上 下
224 / 639

とある犬達の現代

しおりを挟む
ある犬達が平和を謳歌して、世代がまた交代しました。

この間に犬達とその周りで大きな変化が起きました。

まず、猟師達の世代が後退し、彼らの多くは年老いて弱体化していました。



もはや、かつて犬達を圧倒するような力はなく、犬達を封じ込めるために作った小屋も維持するのが大変な状態になっていました。

熊達はそれを見て猟師恐れるに足らず、と自分達のなわばりを大いに広める行動に出ました。



とりわけ、白と黒の熊達はこれを好機と捉え、一気に犬達のなわばりの近くを荒らしまくりました。

ついに彼らは犬達の小屋の外壁に爪を立て、なわばりとする意志を隠さなくなりました。



この時、犬達はすっかり平和を満喫していて、小屋の中にいる限り安心だとタカをくくっていました。

特筆すべき点ですが、白と黒の熊が小屋に来たのは偶然でも彼らの意思だけによるものでもありません。



かつて、猟師達が犬達の力を削ぐための手段として、「犬ではない生き物」を群れの中に忍び込ませていました。

この生き物は犬達に紛れていながら、犬達に強烈な憎しみとライバル心を持っていました。



彼らはいつか犬達に代わってなわばりを奪い、犬達を自分達の風下に置こうと日夜努力していました。

彼らの一部は白と黒の熊になわばりを荒らすように鳴き声で合図を繰り返しました。



実はこの犬ではない者達は前にも侵略行為を企てたことがあります。

数百年前、白と黒の熊をそそのかして、犬達のなわばりを争うとしたことがありまっした。

その時の犬達は勇敢で力強く、見事彼らを返り討ちにしています。



しかし、今回彼らは効果的に行動しています。

彼らは犬達の注目が集まるところ、声が良く届くところを占拠して、大きな声で「平和だ、安全だ、楽しめ、爪を研ぐな、熊は愛嬌のある無害な生き物だ、むしろ犬の方が危険だ」と語り、犬達の注意を引き付けていました。



そのような時、ある犬は考えました。

「私達は猟師の作った小屋は安全だと安心しきっているが果たしてそうなのだろうか」

「今更、小屋の外に出てなわばりを広げようとは思わないが、今のままでは私達のなわばりはもちろん、私達の群れも危険ではないか」



犬は自分のおなかを見て悩みました。

「こんな弛んだ状態でなわばりを守ると言っても説得力ないなあ」

彼が周りを見渡してみると、周りの犬達はどれもどっぷり太っているかかわいいペットのような犬ばかりでかつての猟犬や番犬のような威厳のある犬は少なくなりました。



しかし、熊達はすでになわばりに入りつつあり、猟師達はあてにはならない、例の犬ではないものたちは有害な言葉を吠えまくっている。

このままではいけない。

まず、自分達が犬であることを思いださないといけない。



そのためには大きな声でかつての自分達の先祖たちがどのようなものだったのかをもう一度みんなに思いだしてもらう方法を考えないと。

それと、熊達を誘導している連中と目立つところに居座っている連中を追い出し、みんなに声が届く場所を確保しないといけない。



とにかくみんなが一つになってなわばりを守り、なわばりを奪おうとする者達を追い出すように説得しないといけない。

こうして、一匹の頼りない犬はなけなしの勇気を振り絞って走りまわることにしました。
しおりを挟む

処理中です...