上 下
44 / 72
【漆】

【漆ノ参】

しおりを挟む
 高垣蒼太は、クラスでは元気な男子のリーダーで通っている。
 翔はオツムが足りてないし、航は頭はいいけど臆病だ。ゆうも頭はいいけど、いつも帽子でちょっと暗いし、リーダーって感じじゃない。みんな蒼太をリーダーだって、そう思ってくれてる。
 でも蒼太は、複雑だった。かけっこでは、翔に勝てない。航には、テストで勝てたことが無い。中途半端が嫌で、なんだかリーダーだって思われるのがこそばゆかった。
 ゆうは……ゆうには。ゆうには、見た目で勝てない。
 帽子から見えるきらきらした金髪はとても綺麗だった。青い瞳は、空を映して輝いていた。長いまつ毛も金色で、白い肌を煌びやかに彩っている。蒼太が金髪に染めてるのも、もちろんゆうの影響だ。
 幼稚園の頃から綺麗な子だと思っていた。でもたしか……年中さんくらいまでは、女の子だったはずなのだ。いつの間にか帽子をかぶるようになって、いつの間にか「僕」と言うようになった。覚えているだろうか。年中さんのころ、お嫁さんにしてあげるって、言ったのを。
「ぼく、おとこのこだよ」
 そう返されて、その時の告白は失敗したけど。
 三週間前。保健室に運ばれていくゆうを見て。胸がまた、高鳴った。

 ……

 あゆみ先生が、いつものようにおっとりと教室に入ってきた。
「はいはーい、朝の会、始めまーす。出席取りますよー ……うんうん、みなさん、元気ですね! じゃあ今日の連絡をしまーす。今日はー……」
 あの。蒼太は意を決して聞いてみた。
「ゆう、どこいったかわかりますか?」
 そうねえ、とあゆみ先生は人差し指を唇に当て、うーん、とかしげた。
 ……だめか。あゆみ先生はおっとりタイプだ。みんな知っている。
「今日、お家に行けば会えると思いますよ」
「えっ。ほんとですかっ?」
 すごくにっこり笑ってる。どうして、三週間も欠席している彼女のことを知っているかは分からないけれど、蒼太にはとても嬉しい知らせだった。

 ……

 放課後、同じ下町の航とみかに帰ろうと誘われた。
「悪い、今日はちょっと! 先帰ってて」
「相原ちゃん?」
「ま、まあ、気にすんな、だから、悪い」
 二人とも不思議そうな顔をした後、教室を後にした。航とみかが教室を出るのを見てから昇降口へ行って靴をとって、来賓用の出入口からそっと出た。

 もうすぐ十月、暑さも和らいだ。東北のこの山では、あっという間に冬が来る。青空は抜けるように綺麗で、山々は上の方が紅葉している。田んぼもだいぶ色がついた。お米のいい匂いをかぎなから、蒼太は上町への田んぼ道を歩く。
(ゆうは、毎日どんな気持ちでこの道を歩いていたんだろう)
 バカ騒ぎする翔と、ゆうのお姉さん役の沙羅。翔の飼い主の茜に、美少女オタクの美玲。みんなで歩く上町までの道は、どんな風に写ってたんだろう。
 ゆうの、後ろ姿が愛しい。制服はいつも男子用で、長い髪はいつも帽子の中で、本当に男か女かわからないけれど。スラッとした白い手足に、いつも釘付けだった。
「ぼく、おとこのこだよ」
 いいんだ。俺は彼女が……好きなんだ。小さい頃から、ずっと。
 ずっと。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結済】昼と夜〜闇に生きる住人〜

野花マリオ
ホラー
この世の中の人間は昼と夜に分けられる。 昼は我々のことである。 では、夜とは闇に生きる住人達のことであり、彼らは闇社会に生きるモノではなく、異界に棲むモノとして生きる住人達のことだ。 彼らは善悪関係なく夜の時間帯を基本として活動するので、とある街には24時間眠らない街であり、それを可能としてるのは我々昼の住人と闇に溶けこむ夜の住人と分けられて活動するからだ。そりゃあ彼らにも同じムジナ生きる住人だから、生きるためヒト社会に溶け込むのだから……。

餅太郎の恐怖箱

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩20:20更新!(予定)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

たたた

星来香文子
ホラー
とある離島で起きた、奇妙な出来事…… 何も信じられない、短編ホラーです。(全10話) ※カクヨムにも掲載しています

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

処理中です...