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第1章 大洞窟ダンジョン編
EX4 人犬族と魔鉱石の話
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「人犬族を、あの領主の下から解放しませんか」
そんなことを口にしたエドを、自警団長のラッカムは無言で睨みつける。
冒険者ギルドを牛耳るチェインハルト商会の会長である青年。
そんな人物の口から出た言葉を、そう簡単に信用できはしなかった。
「……なんのためにそんなことを?」
慎重に言葉を選んで質問する。
エドは、まるで世間話でもしているような気楽な態度を崩さない。
「なに、利害が一致すると思いましてね」
「……どういうことだ」
「この土地の人犬族は、先代のバルザック当主に保護されて、移住してきたのですよね」
「ああ、そうだな」
その移住にはラッカムも協力した。
隣国で起こった戦争のため住む土地を失った彼らを、先代領主が助けたのだ。
「しかし、代が変わって現当主になると、人犬族は奴隷同然の労働を強いられるようになった――魔鉱石の鉱山の発見も一因ですね」
「…………」
魔鉱石は魔導率――魔力を伝える効率――の高い鉱石の総称だ。
大陸各地に鉱脈があるが、絶対数は少ないため希少価値がある。
「魔鉱石の発掘には危険が伴いますから、よほど困窮していなければ、労働者はやってこない。そこでバルザック氏は、お父上が保護した人犬族に目をつけた。彼らには先代に助けてもらったという恩がある。それを利用したわけですね」
そうだ。
そしてラッカムは、それを止めることができなかった。
大陸各地が戦乱で不安定で、人族とそれ以外の種族の対立は深まりつつある。
この土地で鉱山労働をさせられるとしても、他の土地より安全ではあったのだ。
人犬族たちも、それがわかっていたから現領主に従っていた。
だが――。
「最近は魔鉱石の需要が増えていますからね。世情が不安定なので、傭兵を雇うための資金を貯めておきたかったのでしょうか。バルザック氏は魔鉱石の採掘量を増やそうとしたのですね。それで、とうとう耐えられなくなった人犬族は脱走を決意した――と」
バルザックの要求は限度を超えていた。
以前の倍以上の成果を求め、一方で食費や設備に払う金は出し渋る。
さらに最近は、発掘地の拡大もしようとしていた。
「ちっ……」
ラッカムは舌打ちした。
「そうだよ、その通りだ。俺はそれを指をくわえて見てることしかできなかったんだ。領主から人犬族を解放して、そのあとなにができる? 俺にはやつらを食わせてやることも安全な土地を与えてやることもできねえんだよ。できることといや、せいぜい――」
「せいぜい……なんです?」
「いや、なんでもねえ」
ラッカムの脳裏に、魔法の才能を持っている人犬族の少女の姿がよぎる。
彼女や、何人かの子供にには、せめて自分の身を守る力を――と技術を教えた。
だが、その程度のことになんの意味があるのか。
「で? あんたならそれができるっていうのか? あいつらを解放して『あとは勝手にしろ』っていうことなら、話に乗るわけにゃいかねえ」
「いえいえ。ご安心ください。そのようなつもりはありませんよ――」
そしてエドは、自身の計画を語った……。
そんなことを口にしたエドを、自警団長のラッカムは無言で睨みつける。
冒険者ギルドを牛耳るチェインハルト商会の会長である青年。
そんな人物の口から出た言葉を、そう簡単に信用できはしなかった。
「……なんのためにそんなことを?」
慎重に言葉を選んで質問する。
エドは、まるで世間話でもしているような気楽な態度を崩さない。
「なに、利害が一致すると思いましてね」
「……どういうことだ」
「この土地の人犬族は、先代のバルザック当主に保護されて、移住してきたのですよね」
「ああ、そうだな」
その移住にはラッカムも協力した。
隣国で起こった戦争のため住む土地を失った彼らを、先代領主が助けたのだ。
「しかし、代が変わって現当主になると、人犬族は奴隷同然の労働を強いられるようになった――魔鉱石の鉱山の発見も一因ですね」
「…………」
魔鉱石は魔導率――魔力を伝える効率――の高い鉱石の総称だ。
大陸各地に鉱脈があるが、絶対数は少ないため希少価値がある。
「魔鉱石の発掘には危険が伴いますから、よほど困窮していなければ、労働者はやってこない。そこでバルザック氏は、お父上が保護した人犬族に目をつけた。彼らには先代に助けてもらったという恩がある。それを利用したわけですね」
そうだ。
そしてラッカムは、それを止めることができなかった。
大陸各地が戦乱で不安定で、人族とそれ以外の種族の対立は深まりつつある。
この土地で鉱山労働をさせられるとしても、他の土地より安全ではあったのだ。
人犬族たちも、それがわかっていたから現領主に従っていた。
だが――。
「最近は魔鉱石の需要が増えていますからね。世情が不安定なので、傭兵を雇うための資金を貯めておきたかったのでしょうか。バルザック氏は魔鉱石の採掘量を増やそうとしたのですね。それで、とうとう耐えられなくなった人犬族は脱走を決意した――と」
バルザックの要求は限度を超えていた。
以前の倍以上の成果を求め、一方で食費や設備に払う金は出し渋る。
さらに最近は、発掘地の拡大もしようとしていた。
「ちっ……」
ラッカムは舌打ちした。
「そうだよ、その通りだ。俺はそれを指をくわえて見てることしかできなかったんだ。領主から人犬族を解放して、そのあとなにができる? 俺にはやつらを食わせてやることも安全な土地を与えてやることもできねえんだよ。できることといや、せいぜい――」
「せいぜい……なんです?」
「いや、なんでもねえ」
ラッカムの脳裏に、魔法の才能を持っている人犬族の少女の姿がよぎる。
彼女や、何人かの子供にには、せめて自分の身を守る力を――と技術を教えた。
だが、その程度のことになんの意味があるのか。
「で? あんたならそれができるっていうのか? あいつらを解放して『あとは勝手にしろ』っていうことなら、話に乗るわけにゃいかねえ」
「いえいえ。ご安心ください。そのようなつもりはありませんよ――」
そしてエドは、自身の計画を語った……。
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