔鉱石の発掘を行ってもらっています」

 ほーん?

 エドの話によれば、あのクソ領主は森で行方不明になってしまったらしい。
 おそらくは魔物に殺されたんだろう、とのこと。

 で、今あの土地は隣の領主が治めることになったらしい。

 その領主はチェインハルト商会と結びつきがあった。
 それで魔鉱石の採掘を商会が担うことになったそうだ。

「もともと我が商会には採掘の技術や道具が揃っていますからね。大陸の各地でそのような仕事をやらせていただいています」

 つまり、商会が人を雇い魔鉱石を掘り出す。
 取り決めておいた利益の一部をその鉱山の持ち主に支払う、という形だ。

 魔鉱石は魔力をよく伝達する素材のこと。
 それらは冒険者が使う魔道具の材料になるのだ。

 おお、オレの冒険書の背表紙に嵌め込まれている宝石みたいな石。
 これのことだな。

 なるほどね。

「採掘を鉱山の持ち主に一任している土地も多いのですが、あの領主――バルザックのような例があるのなら、商会が直に管理する場所を増やしたほうが良いでしょうね」

 困ったものです、と首を振るエド。

 うん。
 胡散臭い奴だなーと思ってたんだけど。

 ひょっとしていい人なのかなこの人?

 オレに鎧貸してくれたし。
 いや、ドラゴンが暴れたら商会も困るからってことなんだろうけど。

 あれだよあれ。
 利益目当てだってはっきりしてる奴はむしろ信用できる、みたいな。

 そんなことを話している間に、胴体パーツとアルメルも城壁に到着した。

「いーやー! ひーとーさーらーいー!」

 相変わらず叫んでるなードワーフ嬢。

「…………」
「…………」
「…………」

 ちょっと!
 みんなして白い目で見るのやめてくださいよ!

 どっちかっていうと最初にオレを勝手に身につけて攫ったのあの子の方だから!

〈ロロコ。この絡まってるベルトを外してくれ〉
「そのあとロープで縛ればいい?」
「ひっ!」
〈やらんでいいやらんでいい〉

 しばらく暴れていたアルメルだったけど。
 周りにオレ以外の人間がいることでちょっと落ち着いたようだった。

 特に、エドとは顔見知りだったみたいだ。

 さすが商人。
 顔が広いな。

「ありがとうございます、アルメルさん。あなた方ドワーフ族の作ってくれた鎧が、さっそく役に立とうとしています」

 エドがアルメルにそんなことを言っている。

 なんと。
 あの鎧、アルメルたちがつくったものだったのか。

 そりゃあ大感謝だな。

 と思ったら。

「え! あの鎧使ったんですか!」

 あの、アルメル嬢。
 そんな青い顔するのやめてくれませんかねえ。

 嫌な予感しかしないんですが。

「……なにか問題がありましたか?」
「早く伝えなきゃと思ってたんですが……」

 静かに問うエドに、アルメルは答える。

「あの鎧の術式、ミスがあるんです」

 なんだとおおおお!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...