セリと王子

田中ボサ

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39 お話しよう

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  全員を臭い芝居に巻き込み、私の外堀は埋められてしまった。

学園全体でニヨニヨと温かい目でみられる。

悪魔が胡散臭い笑顔で何故か側によって来る。

寄るな!触るな!砕けてしまえ!!

そう思って睨みつけていると、

「そんなに見つめるなよ」

だと?

誰のせいでこんなに荒れ狂っていると思ってんだ!



「人払いして話せませんか?」

「二人っきりになりたいと「違います」」

こうなったら本心を聞かねば納得がいかん。

ふんす、と鼻息荒く悪魔に詰め寄ると、苦笑しながら時間を空けると言ってくれた。



王宮の悪魔の私室。

さすがに初めて入ったな。

「まあ座れ」

そういわれて座る。

「で、人払いしてまで話したいことはなんだ?愛の囁き、ではないな」

当たり前だ。



ごほん、と咳払いをして思いきって話すことにした。

「今から何を話しても不敬罪に問わないでくださいね」

「愛しい婚約者を不敬罪に問うわけなかろう」

「それですよ、それ!」

「どれだ?」

「愛しい婚約者って何ですか?本心ではそんなこと全然思ってもいないでしょうが」

「どうかな?」

どうかな?じゃねぇ。

「何を企んでるんですか?」

「何も」



「お前さ、思っているよりも力があるんだよな」

いきなりなんだ?

「今後俺は外交を中心に兄上を支えていくことになる。

その時にただニコニコと側にいるだけの女は困るんだよ」

で?

「婚約者候補達はそれぞれ王家の試練を受けてもらったのだが、どれも合格しなかった」

「王家の試練?何ですか、それ」

「ちなみにお前は合格したぞ」

は?そんな試験受けた覚えないぞ?



「ちょっと待ってろ」

そういって側にあったベルを鳴らすと、二人の人が入ってきた。

年配の執事と、年若い侍女。

なんか見たことあるような、あれ?陛下たちと会わされた時にいたよね?

「覚えてないか?」

そういわれても・・・。

「あたしぃ、学園にいってたんですよぅ」

そういって侍女さんがにっこり笑う。

その声、あれか、

「アーニャ様?ご無事だったんですね?」

「わしの孫娘は無事じゃ」

その声はあんときのじいさんか!!

「あの時は素早く医師を読んでもらって助かりました」



なんと、アーニャ様と前ブルック伯爵だ。

「ど、どうしてここに、というか、お元気なんですね?」

ふふふっと二人は笑った。

「心配していただいてたんですね」

「ありがとうございます」



で?どういうこと?

「この二人は王家の影だ。他にもたくさんいるがな」

「私たちはブルック伯爵家とは関係ございません」

「ブルック領の災害は本当の事だ。まあ、援助と引き換えに今回の事は引き受けてもらったがな」

なんか醜聞を巻き散らかしたんじゃないの?大丈夫?ブルック伯爵。

「あそこに援助をする口実ができたからいいんだよ。そのあとはどうなったうやむやにしておいたからな」

「でも、ゴウゼル様にはやりすぎたんじゃ、あれから廊下の角を曲がる前に壁にぴったりくっついて警戒してるんですよ?」

「あれは・・・、カイト様に抱き着く予定だったんですけど、何故か手違いでゴウゼル様がいらっしゃって・・・。あの悲鳴には女性としての自信を無くしました・・」

とほほ、といった感じでアーニャ様じゃなくて、侍女さんが目を伏せた。



「ま、そういうことで、あれが王家の試練だったってことだ」

でも、私、なにもしてないよ?

「お前はちゃんと奔放なふるまいの令嬢に寄り添おうとしたし、それを見ていた周囲も同じような行動をしていた。お前が悪口を言ったり、意地悪をしたりすれば、お前の周囲もそれにのっただろうな。

すべてはお前が作り上げた人脈と、信頼があってこそだ」

え~そんな、照れるな~。

てへへ、と笑うと、

「そうそう、私の様子を見て倒れるかもしれないからと、医師をすぐに手配する様子、頼まれた側近候補の動きも貴女様への信頼度が見て取れました」

うへへ、照れますなぁ。

話し終えて二人は静かに退室していった。



「ということで、お前は婚約者になったということだ」

「全然わかりませんよ」



ふっと、悪魔が疲れたような顔になった。

「俺だって、いつも品行方正、教養、マナーを完璧にしているのは疲れるんだよ」

「本当は腹黒ですからね」

つい、言葉に出てしまった。

「くくっ、そうそう、俺は腹黒なんだ、だから、本当の俺が分かるやつの前では素の自分でいたいんだよ」

「私には初めから素のまま、悪魔に見えてますけど、あってます?」

「悪魔か・・・いいねぇ、これからもそうでありたいね」



なんだかうまく丸め込まれた気がするが、一応悪魔も疲れる、ということはわかった。



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