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【陸】

【陸ノ肆】

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「これを持っていきなさい」
 沙羅のおじいちゃんに渡されたのは、赤い箱。狼の絵と、飾り文字で英語に読める何かが書いてある。キャラメルかマッチでも入っているのかと思ったら、ざらざらと拳銃の弾が出てきた。
「この前渡した銃はね、コルトSAAと言ってね、百年以上前の銃なんだ。代々おおかみ狩りの切り札として使われてきた。その特製の弾だ」
 映画なんかで見る拳銃の弾は金色っぽい色だったと思うけど、これは銀色をしている。
「この前に渡したのに一発入っているのは、純銀の弾。一発しかない。絶対に、オリジン……始祖以外に使ってはいけないよ。……今渡したその中の弾は、通常の弾丸にをした弾だ。純銀の弾に比べれば遥かに効力は劣るが、それでも普通の弾の十倍は効くはずだ」
 ゆうは、それをざらざらと手のひらの上に乗せた。銀色に輝く弾頭は全部で二十四発あった。
「村人みなの分はない。考えて、使うんだよ」

 ……

 美玲の家から、沙羅のおじいちゃん家への帰り道。愛しいベルが語りかけてきた。
『美玲は目をつぶって静止していたよ。……弾丸を使う状況じゃなかったはずだ』
「……なるべく苦しませたくなかったんだ」
 ゆうは母に素直に考えていたことを告げた。
『私なら一秒の十分の一で首を落とせた。ところがきみ。弾を打ち込まれた美玲はどうなった?』
「……おおかみになった」
「貴重な二十四分の一を使った上に、結局美玲を苦しませたね」
 頭の中のお母さんは何が言いたいんだろう。
「美玲のおおかみは、。言わば小物だ。目の使い方に慣れたばかりの君でも心臓をつぶせた。私やアレクを襲ってきた大陸のおおかみは、少なく見積もっても美玲の三倍は強かった。かむ力も、脚力も比べ物にならない。そしてオリジンは、次元が異なる。五十倍は強いだろう。きみの力は奴の前では児戯に等しい。私の新月の始祖の力を持ってしても」
「わかった。もういい。ベルは僕が弱くて、馬鹿で、美玲を苦しめたひどいやつだと言いたいんだろ」
「そうだよ」
 なんだよ。ゆうは頭の中で毒づく。もう少し労わってくれたっていいのに。
「ひどいやつ、というのは間違いだけどね。……わかっておくれ、愛しいきみ。きみはまだまだ弱くて、私があげた力の十分の一も使いこなせていない。私はきみに、死んで欲しくないんだ」
「ベルとお母さんの為なら、こんな命惜しくないよ」
 本音だ。今の自分はそのために生きているのだから。
「きみが死ねば、そのどちらも叶わなくなるぞ。……よく、考えるんだ。頭を使うんだ。……今回の反省点は、そんなところだ」

 いつの間に神社の前に着いていた。はたから見たらぶつぶつ一人でしゃべる危ないやつに見えただろう。はあ。こうべを垂れて、日が沈みかけてる谷への階段を下った。下りなのに、なんだか足が、とても重たかった。とても。
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