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第2章 バリガンガルド編
EX10 盗賊とエルフの国の話・Ⅲ
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「ギルバート……っ」
ラザンは、自分がエルフの王の前にいることも忘れて目の前の男を睨みつけた。
彼の仲間の盗賊たちの態度も似たようなものだった。
ギルバート。
ラザンたちの出身国であるガレンシア公国の官僚である。
それがなぜこのようなところに……。
「こ、これは管理長官殿」
エルフの国、フリエルノーラ国の国王が口を開く。
どちらが国王か分からなくなりそうな、気を遣った態度である。
「もしかして、お知り合いなのですかな?」
そうであればありがたい、という調子で国王は言う。
それはそうだろう。
なにしろ彼はラザンたちに、この男と自分たちの仲介役をさせようとしているのだ。
「いえ、知らないですね」
しかしギルバートはあっさりと首を振った。
誤魔化している感じではない。
本当にラザンたちのことを覚えていないのだろう。
彼にとっては、自分の出世のために利用した数多くの村落の一つに過ぎないのだ。
「お前……!」
「待てっ」
怒りにかられて飛び出しそうになる仲間を抑える。
ここで騒ぎを起こしてもいいことはなにもなさそうだ。
「しかし汚い者たちですね」
ギルバートはラザンたちを見下すような目で見てくる。
(同じだ……)
あのとき。
ラザンがぐちゃぐちゃのぬかるみの中で膝をつき、下げた頭に足で泥をかけ、見下ろしてきたときと同じ目をしている。
それがなければ今年の冬を越せないと、どうか一握りでいいから置いていってくれと頼んだ麦を奪っていったあのときと同じ目だ。
ギルバートはあっさりとラザンたちから目を逸らし、エルフの国王に向かって言う。
「明日にはガレンシア公が本国よりお越しになられます。くれぐれも失礼のなきようお願いしますよ」
「は、はい、それはもちろんです」
腰の低い態度で何度も頭を下げる国王。
ギルバートはそんな王の様子に小さく鼻を鳴らすと、玉座の間を立ち去っていった。
◆◇◆◇◆
「いや、無理だっての」
再度仲介役を頼み込んできたエルフの国王に、ラザンは首を横に振る。
仲間の三人は先に部屋に連れていってもらった。
ギルバートを見て頭に血が上っていた彼らはこの場にいてもまともに話はできないだろう。
「いいか? もう一回説明するぞ? ガレンシア公は公国の主人だが、同時にヴォルフォニア帝国領の都市バリガンガルドの城主でもある。ガレンシアってのは実質ヴォルフォニア領みたいなもんなんだ」
もちろん表向きは独立国みたいな顔をしているが、実際にはガレンシア公国は、ヴォルフォニア帝国に税金を納める代わりに、かなりの軍事力の提供を受けている。
その軍事力のせいで大陸南部に戦乱が広がったり、ガレンシア公国が領内に圧政を敷いたり、属国を苦しめたりしているのでいい迷惑なのだが――国を捨てたラザンたちには関係のないことだ。
「ガレンシアがあんたたちから税を搾り取りたいのは、そうしないとガレンシアもヴォルフォニアに税が払えなくなるからだ。だから俺たちが仲介しようとどうしようと、ガレンシアはあんたたちの独立なんて認めてくれないんだよ」
「そんな……」
国王は意気消沈してうなだれた。
ラザンは内心ため息をつく。
この国のエルフたちは人が良すぎる。
自治権を得るために十人の冒険者登録を目指していたらしいが、その努力の前に、国同士の関係を調べるべきだったのだ。
「悪いが俺たちにできることはない。ガレンシアに搾り尽くされる前に、どこか別の土地に逃げることをお勧めするぜ」
「…………」
重い空気が玉座の間を包む。
気まずい気分でいるところに、エルフの兵士が駆け込んできた。
「た、大変です!」
「何事ですか?」
問いかける国王に、兵士はラザンの方を見て言ってきた。
「ラザンさん、あなたの仲間が――ギルバート様を殺そうとして……逆に……」
ラザンは、自分がエルフの王の前にいることも忘れて目の前の男を睨みつけた。
彼の仲間の盗賊たちの態度も似たようなものだった。
ギルバート。
ラザンたちの出身国であるガレンシア公国の官僚である。
それがなぜこのようなところに……。
「こ、これは管理長官殿」
エルフの国、フリエルノーラ国の国王が口を開く。
どちらが国王か分からなくなりそうな、気を遣った態度である。
「もしかして、お知り合いなのですかな?」
そうであればありがたい、という調子で国王は言う。
それはそうだろう。
なにしろ彼はラザンたちに、この男と自分たちの仲介役をさせようとしているのだ。
「いえ、知らないですね」
しかしギルバートはあっさりと首を振った。
誤魔化している感じではない。
本当にラザンたちのことを覚えていないのだろう。
彼にとっては、自分の出世のために利用した数多くの村落の一つに過ぎないのだ。
「お前……!」
「待てっ」
怒りにかられて飛び出しそうになる仲間を抑える。
ここで騒ぎを起こしてもいいことはなにもなさそうだ。
「しかし汚い者たちですね」
ギルバートはラザンたちを見下すような目で見てくる。
(同じだ……)
あのとき。
ラザンがぐちゃぐちゃのぬかるみの中で膝をつき、下げた頭に足で泥をかけ、見下ろしてきたときと同じ目をしている。
それがなければ今年の冬を越せないと、どうか一握りでいいから置いていってくれと頼んだ麦を奪っていったあのときと同じ目だ。
ギルバートはあっさりとラザンたちから目を逸らし、エルフの国王に向かって言う。
「明日にはガレンシア公が本国よりお越しになられます。くれぐれも失礼のなきようお願いしますよ」
「は、はい、それはもちろんです」
腰の低い態度で何度も頭を下げる国王。
ギルバートはそんな王の様子に小さく鼻を鳴らすと、玉座の間を立ち去っていった。
◆◇◆◇◆
「いや、無理だっての」
再度仲介役を頼み込んできたエルフの国王に、ラザンは首を横に振る。
仲間の三人は先に部屋に連れていってもらった。
ギルバートを見て頭に血が上っていた彼らはこの場にいてもまともに話はできないだろう。
「いいか? もう一回説明するぞ? ガレンシア公は公国の主人だが、同時にヴォルフォニア帝国領の都市バリガンガルドの城主でもある。ガレンシアってのは実質ヴォルフォニア領みたいなもんなんだ」
もちろん表向きは独立国みたいな顔をしているが、実際にはガレンシア公国は、ヴォルフォニア帝国に税金を納める代わりに、かなりの軍事力の提供を受けている。
その軍事力のせいで大陸南部に戦乱が広がったり、ガレンシア公国が領内に圧政を敷いたり、属国を苦しめたりしているのでいい迷惑なのだが――国を捨てたラザンたちには関係のないことだ。
「ガレンシアがあんたたちから税を搾り取りたいのは、そうしないとガレンシアもヴォルフォニアに税が払えなくなるからだ。だから俺たちが仲介しようとどうしようと、ガレンシアはあんたたちの独立なんて認めてくれないんだよ」
「そんな……」
国王は意気消沈してうなだれた。
ラザンは内心ため息をつく。
この国のエルフたちは人が良すぎる。
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「悪いが俺たちにできることはない。ガレンシアに搾り尽くされる前に、どこか別の土地に逃げることをお勧めするぜ」
「…………」
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「た、大変です!」
「何事ですか?」
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