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短編・番外編2
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シロはツンとして少し強気な性格の猫だ。他の客とも猫とも、相性が悪い相手とはとことん合わない。しかし、客はともかく他の猫から目をつけられていないのは、クロの存在が大きい。
クロはシロにべた惚れのめろめろだ。
クロはシロにどんな対応をされても気にせずいつもの調子を崩さずシロの傍にいる。クロはこの猫カフェでエドワード1世と同じくらい体が大きくて強い。シロがどんな態度でも他の猫から攻撃を受けないのは、このクロが背後にいるからだ。
シロはチビの体に頭を擦り付けながら体を舐めてあげていた。
「チビがね、いなくなって寂しかったのは、エドだけじゃないのよ。シロもね、エドの周りをうろついて鳴いててね。珍しくクロに甘えて離れなかったの」
オーナーは涙を滲ませながら猫達を見つめている。佳奈多も口を両手で覆って震えてしまった。
「とぉちょい…よかった…みんな、チビちゃん、待ってた…」
「噛み方、きゃわ…びっくりしたね。あの茶トラ、打首にしようか」
「ぶに"ゃっ!」
茶トラのルイは大翔を見て飛び上がり、猫ちぐらの中に隠れてしまった。佳奈多が大翔を見ると、大翔はいつもと変わらぬ顔で佳奈多を見ている。一体何をしたのだろうか。佳奈多が首を傾げると、オーナーがズルズルと鼻を啜る音がした。
「本当に、お二人共、ありがとうね。チビちゃん、毛艶ももちろんだけど、元気で、すごく楽しそう…きっと藤野君のお家で、リフレッシュできたのね。本当にありがとう」
「いえ、あの、よ、良かった、です」
「あ、1世が歩いた」
泣き崩れるオーナーをよそに、大翔はエドワード1世を指差す。エドワード1世は立ち上がり、チビと寄り添って歩いていた。チビの不自由な左側を支えるように歩く。カフェの真ん中にある柱の前まで行き、チビが鳴いた。
「ぷなぁ、なぁあ」
「もしかして、エド…ご飯、食べる?」
「うな」
オーナーがチビの鳴き声に答えると、今度はエドワード1世が鳴いた。二匹がいる場所はお昼の時間に猫たちがご飯を食べている場所だった。オーナーはバックヤードに行き、ご飯皿を持って戻ってきた。目の前に置かれた皿にエドワード1世は顔を突っ込む。
「ぷ。な、なぅ」
夢中で食べるエドワード1世に、チビは嬉しそうに体を擦り付けた。佳奈多達の家で見せた表情とはまた違う。チビはエドワード1世の隣で安心しきって体を預けている。
「チビちゃん、嬉しそう。チビちゃんも、エド様に、会いたかったね」
「ぷなぅう」
チビの返事に佳奈多は嬉しくなった。ストレスを抱えていたチビは今、エドワード1世に体を預けている。傍にいて自傷をしてしまった時とは違う。きっとチビはもう大丈夫なんだろう。ほっとした佳奈多の隣で大翔はエドワード1世に語りかける。
「1世が束縛しすぎたんだね。もっとチビちゃんは、伸び伸びさせてあげたほうがいいんだよ。わかったか、1世」
「…うな」
「チビちゃん、他の猫に助けられてんじゃねぇよ」
「ア"?」
「しっかり食って力戻せ。取られるぞ、他の猫に」
「ナアァ"ア"」
まるで会話をするかのような大翔とエドワード1世に、佳奈多は笑ってしまった。食事の合間にエドワード1世は大翔は返事をしていた。佳奈多は大翔の腕に触れる。
「へふっ…ひろくん、ご飯の邪魔しちゃ、だめだよ…ふふっ」
「縛りつけちゃ駄目なんだよね。離れてても、なんなら離れたほうが生き生き伸び伸びしてるんだよ。いっぱい歩いたり、オモチャで遊んだり、オヤツ食べたり猫カフェにハマったり、漫画にハマってフィギュア買ったり」
