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第1章 大洞窟ダンジョン編

1 転生したら鎧だった

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 キキーッ!
 ドカン!
 ガシャァアン!
 ……ピーポーピーポー。

 お分りいただけただろうか。

 交通事故である。
 巻き込まれたのは俺。

 ひっどい事故だった。
 明日の朝刊には「修学旅行中の悲劇!」とかって見出しが躍ることだろう。
 けど――幸か不幸か俺がその記事を見ることはなかった。

 俺は死んだ――。

◆◇◆◇◆

 ――はずだった。

◆◇◆◇◆

(――ん?)

 気づくと薄暗い場所にいた。
 建物のなかっぽい。
 物が沢山ごちゃごちゃ置かれてる。
 倉庫みたいだな。

 それにしても視線がやけに低い。
 まるで床に寝そべってるみたいだ。
 お布団に潜り込んで、うつぶせでスマホをいじってるときのあのポーズ。
 あのときと視界がそっくり。

(とりあえず起き上がるか――あれ?)

 身体が動かない。
 うんしょ! ……やっぱダメだ。
 拘束されてるっていう感じではない。
 頭以外のパーツがどっか行っちゃったみたいな感じ。
 ははは、そんなバカな(笑)

(じゃあ首だけでも――動かない!?)

 頭を振ることすらできない。
 視界はずっと固定されたまま。
 なんだこれ!
 どういうこと?

◆◇◆◇◆

 そうして一週間の月日が流れた――。

◆◇◆◇◆

 っておい、ふざけんなよ!
 もうちょっとなんかあるだろ!
 天の声が「おまえにチートスキルを与えよう」って言ってくるとかさ!
 そういうのなんもないの!?

 ……ひょっとしてこれあれかな。
 俺べつに転生したとかじゃなくて、事故で身体が動かないだけとか、そういう状態?

 しかし目の前にある沢山のものが現代日本離れしている。
 だから多分ここは異世界なんじゃないかなーと思うんだけどさ。

 がちゃっ。

 お、なんか扉が開いたっぽい。
 続いてドタドタと足音がする。
 そして現れたのは二人の男。
 見るからに盗賊とか、そういう類の人間っぽい。

「ここが倉庫か」
「あんま良いものはなさそうだな」

 なんかそんなことを言ってる――って。
 お! 言葉がわかる!
 ってことは、俺の言葉も向こうに通じたりするのかね?
 ちょっと話しかけてみようか。

 と思ったら、盗賊さんと目が合った。
 合ったんだけど、なんか変な感じだ。
 相手は、こっちを人間だと思っていないみたいな雰囲気。
 なんで?

 盗賊さんはドタドタと足音を立ててこっちへ歩いてきた。

「お、鎧があるぜ」

 へー、俺の周りに鎧があったのか。
 なんて思ってると盗賊さんは手を伸ばしてきた。

 ひょい。

 と俺は盗賊さんに持ち上げられる。
 視界が急に高くなった。

 なに!?
 どうなってるのこれ!

「兜がこれで、胴がこれか。腕に、脚に――」

 ガシャンガシャンガシャン。

 混乱する俺をよそに、盗賊さんはなんか組み立てていく。
 それに合わせて俺は『身体がそろっていく』感じがしてきた。
 どっか行っちゃってたパーツが組み合わされていくみたいな。

「ひとそろいあるぜ。これは売れるんじゃねえか?」
「あー、どうだろうな。けっこう古そうだが――骨董品になるか?」

〈あの〉

 俺は思い切って声をあげてみた。
 とたん、盗賊さんたちは固まった。
 こわばった顔を見合わせ、ゆっくりと俺のほうを見てくる。

〈あの、すみません。俺の身体、これ、どうなってるんですかね?〉

 言いながら、俺は右腕を持ち上げていた。
 あ、動いた!
 やったぜ!
 なんて喜んでいる間に。

「り、リリリリリリリビングアーマー!?」
「なんでここここここんなところにモンスターがいやがるんだよ!」

 大声をあげて、盗賊さんたちは倉庫を飛び出していった。

〈あ、ちょっと待って!〉

 俺は慌ててそれを追いかける。
 脚も動いた!
 けど、なんでこんなにガシャガシャ音がするんだ?
 声もなんか、スピーカー越しの校内放送みたいな変な音だし。

 と。
 扉の横に鏡を発見。
 そこに俺の姿が映っていた。

〈うーん……〉

 右手を挙げてみる。
 鏡のなかで、手甲のない、空洞の鎧の右手が挙がった。

 左脚を持ち上げてみる。
 ガシャンと音を立てて、鎧の左脚が持ち上がった。

 思い切って、頭をつかんで持ち上げてみる。
 視界が上に移動すると同時に、鏡のなかで鎧が兜を持ち上げていた。

 そこには本来ならあるべきはずのもの――人間の頭はなかった。
 
 …………うん、間違いないね!
 
 ――俺、鎧になってる!
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