10 / 286
第1章 大洞窟ダンジョン編
9 ダンジョン奥地行きカマキリ特急(強制)
しおりを挟む
〈うぎゃあああああああ!〉
俺は超高速で移動しながら悲鳴をあげていた。
とといっても、自分で移動してるわけじゃない。
そりゃそうだよな。
いま俺の身体は胴パーツが破壊されて、上半身と下半身にわかれちゃってるんだから。
動きようがない。
じゃあなんで移動してるかっていうと、カマキリのせいだ。
俺の身体を真っ二つにした張本人の巨大カマキリ。
こいつが高速移動中なのだ。
俺の上半身と下半身を身体に引っ掛けた状態で、
こいつはたぶん、洞窟の天井に潜んでたんだと思う。
そんで、巨大ダンゴムシの死体に群がるクモさんたちを狙っていた。
そこに俺が現れたもんだから、獲物を横取りされると思って攻撃してきたのだ。
……誰も食わねえよ、クモなんか!
なんて主張しても、当然カマキリには通用しない。
カマキリは、さらに鎌を振り上げて、俺を攻撃しようとしてきた。
そのときだ。
地震が起こった。
いや、正確には地震じゃない、たぶん。
なぜかっていうと、地面は揺れてなかったからだ。
なんていうか、空気だけがブルブル震えてるみたいな、変な感覚。
いままでに体験したことのない現象だった。
ともかく、それのせいで、クモさんたちが一気に逃げ出した。
クモの子を散らすなんてことわざの実例を、俺は初めて見た。
といっても、逃げる方向は洞窟のさらに奥しかない。
クモさんたちは一目散にそっちへ向かって移動していった。
そして、巨大カマキリも、それを追いかけだしたのだ。
俺を身体に引っ掛けた状態で。
俺が引っかかってるのは、カマキリの身体にある、トゲみたいな出っ張り。
普通のカマキリにはこんなパーツはないかったと思うけど。
たぶん、俺の上を通り過ぎるときに、カマキリの足が俺を蹴ったのだろう。
で、蹴り上げられた俺がトゲに引っかかったというわけ。
しかも、上半身のほうは、ベルトみたいなパーツがトゲに絡まって外れない。
すごい偶然だ。
けど、全然嬉しくない。
もうちょっと役に立つ偶然が起こってくれてもいいんじゃないかな!
なんか俺、この身体になってから、いいことなしな気がするよ!?
まあ運がいいといえば、冒険書と、コインが入った布袋が落ちてないってことかな?
なんか、太ももパーツのなかにうまい具合に収まってるっぽい。
〈ぬおおおおおオオおおおお!〉
ちょ!
カマキリさん!
横揺れすんのやめて!
どうも、トゲに異物が引っかかってるのが気になってきたらしい。
走りながらブルンブルン身体を揺すり出した。
くぬお!
俺は両腕でガシッとトゲをつかむ。
見ると、下半身は下半身で、両足でトゲを挟んでいた。
あれ?
分離してても、動かせるは動かせるんだな。
たしかに、意識してみると、両方にちゃんと自分の身体だという感覚がある。
どちらが本体というわけではなく。
強いて言うならどっちも本体。
人間の身体だったときにはありえない奇妙な感覚だ。
よし!
負けるな下半身!
頑張れ上半身!
片方だけ振り落とされたら、本当に泣き別れだぞ!
とりあえず、トゲに絡まってるベルトみたいなパーツをなんとかしたい。
これが外れれば、両方同時に飛び降りればいいからな。
くそ!
この!
かたいなこいつ!
たぶんこれは、鎧の各部分同士を接続するのに使うパーツなんだろう。
だから、すごく丈夫にできている。
この不安定な状況では、引きちぎれそうにもない。
かといって、この絡まった状態を解くのも無理そうだ。
なにしろ俺の手はミトンみたいな形の手甲だからな。
自分の意思でベルトを動かして解けないかと思ったけど、それは無理みたいだ。
ベルトは人間で言うところの不随意筋に当たるのかもしれない。
――ブブブブブブブ。
ん? なんの音だ?
うわ!
急に身体が浮き上がる感触。
こいつ、飛び始めた!
背中の羽を震わせて、洞窟のなかを低空飛行。
速度はさらに上がる。
ちょ!
壁に俺の身体擦れてるから!
もっと真ん中らへん飛んで!
しかし、カマキリにしてみりゃ、俺という異物がどうなろうと知ったこっちゃない。
平気でガンガン壁にぶつけてくる。
ひょっとしたら、落とそうとしてわざとやってるのかもしれない。
おい、やめろ!
――ガクン!
うわー!
今度はなんだよ!
カマキリはとつぜん急停止した。
その勢いで、俺の身体は前方へ放り出された。
胴パーツだけは、ベルトで引っかかったまま取り残される。
あ!
壁にぶつかって壊れちゃった!
吹っ飛ぶ俺の下では、カマキリがブンブンと鎌を振ってる。
どうやらクモさんたちに追いついて、狩りを始めることにしたらしい。
クモさんはキィキィ鳴き声をあげながら逃げ回るが、何匹かが餌食になった。
……クモって鳴くんだっけ?
とにかく俺の上半身と下半身は、そんな戦いの上を飛んでいく。
そして、地面に落ちたと思ったら、
〈え? ――うわあああああああ!〉
――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
そこは急な坂道になっていた。
この!
