上 下
70 / 286
第2章 バリガンガルド編

60 街にはたどり着いたけど

しおりを挟む
 リビングアーマーの俺。
 犬耳っ娘のロロコ。
 エルフのクラクラ。

 三人は森の中を抜ける街道に出た。
 ロロコが馬車の音を聞きつけたのだ。

 その音のとおり街道を走ってくる馬車があった。
 馬車の音を鳴らして人をおびき寄せるモンスターとかではないようだ。
 よかった……。

 馭者が、手を振る俺たちを見て、止まってくれた。

〈バリガンガルドまで行きたいんですが〉
「なんだ、お前ら、冒険者か?」
〈え、ええ。さっきまでダンジョンに潜ってたんですが……〉
「出るとこでも間違えたか?」
〈まあ、そんなところです〉

 馭者は笑いながら後ろを指す。

「最低料金は一人5ヴォルフォンだが、2ヴォルフォンでいいよ。あとすぐだからな」

 ヴォ、ヴォルフォン……?

「ヴォルフォニア帝国の通貨単位だ。1ヴォルフォンは銅貨1枚だが……」

 クラクラが小声で教えてくれた。

 銅貨……銅貨!
 俺、銅貨は30枚持ってるんだよな。
 洞窟ダンジョンに入ったばっかりのころ、冒険書と一緒に、白骨死体から頂戴した。
 まったく使う機会がないから忘れてたぜ。

 ってわけで、馭者に乗車賃を支払って、幌馬車に乗せてもらう。
 馬車には木箱がたくさん積んであった。
 客はいないみたいだな。

「悪いな。帰りは乗客がいなかったもんで、荷物を積めるだけ積んだんだ」

 なるほど。
 ただ戻るだけより、荷物を運んで送料を稼いだ方がいいもんな。

「壊れものはねえから、箱の上に適当に座ってくれ」

 言われて、座ろうとしたら、メキッ……と音がした。

「リビタンは、やめた方がいい」
〈そうみたいだな……〉

 仕方がないので、俺だけは木箱をずらして、床に直接座った。

◆◇◆◇◆

 数時間、馬車に揺られた。
 途中、ロロコとクラクラは仮眠を取っていた。
 馭者が絶対安全な人とは限らないけど、俺が寝る必要がないからね。
 しかし、この揺れでよく寝られるよな。
 俺、身体が人間だったら絶対酔ってたぞ……。

 ってわけで、森を抜けると、城壁が見えてきた。

 おお!

 俺、この世界に転生してから、まともな街を見るの初めてじゃねえかな!

 馬車はぐんぐん城壁に近づいて――行かずに、だいぶ手前で止まった。
 あ、あれ……?

「さ、この辺でいいだろ」
〈えっと……街の中まで行ってくれないの?〉
「はぁ? なに言ってんだ?」

 馭者は訝しそうな目を向けてくる。
 クラクラが苦笑しながら言う。

「あれだけの規模の街は入る際に検査がある。馬車はその手前で客を下ろす決まりだ」
〈検査?〉

 マズいな。リビングアーマーの俺は身の証なんか立てられないぞ。

「と言っても、バリガンガルドは冒険者が多く集う街。簡単なものだ」
〈ふぅん……〉
「せいぜい、顔の検分と、立ち入る目的を聞かれるくらいだな」

 なぁんだ、それなら全然問題――大ありじゃねえか!

「あ……」

 クラクラも気づいたみたいで、気まずそうな顔をする。

「リビタン、顔ない」

 ロロコははっきり言わなくていいから!

 どうするんだよ……。

「んじゃ、俺は運送用の城門に行くから」
〈あ、はい。ありがとうございました〉
「なぁに、こっちも今夜の飲み代ができて助かったぜ」

 馬車は走り去って行った。
 取り残される俺たち。

 えー、どうすればいいの、俺?

◆◇◆◇◆

 で、こうなりました。

「二人か」

 門番の兵士が俺たちを見て言う。

「クララ・クラリッサ・リーゼナッハ・フリエルノーラだ」
「ロロコ」

 クラクラとロロコは自分の名前を名乗る。

「目的は?」
「二人とも、冒険者ギルドへの登録だ」
「種族はエルフと人犬族で合っているか?」
「相違ない」
「……で、その鎧は?」

 と、門番は、怪訝そうな顔で、クラクラを見る。

 そう、今、俺はクラクラに着られてる状態だった。
 こうすれば、俺はリビングアーマーではなくただの鎧。
 ただの鎧には審査も何もないだろう。

 ただ、問題は、サイズがちょっと大きいこと。
 実は、この方法を思いついた時、ロロコが「自分が着る」と言い出した。
 でも、さすがにそれはサイズ的に不自然すぎるのでクラクラが着ることになったのだ。

 まあ、クラクラでもだいぶ不自然なんだけど。
 現に、門番にも不審がられてるし。

「だいぶ大きいようだが……大丈夫なのか?」

 不審っつーか、心配されてるな……。

「こ、これは、父の形見である」
 クラクラが言う。
 何か訊かれたときに答えるよう用意していた作り話だ。
「可能ならば、鍛冶屋で打ち直してもらおうと考えている」

「それなら、西のはずれにあるアルメルの道具屋に行ってみるといいかもしれないな」

「そうか……情報、感謝する」

 会話はそれで終わり、俺たちは門から街に入った。

 ふー……。
 なんとか乗り切ったな。

 っていうかさ。
 考えてみたら、馬車に乗るときも、こうすれば一人分浮いたんじゃねえかな!

 今度からそうしよう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

処理中です...