「んふ…う?」
「俺なんて…1世なんていなくても元気なんだよ。あんまり気張りすぎるな」
「なぅ」
ご飯を食べ終えたエドワード1世はこっくり頷いた。本当に会話をしているような二人に佳奈多は首を傾げる。大翔が言っていたのはチビのことだけではない気がする。きっと気のせいではない。
「ひ、ひろくん…なんか、怒って、る?」
「怒ってないよ。傷ついてもないよ。全く。ちっとも。これっぽっちも」
大翔はキラキラの笑顔を佳奈多に向けた。佳奈多は悟った。これは怒っているのでない。拗ねている。大翔はめちゃくちゃに根に持っている、と。黙っていなくなったことよりも、伸び伸びと一人暮らしを満喫したことを。
最初から満喫していたわけではない。佳奈多も寂しかった。ただ、寂しいだけだったかと聞かれるとそれだけじゃないことも確かだ。寂しいを盾にしてあれこれ趣味を広げていったことも本当だ。大翔がいるからできなかったというわけではないが、世界は間違いなく広がった。佳奈多は何も言えなくなった。
「1世、飯食って良かったです。じゃ、帰ろうか、かなちゃん。チビちゃんも、おいで」
大翔はオーナーに声をかけ、チビに向けて両手を広げた。佳奈多もオーナーも、チビすらも首を傾げる。
「う?………あの、この空気、は、チビちゃん、置いて、いく、感じ、じゃ…?」
「なんで?まだかさぶた完治してないし。ですよね、オーナー」
「えっ!?…ごめんなさい、私も、もう預かりは大丈夫かなって、思うわ。チビ、エドの傍にいたら大丈夫そうだし」
「え?」
「「え?」」
佳奈多は大翔とオーナーと顔を見合わせて首を傾げる。確かにかさぶたは心配だが、もう自傷はしないだろうチビの姿に、預かりは終わりだと思った。
まるで学生時代の大翔と佳奈多のようだったエドワード1世とチビだが、今までのように二人きりの世界に苦しむことはないだろう。もうエドワード1世はチビを縛るように世話をしたりはしない。チビにはエドワード1世だけじゃなく、シロやクロという仲間がいる。先程寄り添って歩く二匹の姿に安堵した。きっとこの先も二匹は寄り添って過ごしていける。
オーナーも安心しきって礼を言っていた。このままチビは置いて、後ほどケージなど借りたものを返そうと、佳奈多は思っていた。
大翔は違ったようだ。眉間に皺を寄せて、ショックを受けている。珍しく感情があらわになっている。
「嘘…これで、お別れなの?」
「う、ひろくん、ここにきたら、会えるよ」
「やだよ。今日も遊ぶよ。うちで、チビちゃんと」
大翔は首を横に振って拒否した。まるで駄々をこねる子供だ。
こんな大翔は珍しい。大翔は佳奈多の想像以上にチビのことが気に入ったようだ。佳奈多が一番好きだと言ったあれは本当だろうか。疑ってしまうほど大翔はチビに入れ込んでいる。
無言で見つめ合う大翔と佳奈多に、オーナーがそっと間に入った。
「あ…じゃあ、かさぶた完治まで、預かっ…」
「んなぁあ」
エドワード1世がオーナーに向かって鳴いた。チビを隠すようにしているエドワード1世は、まるで『渡さない』と言っているかのようだ。
エドワード1世は大翔を横目に見つめたまま、背後に隠したチビを舐めた。挑発するかのようなエドワード1世に大翔は呆然として、そのまま地を這うような声を出した。
「1世、てめぇ…」
「ひ、ひろくん!だめ!怒らない!」
まるでフレーメン反応を起こしたかのような顔のまま怒る大翔と胸を張るエドワード1世の間に佳奈多は両手を広げて割り込んだ。
「な…ぷみゃ…」
チビの困惑した声も聞こえる。大翔は我を取り戻してチビを見た。
「………オーナーさん。もう少し、いてもいいですか。料金は払いますんで」
