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第1章 大洞窟ダンジョン編

3 転げ落ちてダンジョン

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 転生したら鎧になってた俺は、今ネズミの群れから逃げ回っています。

 なんだこの情けない状況説明……。

 しかし、実際にそうだからしょうがない。
 ついでに言うと、ネズミの体当たりで腹には大穴が開いてる。

 ちくしょう、俺がなにしたってんだ!

 ――チュウチュウチュウチュウ!

 大ネズミたちは明らかに興奮した様子で、俺を追ってくる。
 なかでも、イヌサイズのボスっぽい奴らがヤバい。
 なんか、天井とかから、身体を回転させてドリルみたいに突っ込んでくる。
 あいつらの普通の体当たりで腹に穴が開いたんだ。
 ドリルアタックなんかされたらえらいことになるぞ。

〈もういいかげん見逃せよ!〉

 思わずそんな弱音を吐いてしまう。
 せめてもの救いは息が切れないことか。
 元の世界だったら、とっくに力尽きてる。
 どうやら鎧の身体は疲れるということはないらしい。

 ガシャンガシャンガシャンガシャン――。

 と、ひたすら逃げ回っているうちに、廊下の行き止まりにたどり着いた。
 目の前には木の扉。
 が、困ったことに俺はそれを開けられない。
 なぜなら、手がないからだ。

 手というか、手甲ね。
 手首から先がスッカスカなので、ドアノブを握れない。

 うげ。
 これって、ピンチじゃね?

 ちらっと振り返ると、ネズミはさらに数を増して迫ってくる。
 もう、なんか津波みたいな感じだ。
 
 ――ギラリ。

 と、大ネズミたちの目が一斉に光った。
 ボスネズミが十匹ほど、ドリルアタックの構えだ。

 ちょー!
 待て待て待て待て!

 そんなんされたら死んじゃう!――かどうかはわからないけど。
 バラバラに壊れて動けなくなる!
 
 こうなったら……。

 どがん!

 俺は扉を殴りつけた。
 手甲のない腕が木の扉を粉砕する――。

 べきばきガシャン!

 ぎゃああああ!
 俺の腕が粉砕したぁあああ!?

 ちょ、ま、そこまでもろいかよ俺の身体!

 しかし、幸いなことに扉の方も壊れてくれた。
 俺は扉の向こうに飛び込む。

 ――ん?

 足元になにもない。
 どうやら、扉のすぐ奥から、下り階段になっているようだった。
 うっすらと見えて、それが分かったのもつかの間。

〈うわああああああああああ!〉

 俺はバランスを崩し、その階段を転げ落ちていった。

◆◇◆◇◆

 ガランガラン!
 ガシャンガシャン!
 ゴトゴトゴトゴトゴトゴト!

〈…………〉

 ひたすら転がり落ちて、ようやく止まっった。
 かなり長い時間落ちてた気がする。
 大ネズミどもの鳴き声も聞こえなくなった。
 さすがにここまでは追いかけてこないみたいだ。

 しかしなにも見えないな。
 感覚で腕パーツや脚パーツがバラバラになってないっぽいことはわかるけど。
 けっこうしっかり組み立ててくれたらしいな。
 盗賊さん、ぐっじょぶ!

 さてどうしよう。
 ほんと、マジで真っ暗だ。
 目の前に手をかざしても、まったくわからない。

 タイマツもマッチもチャッカマンもあるわけないし。
 光魔法とか使えるわけでもない。

 ……待てよ。
 本当に使えないかな?
 この世界にはモンスターがいる。
 魔法だってあるかもしれない。
 それに、俺の身体は、鎧のくせにネズミの体当たりで壊れるくらいのもろさだ。
 もしかしてひょっとして、魔法防御特化型の鎧だったりするんじゃね?
 ありうるありうる!
 よーし……。

〈――ライトニング!〉

 しーん。

 ……い、いや、まあ、この結果は予想どおりだし?
 念のためやってみただけだし?

 だいたい、もし仮にこの鎧が魔法防御特化型だったとしてもだ。
 それ、魔法が使えるってことじゃないよね。
 はぁ……。
 魔法はあきらめよう。

 で、この暗闇はどうすればいいだろうか。

〈待てよ〉

 そこで動き始める俺の灰色の脳細胞!

 そもそも、俺はなんでものが見えていた?
 視覚ってのは、目という感覚器が光を受容するから生まれるものだ。
 しかし、この鎧の頭部――兜には目なんてもんは存在しない。
 けど俺は、目があるあたりで、ものを見ているのだ。
 これ、光を受容して視覚を得ているわけじゃないよな?
 なんていうか『見る』っていう概念が鎧の一部に実態化してるみたいな。
 うまく言えないけど、なんか、そんなイメージだ。

 だとすれば、だ。

 俺って、全然光がないところでも、ものが見れたりしないかな?
 なんの根拠もない都合のいい推測だけど。
 まあ、試してみるだけ試してみよう。
 他にできることもないし。

〈…………〉

 兜の、なかに人が入っていれば目がありそうなあたりに意識を集中する。
 見る……。
 見る見る……。
 俺にはきっと見える……。

 そう念じ続けていると……。

〈…………っ!〉

 見えた!
 突然明かりをつけたみたいだ。
 ただし、ちょっと薄暗い感じはある。

 そして、周りが見えるようになったことで、今いる場所も明らかになった。
 上も下も横も岩で囲まれた、狭いトンネル。
 洞窟だ。
 異世界で洞窟とくれば、もう決まりじゃないか?
 
 ここ、ダンジョンだな!
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