上 下
24 / 30

21身分の壁は、厚い(side:レイ)

しおりを挟む
「外見のことは置いておいて。俺が優しいかなんて知らないだろ。」

確かに全く関わりのなかった相手に中身を評価されても信じられないだろうが、実際俺はクレアに救われた。

苦しくて、息をすることさえ億劫な学園の中で、クレアだけが、そんな俺に気付いて救ってくれた。

傍から見たら些細なことなんだろうが。

「優しいとかじゃなく、当然のことだろ?お前の周りの人は、お前の気を引くことに必死で、具合が悪いって気付かなかっただけで」

「そんな感じではないだろ。あいつらが平民の俺の心配をするなんて思えない。」

貴族は、村の大人に聞いた通りだった。上から目線で逆らうものは許さず。平民だからと見下して。

一見親切そうなヤツだって、その目には哀れみを含んでいる。

お金が無いなんて可哀想。
勉強もろくにさせて貰えなかったなんて可哀想。

俺は、自分の事を可哀想だなんて思ったことは無いのに。それを言われる度に心は確実にすり減っていく。

「レイ、すまなかった」

悲しげに眉をひそめながら、クレアがポツリと呟く。

「いや、クレアが謝ることではないだろう?」

俺が苦しんでる原因に、クレアは居ない。寧ろ俺を助けてくれたのに謝罪なんて。

ああ、彼も貴族だからか。自分のせいではないが、同じ貴族が俺を傷つけたから、そんな顔をするのか。

綺麗なのは見た目だけじゃないんだ。

勉強にはついていけてるかときかれ、恥をしのんで否と答えると、クレアが教えようかと提案してくる。

「いいのか…?」

「勿論。勉強を教え合うのだって、学生の本分だろ?」

押し付けがましくならないように、態とそんな言い方をしているんだろう。

悪戯っぽく笑う顔から目が離せ無くて「勉強は明日から、放課後一緒にやろう」と言って立ち去るクレアを、ただ見つめることしか出来なかった。

お礼を言っていないことに気がついた俺は慌てて追いかけ、クレアの教室に入る。

そこには第2王子のカイルとその騎士のルースがいた。

身分の高すぎる組み合わせに少したじろぐ。

「それで?俺のお姫様はまた有名人を引っ掛けてきたね?」

クレアよりも先にカイルがこちらに気づく。

か。噂は本当だったのか。

って事は、やはりカイル殿下と、め、じゃなくて、クレアは恋人同士なのか?」

女神と言いかけた。危ない。

「ああ、レイとやらは編入生だから知らないのか。俺とクレアは毎日キスをする仲だ。」

「き、キス…!?」

貴族は一般的に身持ちが固く、結婚するまでは同性であってもお互いに肌を見せ合うことすらしないと村で聞いた。

キスをしているとなると、確実に婚約はしているんだろう。クレアも否定しないし、真実な様だ。

胸が締め付けられるように痛む。

「なんで君がそんな顔をしているのかな?」

俺にしか聞こえない声でカイルが言う。

婚約者に懸想されたとなれば、確かに面白くないだろう。

「クレアの事、好きなの?…君には守れないと思うけどね」

「諦めろと言ってるんですか」

「ううん、クレアを手に入れたいのなら、もっと頑張らないと。それこそ死ぬ気でね。生半可な覚悟で、クレアを守れると思うなよ。」

誰にでも分け隔てなく優しいと噂の王子のこんな表情を見る日が来るなんて。

ベビに睨まれたカエルとはこの事か。

威圧感に竦むと、カイルは勝ち誇ったように笑い、クレアの方へ行く。

勝てない。今のままだと、カイルには勝てない。

王子を負かそうとか、公爵家長男を娶りたいとか、そんな大層なこと言える身分ではないのは十分わかっている。

同じ空間で学べること、しかも直接話せることだって奇跡だ。俺は他にやるべきことがあるし。

でも。それでも。

悔しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

処理中です...