上 下
32 / 286
第1章 大洞窟ダンジョン編

EX4 人犬族と魔鉱石の話

しおりを挟む
「人犬族を、あの領主の下から解放しませんか」

 そんなことを口にしたエドを、自警団長のラッカムは無言で睨みつける。

 冒険者ギルドを牛耳るチェインハルト商会の会長である青年。
 そんな人物の口から出た言葉を、そう簡単に信用できはしなかった。

「……なんのためにそんなことを?」

 慎重に言葉を選んで質問する。
 エドは、まるで世間話でもしているような気楽な態度を崩さない。

「なに、利害が一致すると思いましてね」
「……どういうことだ」
「この土地の人犬族は、先代のバルザック当主に保護されて、移住してきたのですよね」
「ああ、そうだな」

 その移住にはラッカムも協力した。
 隣国で起こった戦争のため住む土地を失った彼らを、先代領主が助けたのだ。

「しかし、代が変わって現当主になると、人犬族は奴隷同然の労働を強いられるようになった――魔鉱石の鉱山の発見も一因ですね」
「…………」

 魔鉱石は魔導率――魔力を伝える効率――の高い鉱石の総称だ。
 大陸各地に鉱脈があるが、絶対数は少ないため希少価値がある。

「魔鉱石の発掘には危険が伴いますから、よほど困窮していなければ、労働者はやってこない。そこでバルザック氏は、お父上が保護した人犬族に目をつけた。彼らには先代に助けてもらったという恩がある。それを利用したわけですね」

 そうだ。
 そしてラッカムは、それを止めることができなかった。

 大陸各地が戦乱で不安定で、人族とそれ以外の種族の対立は深まりつつある。
 この土地で鉱山労働をさせられるとしても、他の土地より安全ではあったのだ。
 人犬族たちも、それがわかっていたから現領主に従っていた。

 だが――。

「最近は魔鉱石の需要が増えていますからね。世情が不安定なので、傭兵を雇うための資金を貯めておきたかったのでしょうか。バルザック氏は魔鉱石の採掘量を増やそうとしたのですね。それで、とうとう耐えられなくなった人犬族は脱走を決意した――と」

 バルザックの要求は限度を超えていた。
 以前の倍以上の成果を求め、一方で食費や設備に払う金は出し渋る。
 さらに最近は、発掘地の拡大もしようとしていた。

「ちっ……」

 ラッカムは舌打ちした。

「そうだよ、その通りだ。俺はそれを指をくわえて見てることしかできなかったんだ。領主から人犬族を解放して、そのあとなにができる? 俺にはやつらを食わせてやることも安全な土地を与えてやることもできねえんだよ。できることといや、せいぜい――」
「せいぜい……なんです?」
「いや、なんでもねえ」

 ラッカムの脳裏に、魔法の才能を持っている人犬族の少女の姿がよぎる。
 彼女や、何人かの子供にには、せめて自分の身を守る力を――と技術を教えた。

 だが、その程度のことになんの意味があるのか。

「で? あんたならそれができるっていうのか? あいつらを解放して『あとは勝手にしろ』っていうことなら、話に乗るわけにゃいかねえ」
「いえいえ。ご安心ください。そのようなつもりはありませんよ――」

 そしてエドは、自身の計画を語った……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...