「そんな!今日、お代は結構よ。満足するまでいて頂戴!もう彼氏さんたら、こんなにチビちゃん気に入ってくれて…あ、今日はね、お店はお休みだから。ゆっくりしていって、ねっ。本当にありがとうね。オヤツ、持ってくるわ!」
クロはシロにべた惚れのめろめろだ。
クロはシロにどんな対応をされても気にせずいつもの調子を崩さずシロの傍にいる。クロはこの猫カフェでエドワード1世と同じくらい体が大きくて強い。シロがどんな態度でも他の猫から攻撃を受けないのは、このクロが背後にいるからだ。
シロはチビの体に頭を擦り付けながら体を舐めてあげていた。
「チビがね、いなくなって寂しかったのは、エドだけじゃないのよ。シロもね、エドの周りをうろついて鳴いててね。珍しくクロに甘えて離れなかったの」
オーナーは涙を滲ませながら猫達を見つめている。佳奈多も口を両手で覆って震えてしまった。
「とぉちょい…よかった…みんな、チビちゃん、待ってた…」
「噛み方、きゃわ…びっくりしたね。あの茶トラ、打首にしようか」
「ぶに"ゃっ!」
茶トラのルイは大翔を見て飛び上がり、猫ちぐらの中に隠れてしまった。佳奈多が大翔を見ると、大翔はいつもと変わらぬ顔で佳奈多を見ている。一体何をしたのだろうか。佳奈多が首を傾げると、オーナーがズルズルと鼻を啜る音がした。
「本当に、お二人共、ありがとうね。チビちゃん、毛艶ももちろんだけど、元気で、すごく楽しそう…きっと藤野君のお家で、リフレッシュできたのね。本当にありがとう」
「いえ、あの、よ、良かった、です」
「あ、1世が歩いた」
泣き崩れるオーナーをよそに、大翔はエドワード1世を指差す。エドワード1世は立ち上がり、チビと寄り添って歩いていた。チビの不自由な左側を支えるように歩く。カフェの真ん中にある柱の前まで行き、チビが鳴いた。
「ぷなぁ、なぁあ」
「もしかして、エド…ご飯、食べる?」
「うな」
オーナーがチビの鳴き声に答えると、今度はエドワード1世が鳴いた。二匹がいる場所はお昼の時間に猫たちがご飯を食べている場所だった。オーナーはバックヤードに行き、ご飯皿を持って戻ってきた。目の前に置かれた皿にエドワード1世は顔を突っ込む。
「ぷ。な、なぅ」
夢中で食べるエドワード1世に、チビは嬉しそうに体を擦り付けた。佳奈多達の家で見せた表情とはまた違う。チビはエドワード1世の隣で安心しきって体を預けている。
「チビちゃん、嬉しそう。チビちゃんも、エド様に、会いたかったね」
「ぷなぅう」
チビの返事に佳奈多は嬉しくなった。ストレスを抱えていたチビは今、エドワード1世に体を預けている。傍にいて自傷をしてしまった時とは違う。きっとチビはもう大丈夫なんだろう。ほっとした佳奈多の隣で大翔はエドワード1世に語りかける。
「1世が束縛しすぎたんだね。もっとチビちゃんは、伸び伸びさせてあげたほうがいいんだよ。わかったか、1世」
「…うな」
「チビちゃん、他の猫に助けられてんじゃねぇよ」
「ア"?」
「しっかり食って力戻せ。取られるぞ、他の猫に」
「ナアァ"ア"」
まるで会話をするかのような大翔とエドワード1世に、佳奈多は笑ってしまった。食事の合間にエドワード1世は大翔は返事をしていた。佳奈多は大翔の腕に触れる。
「へふっ…ひろくん、ご飯の邪魔しちゃ、だめだよ…ふふっ」
「縛りつけちゃ駄目なんだよね。離れてても、なんなら離れたほうが生き生き伸び伸びしてるんだよ。いっぱい歩いたり、オモチャで遊んだり、オヤツ食べたり猫カフェにハマったり、漫画にハマってフィギュア買ったり」
「んふ…う?」
「俺なんて…1世なんていなくても元気なんだよ。あんまり気張りすぎるな」
「なぅ」
ご飯を食べ終えたエドワード1世はこっくり頷いた。本当に会話をしているような二人に佳奈多は首を傾げる。大翔が言っていたのはチビのことだけではない気がする。きっと気のせいではない。
