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第2章 バリガンガルド編

68 バリガンガルドの城主(いない)

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 冒険者ギルドで冒険者として登録してもらおうとしてやってきたバリガンガルドの街。
 しかし、魔響震と地震が起きて、亀モンスターの群れも襲ってきて街はパニック。
 しかももうすぐドラゴンが復活しそうなんて話も出てる。

 そしてリビングアーマーの俺はバラバラになって街の各地に散らばってる。

 ちょっと状況を整理しよう。

 街の南側の城壁には、湖のほとりにいた亀モンスターたちが集団で攻め寄せてきてる。
 冒険者や兵士がそれを食い止めてる状態だ。
 エルフのクラクラと俺の両腕パーツはここにいる。

 俺のパーツのいくつかは、そこに合流するべく向かってる。
 人犬族のロロコと俺の兜パーツ。
 それと、ギルドの受付嬢にして鍛冶屋のアルメルと俺の胴体パーツだな。

 俺の左脚パーツは冒険者ギルドの地下室にいる。
 チェインハルト商会の会長であるエドにとんでもないものを見せられてる最中。
 ……なんだけど、こっちはちょっと置いておこう。

 先に右脚パーツとラッカムの話をしたい。

◆◇◆◇◆

 ラッカムはロロコがいた集落近くの自警団の団長さん。

 頬に傷あり、眼帯をした強面のおっさんと一緒に俺は城に潜入していた。
 バリガンガルドを治める城主の居城である。

〈なあ、本当に大丈夫かな……〉
「ん? なにがだ」
〈いや、勝手に入って怒られないかなって〉

 いや、入り込んでおいてなにを今更って感じだけどさ。
 これ完全に不法侵入だよね?

 この世界にそういう概念があるのかは知らないけどさ。

 いや、でもな……。
 そもそも俺、こっちの世界に転生してから、ほぼダンジョン生活だった。
 なのでこの世界の常識とか全然知らんのですよ。

 ひょっとしたら領主の屋敷とかは住民の出入り自由だったりするのかも。

「まあ、下手をすれば弓で射殺されるかもな」

 いやいやいやいやいや!

 なに冷静に言ってるの!?

 ここであんたに死なれたりしたら、俺ロロコにどんな顔して会えばいいのさ。

 顔ないけどさ!

 慌てて辺りを見回す俺。
 と言っても、傍目にはラッカムさんが鎧の脚を振り回してるだけに見えるだろう。

 あ、そう。
 怪しまれないように、ラッカムさんには俺を持つポーズをしてもらってる。
 実際には俺、ちょっと浮いてるので、重さはほとんど感じないだろう。

 ともかく、周りを見る俺。
 そこでおかしなことに気づいた。

 忍び込んだ城の廊下。
 なんか、めっちゃ静かじゃね?

 人が全然いないのだ。
 地震でみんな逃げ出したのかなって思ったけど、そうじゃないっぽい。

 だいぶ前からあまり人がいなかった感じなのだ。

 なんていうか、生活感がない感じ。

〈ここ、本当に人が住んでたのか?〉

「ああ、妙だな」

 ラッカムさんもおかしいと思ったらしい。

「誰かいないか!」

 声を上げて呼びかける。

 すると……。

 ヒョコ。

 廊下の角から誰かが顔を出した。

 ヒュッ。

 そしてすぐ引っ込んだ。

〈ラッカムさん〉
「ああ」

 ラッカムさんは俺を持ったままそちらへ向かう。

 廊下の角まできて覗き込むと、小さな少年がブルブル震えていた。

「おい」
「ぎゃああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 すごい勢いで土下座する。

「掃除をしてて壺を割ったのは僕です! 破片を庭に埋めました! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「なんの話だ?」

「へ?」

 ラッカムさんの問いに、少年は顔を上げる。

 ちなみに俺はしばらく黙ることにする。
 いちいちリビングアーマーのこと説明するのめんどいしな。

「あの……城主様の使いで来たんじゃないんですか?」

「いや、俺はその城主様に用があったんだが」

 ホッと息を吐く少年。

「なぁんだ。じゃあ慌てて壊した石像と割った皿と燃やした絨毯を隠すことなかったや」

 おい……。

 どうやら城主は不在らしいけど。
 この少年が留守番で大丈夫なのか?

 気になったけど、それは置いといて。

「城主様は今どこにおられるんだ?」

 ラッカムの問いに少年は答える。

「今は本国のガレンシア公国にお戻りですよ」

「そうだったか……」

 本国?
 ここの城主はバリガンガルドとは別に拠点の国があるのか?

 事情を聞きたいが、喋るわけにいかない。
 もどかしいな。

「わかった。では、今この城の責任者は誰だ? 伝えたいことがあるのだが」
「はい、ええと……あれ? おかしいな、さっきまでいたのに」

 と少年は廊下の奥を見て呟く。

「っていうかみんなどこ行ったんだ? まだ仕事の時間だってのに」

「…………」

 なんだろう、なんかすげえ抜けてるな、この子。

「……皆どこかに避難したんじゃないか? さっき地震があっただろう」
「え? 地震あったんですか? いつ?」

 おいおい嘘だろ。
 あのレベルの地震に気づかないって……。

「いやー、僕ボーッとしてるってよく怒られるんですよーあはは」

 いや、あははじゃないよ……。

 ラッカムさんも困り顔である。

「仕方ないな……私と一緒に避難しよう。城は崩れる危険があるから出たほうがいい」

「あ、はい。わかりました」

 めっちゃ素直に頷く少年。

 相手が何者かもわからないのに信用しちゃって……。
 まあ、ラッカムさんは悪い人じゃないけどさ。

 さて、俺はどうするかな。

 この少年はラッカムさんに任せて南の城壁に向かおうか。

 ……と思ったところに。

 ――どごごごごごごごおおおおん!

 ふたたび激しい揺れが起こった。

 地震!
 +魔響振!

 くそっ、また意識が遠のく。

「うぉ!?」

 俺を持ってくれていたラッカムさんの腕が落ちる。

 これまで浮いていた俺の重さが急にかかったからだろう。

「どうした……むっ!」

 俺に問いかけようとしたラッカムさんだったが、それより早く少年を抱えて駆け出す。

 城が崩れ始めたのだ。

 うわうわうわうわ!
 ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 ちゃんと動ける状態なら、天井を支えるとかするんだけど。

 むり……。

 また気を失い――そう……。

 ガラガラガラ!

 天井が崩れてくる。

 ラッカムさんと少年はその下敷きになってしまう――ことはなかった。

 なぜなら!

〈大丈夫かっ!〉
「リビタン?」

 俺の腕が崩れていた岩を支える。
 顔を上げるラッカムさん。

 そこには、フルアーマー姿の俺が五体立っているのだった。
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