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【漆】
【漆ノ参】
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高垣蒼太は、クラスでは元気な男子のリーダーで通っている。
翔はオツムが足りてないし、航は頭はいいけど臆病だ。ゆうも頭はいいけど、いつも帽子でちょっと暗いし、リーダーって感じじゃない。みんな蒼太をリーダーだって、そう思ってくれてる。
でも蒼太は、複雑だった。かけっこでは、翔に勝てない。航には、テストで勝てたことが無い。中途半端が嫌で、なんだかリーダーだって思われるのがこそばゆかった。
ゆうは……ゆうには。ゆうには、見た目で勝てない。
帽子から見えるきらきらした金髪はとても綺麗だった。青い瞳は、空を映して輝いていた。長いまつ毛も金色で、白い肌を煌びやかに彩っている。蒼太が金髪に染めてるのも、もちろんゆうの影響だ。
幼稚園の頃から綺麗な子だと思っていた。でもたしか……年中さんくらいまでは、女の子だったはずなのだ。いつの間にか帽子をかぶるようになって、いつの間にか「僕」と言うようになった。覚えているだろうか。年中さんのころ、お嫁さんにしてあげるって、言ったのを。
「ぼく、おとこのこだよ」
そう返されて、その時の告白は失敗したけど。
三週間前。保健室に運ばれていくゆうを見て。胸がまた、高鳴った。
……
あゆみ先生が、いつものようにおっとりと教室に入ってきた。
「はいはーい、朝の会、始めまーす。出席取りますよー ……うんうん、みなさん、元気ですね! じゃあ今日の連絡をしまーす。今日はー……」
あの。蒼太は意を決して聞いてみた。
「ゆう、どこいったかわかりますか?」
そうねえ、とあゆみ先生は人差し指を唇に当て、うーん、とかしげた。
……だめか。あゆみ先生はおっとりタイプだ。みんな知っている。
「今日、お家に行けば会えると思いますよ」
「えっ。ほんとですかっ?」
すごくにっこり笑ってる。どうして、三週間も欠席している彼女のことを知っているかは分からないけれど、蒼太にはとても嬉しい知らせだった。
……
放課後、同じ下町の航とみかに帰ろうと誘われた。
「悪い、今日はちょっと! 先帰ってて」
「相原ちゃん?」
「ま、まあ、気にすんな、だから、悪い」
二人とも不思議そうな顔をした後、教室を後にした。航とみかが教室を出るのを見てから昇降口へ行って靴をとって、来賓用の出入口からそっと出た。
もうすぐ十月、暑さも和らいだ。東北のこの山では、あっという間に冬が来る。青空は抜けるように綺麗で、山々は上の方が紅葉している。田んぼもだいぶ色がついた。お米のいい匂いをかぎなから、蒼太は上町への田んぼ道を歩く。
(ゆうは、毎日どんな気持ちでこの道を歩いていたんだろう)
バカ騒ぎする翔と、ゆうのお姉さん役の沙羅。翔の飼い主の茜に、美少女オタクの美玲。みんなで歩く上町までの道は、どんな風に写ってたんだろう。
ゆうの、後ろ姿が愛しい。制服はいつも男子用で、長い髪はいつも帽子の中で、本当に男か女かわからないけれど。スラッとした白い手足に、いつも釘付けだった。
「ぼく、おとこのこだよ」
いいんだ。俺は彼女が……好きなんだ。小さい頃から、ずっと。
ずっと。
翔はオツムが足りてないし、航は頭はいいけど臆病だ。ゆうも頭はいいけど、いつも帽子でちょっと暗いし、リーダーって感じじゃない。みんな蒼太をリーダーだって、そう思ってくれてる。
でも蒼太は、複雑だった。かけっこでは、翔に勝てない。航には、テストで勝てたことが無い。中途半端が嫌で、なんだかリーダーだって思われるのがこそばゆかった。
ゆうは……ゆうには。ゆうには、見た目で勝てない。
帽子から見えるきらきらした金髪はとても綺麗だった。青い瞳は、空を映して輝いていた。長いまつ毛も金色で、白い肌を煌びやかに彩っている。蒼太が金髪に染めてるのも、もちろんゆうの影響だ。
幼稚園の頃から綺麗な子だと思っていた。でもたしか……年中さんくらいまでは、女の子だったはずなのだ。いつの間にか帽子をかぶるようになって、いつの間にか「僕」と言うようになった。覚えているだろうか。年中さんのころ、お嫁さんにしてあげるって、言ったのを。
「ぼく、おとこのこだよ」
そう返されて、その時の告白は失敗したけど。
三週間前。保健室に運ばれていくゆうを見て。胸がまた、高鳴った。
……
あゆみ先生が、いつものようにおっとりと教室に入ってきた。
「はいはーい、朝の会、始めまーす。出席取りますよー ……うんうん、みなさん、元気ですね! じゃあ今日の連絡をしまーす。今日はー……」
あの。蒼太は意を決して聞いてみた。
「ゆう、どこいったかわかりますか?」
そうねえ、とあゆみ先生は人差し指を唇に当て、うーん、とかしげた。
……だめか。あゆみ先生はおっとりタイプだ。みんな知っている。
「今日、お家に行けば会えると思いますよ」
「えっ。ほんとですかっ?」
すごくにっこり笑ってる。どうして、三週間も欠席している彼女のことを知っているかは分からないけれど、蒼太にはとても嬉しい知らせだった。
……
放課後、同じ下町の航とみかに帰ろうと誘われた。
「悪い、今日はちょっと! 先帰ってて」
「相原ちゃん?」
「ま、まあ、気にすんな、だから、悪い」
二人とも不思議そうな顔をした後、教室を後にした。航とみかが教室を出るのを見てから昇降口へ行って靴をとって、来賓用の出入口からそっと出た。
もうすぐ十月、暑さも和らいだ。東北のこの山では、あっという間に冬が来る。青空は抜けるように綺麗で、山々は上の方が紅葉している。田んぼもだいぶ色がついた。お米のいい匂いをかぎなから、蒼太は上町への田んぼ道を歩く。
(ゆうは、毎日どんな気持ちでこの道を歩いていたんだろう)
バカ騒ぎする翔と、ゆうのお姉さん役の沙羅。翔の飼い主の茜に、美少女オタクの美玲。みんなで歩く上町までの道は、どんな風に写ってたんだろう。
ゆうの、後ろ姿が愛しい。制服はいつも男子用で、長い髪はいつも帽子の中で、本当に男か女かわからないけれど。スラッとした白い手足に、いつも釘付けだった。
「ぼく、おとこのこだよ」
いいんだ。俺は彼女が……好きなんだ。小さい頃から、ずっと。
ずっと。
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