「ひ、ひろくん…なんか、怒って、る?」
「怒ってないよ。傷ついてもないよ。全く。ちっとも。これっぽっちも」
大翔はキラキラの笑顔を佳奈多に向けた。佳奈多は悟った。これは怒っているのでない。拗ねている。大翔はめちゃくちゃに根に持っている、と。黙っていなくなったことよりも、伸び伸びと一人暮らしを満喫したことを。
最初から満喫していたわけではない。佳奈多も寂しかった。ただ、寂しいだけだったかと聞かれるとそれだけじゃないことも確かだ。寂しいを盾にしてあれこれ趣味を広げていったことも本当だ。大翔がいるからできなかったというわけではないが、世界は間違いなく広がった。佳奈多は何も言えなくなった。
「1世、飯食って良かったです。じゃ、帰ろうか、かなちゃん。チビちゃんも、おいで」
大翔はオーナーに声をかけ、チビに向けて両手を広げた。佳奈多もオーナーも、チビすらも首を傾げる。
「う?………あの、この空気、は、チビちゃん、置いて、いく、感じ、じゃ…?」
「なんで?まだかさぶた完治してないし。ですよね、オーナー」
「えっ!?…ごめんなさい、私も、もう預かりは大丈夫かなって、思うわ。チビ、エドの傍にいたら大丈夫そうだし」
「え?」
「「え?」」
佳奈多は大翔とオーナーと顔を見合わせて首を傾げる。確かにかさぶたは心配だが、もう自傷はしないだろうチビの姿に、預かりは終わりだと思った。
まるで学生時代の大翔と佳奈多のようだったエドワード1世とチビだが、今までのように二人きりの世界に苦しむことはないだろう。もうエドワード1世はチビを縛るように世話をしたりはしない。チビにはエドワード1世だけじゃなく、シロやクロという仲間がいる。先程寄り添って歩く二匹の姿に安堵した。きっとこの先も二匹は寄り添って過ごしていける。
オーナーも安心しきって礼を言っていた。このままチビは置いて、後ほどケージなど借りたものを返そうと、佳奈多は思っていた。
大翔は違ったようだ。眉間に皺を寄せて、ショックを受けている。珍しく感情があらわになっている。
「嘘…これで、お別れなの?」
「う、ひろくん、ここにきたら、会えるよ」
「やだよ。今日も遊ぶよ。うちで、チビちゃんと」
大翔は首を横に振って拒否した。まるで駄々をこねる子供だ。
こんな大翔は珍しい。大翔は佳奈多の想像以上にチビのことが気に入ったようだ。佳奈多が一番好きだと言ったあれは本当だろうか。疑ってしまうほど大翔はチビに入れ込んでいる。
無言で見つめ合う大翔と佳奈多に、オーナーがそっと間に入った。
「あ…じゃあ、かさぶた完治まで、預かっ…」
「んなぁあ」
エドワード1世がオーナーに向かって鳴いた。チビを隠すようにしているエドワード1世は、まるで『渡さない』と言っているかのようだ。
エドワード1世は大翔を横目に見つめたまま、背後に隠したチビを舐めた。挑発するかのようなエドワード1世に大翔は呆然として、そのまま地を這うような声を出した。
「1世、てめぇ…」
「ひ、ひろくん!だめ!怒らない!」
まるでフレーメン反応を起こしたかのような顔のまま怒る大翔と胸を張るエドワード1世の間に佳奈多は両手を広げて割り込んだ。
「な…ぷみゃ…」
チビの困惑した声も聞こえる。大翔は我を取り戻してチビを見た。
「………オーナーさん。もう少し、いてもいいですか。料金は払いますんで」
「そんな!今日、お代は結構よ。満足するまでいて頂戴!もう彼氏さんたら、こんなにチビちゃん気に入ってくれて…あ、今日はね、お店はお休みだから。ゆっくりしていって、ねっ。本当にありがとうね。オヤツ、持ってくるわ!」
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