俺は、手や足を踏ん張って、岩の出っ張りに捕まろうとする。
が、無理だった。
俺の身体はゴロゴロと坂道を転がり、ダンジョンの奥地へと落ちていった。
俺は超高速で移動しながら悲鳴をあげていた。
とといっても、自分で移動してるわけじゃない。
そりゃそうだよな。
いま俺の身体は胴パーツが破壊されて、上半身と下半身にわかれちゃってるんだから。
動きようがない。
じゃあなんで移動してるかっていうと、カマキリのせいだ。
俺の身体を真っ二つにした張本人の巨大カマキリ。
こいつが高速移動中なのだ。
俺の上半身と下半身を身体に引っ掛けた状態で、
こいつはたぶん、洞窟の天井に潜んでたんだと思う。
そんで、巨大ダンゴムシの死体に群がるクモさんたちを狙っていた。
そこに俺が現れたもんだから、獲物を横取りされると思って攻撃してきたのだ。
……誰も食わねえよ、クモなんか!
なんて主張しても、当然カマキリには通用しない。
カマキリは、さらに鎌を振り上げて、俺を攻撃しようとしてきた。
そのときだ。
地震が起こった。
いや、正確には地震じゃない、たぶん。
なぜかっていうと、地面は揺れてなかったからだ。
なんていうか、空気だけがブルブル震えてるみたいな、変な感覚。
いままでに体験したことのない現象だった。
ともかく、それのせいで、クモさんたちが一気に逃げ出した。
クモの子を散らすなんてことわざの実例を、俺は初めて見た。
といっても、逃げる方向は洞窟のさらに奥しかない。
クモさんたちは一目散にそっちへ向かって移動していった。
そして、巨大カマキリも、それを追いかけだしたのだ。
俺を身体に引っ掛けた状態で。
俺が引っかかってるのは、カマキリの身体にある、トゲみたいな出っ張り。
普通のカマキリにはこんなパーツはないかったと思うけど。
たぶん、俺の上を通り過ぎるときに、カマキリの足が俺を蹴ったのだろう。
で、蹴り上げられた俺がトゲに引っかかったというわけ。
しかも、上半身のほうは、ベルトみたいなパーツがトゲに絡まって外れない。
すごい偶然だ。
けど、全然嬉しくない。
もうちょっと役に立つ偶然が起こってくれてもいいんじゃないかな!
なんか俺、この身体になってから、いいことなしな気がするよ!?
まあ運がいいといえば、冒険書と、コインが入った布袋が落ちてないってことかな?
なんか、太ももパーツのなかにうまい具合に収まってるっぽい。
〈ぬおおおおおオオおおおお!〉
ちょ!
カマキリさん!
横揺れすんのやめて!
どうも、トゲに異物が引っかかってるのが気になってきたらしい。
走りながらブルンブルン身体を揺すり出した。
くぬお!
俺は両腕でガシッとトゲをつかむ。
見ると、下半身は下半身で、両足でトゲを挟んでいた。
あれ?
分離してても、動かせるは動かせるんだな。
たしかに、意識してみると、両方にちゃんと自分の身体だという感覚がある。
どちらが本体というわけではなく。
強いて言うならどっちも本体。
人間の身体だったときにはありえない奇妙な感覚だ。
よし!
負けるな下半身!
頑張れ上半身!
片方だけ振り落とされたら、本当に泣き別れだぞ!
とりあえず、トゲに絡まってるベルトみたいなパーツをなんとかしたい。
これが外れれば、両方同時に飛び降りればいいからな。
くそ!
この!
かたいなこいつ!
たぶんこれは、鎧の各部分同士を接続するのに使うパーツなんだろう。
だから、すごく丈夫にできている。
この不安定な状況では、引きちぎれそうにもない。
かといって、この絡まった状態を解くのも無理そうだ。
なにしろ俺の手はミトンみたいな形の手甲だからな。
自分の意思でベルトを動かして解けないかと思ったけど、それは無理みたいだ。
ベルトは人間で言うところの不随意筋に当たるのかもしれない。
――ブブブブブブブ。
ん? なんの音だ?
うわ!
急に身体が浮き上がる感触。
こいつ、飛び始めた!
背中の羽を震わせて、洞窟のなかを低空飛行。
速度はさらに上がる。
ちょ!
壁に俺の身体擦れてるから!
もっと真ん中らへん飛んで!
しかし、カマキリにしてみりゃ、俺という異物がどうなろうと知ったこっちゃない。
平気でガンガン壁にぶつけてくる。
ひょっとしたら、落とそうとしてわざとやってるのかもしれない。
おい、やめろ!
――ガクン!
うわー!
今度はなんだよ!
カマキリはとつぜん急停止した。
その勢いで、俺の身体は前方へ放り出された。
胴パーツだけは、ベルトで引っかかったまま取り残される。
あ!
壁にぶつかって壊れちゃった!
吹っ飛ぶ俺の下では、カマキリがブンブンと鎌を振ってる。
どうやらクモさんたちに追いついて、狩りを始めることにしたらしい。
クモさんはキィキィ鳴き声をあげながら逃げ回るが、何匹かが餌食になった。
……クモって鳴くんだっけ?
とにかく俺の上半身と下半身は、そんな戦いの上を飛んでいく。
そして、地面に落ちたと思ったら、
〈え? ――うわあああああああ!〉
――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
そこは急な坂道になっていた。
この!
俺は、手や足を踏ん張って、岩の出っ張りに捕まろうとする。
が、無理だった。
俺の身体はゴロゴロと坂道を転がり、ダンジョンの奥地へと落ちていった。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる