128 / 152
短編・番外編
3
しおりを挟む
初めておねだりをされた時に名前の上がった少年だ。まだ付き合いがあったことに驚き、いつまでも大翔様を独占していることに腹がたった。大翔様は我々松本家のもので、藤野佳奈多のものではない。大翔様自身も、大翔様のものではない。
私はあの方に進言した。大翔様に松本家に集中していただく為、藤野佳奈多に家を出るよう差し向けようと。その頃の馬鹿息子は馬鹿を極めており、あの方は逡巡したものの、承諾した。あの馬鹿に頭取、ひいては松本家は任せられない。それは身に染みてわかったようだ。
学校に出向き、出ていくように伝える。藤野佳奈多は生意気にもあの方に、なぜ大翔様に会いに来なかったのかと責めた。
「ひろくん、あのお家で、一人ぼっちでした。小さい時、淋しくて、でも、怖い気持ちも、なくなっちゃった、って、」
涙ながらに藤野佳奈多は訴えている。
「大翔君の、お父さん、秘書さん。僕がいなくなったら、大翔君、死んじゃいます。絶対、大翔君が、死なないように、見てて、あげて下さい」
去り際に吐き捨てられた言葉はいまだに忘れられない。大した自信だ。青ざめているあの方にも黒い感情が湧いた。何を、あんなガキに心揺さぶられているのか。あの方の心を惑わせるのは松本家と銀行だけで良い。それ以外には毅然とした態度をとっていただきたい。
「私は、間違えたか?大翔とあの友人を引き離すことは、正しいことか?教えてくれ…この選択で、間違っていないか?」
銀行に向かう車内であの方は吐露した。私は絶対に間違いないと断言した。あんな子供に、大翔様の全てをわかっているかのように言われて腹立たしかった。
そしてその後、藤野佳奈多の言葉が現実となり、余計に腹が立った。
藤野佳奈多の消えた大翔様は、人が変わってしまった。姿を消した藤野佳奈多に失望し、先に進んでくれるものと思っていた。あの二人の結束は思っていた以上に強固なものだった。
大翔様はこちらの言葉を何一つ受け入れず、藤野佳奈多を探し続けた。こちらも金を惜しまず妨害したおかげで中々藤野佳奈多に行き着かなかったようだ。しかし大翔様はめげずに藤野佳奈多を追っていた。その執念は一体何なのか。このままでは大翔様は、見つけ次第、藤野佳奈多に取り返しのつかないことをするのではないか。そんな懸念が頭をよぎった頃、大翔様が藤野佳奈多を見つけたようだと連絡が入った。
私はすぐさま、あの方と藤野佳奈多の職場に向かった。二度と見たくもないと思っていた少年は、こちらが言っていた通り大翔様を拒絶した。
想定外だったのは大翔様だった。いつも毅然として王様のようだった彼は、藤野佳奈多の前だと幼い子供のようだった。藤野佳奈多に縋るように伸ばした大翔様の両腕は、彼に拒絶されて地面に落ちた。
『…ひろくん、ずっと、見張ってください。僕がいないと、死んじゃいます』
『あなた達が、そうしたんです』
藤野佳奈多が以前言っていた。誇張でも過大評価でもなかった。
大翔様は王様だった。それは次代の頭取として素晴らしい素質だ。その大翔様が、あのような姿を晒した。
少しだけ、己の選択が間違っていたのではないかと思ってしまった。無理に引き離したことは、間違いだったのではないか。彼らの絆の深さを見誤った。あの二人の絆は想定よりも遥かに闇深いものだった。
あの方は大翔様に対して必死だった。それは次期頭取としての期待だけではないように思えた。我が子に対する心配、懸念、愛情。兄である上の息子にできなかったことを、大翔様にしているのではないだろうか。
馬鹿息子は本当に馬鹿だった。下手に利口で甘やかす母親と、弱気でひたすら甘い父親のせいで簡単に転がり落ちていった。母親の利口さが、少しでもあれば良かったのに。松本家の甘い蜜に全身まで浸りきった結果だろう。最後は薬物に手を出して逮捕されるという最悪の結末を迎えた。まだ死んではいない。しかし、死んだも同然のことをしでかしてくれた。
逮捕による後始末で騒がしい最中、大翔様は大学に復学した。アルバイトをしながら大学に通う、落ち着いたらもう金はいらない、と言う。大翔様が去ってからあの方は穏やかに笑った。
「大翔はきちんと自立しようとしている。素晴らしいことだ」
私はあの方に進言した。大翔様に松本家に集中していただく為、藤野佳奈多に家を出るよう差し向けようと。その頃の馬鹿息子は馬鹿を極めており、あの方は逡巡したものの、承諾した。あの馬鹿に頭取、ひいては松本家は任せられない。それは身に染みてわかったようだ。
学校に出向き、出ていくように伝える。藤野佳奈多は生意気にもあの方に、なぜ大翔様に会いに来なかったのかと責めた。
「ひろくん、あのお家で、一人ぼっちでした。小さい時、淋しくて、でも、怖い気持ちも、なくなっちゃった、って、」
涙ながらに藤野佳奈多は訴えている。
「大翔君の、お父さん、秘書さん。僕がいなくなったら、大翔君、死んじゃいます。絶対、大翔君が、死なないように、見てて、あげて下さい」
去り際に吐き捨てられた言葉はいまだに忘れられない。大した自信だ。青ざめているあの方にも黒い感情が湧いた。何を、あんなガキに心揺さぶられているのか。あの方の心を惑わせるのは松本家と銀行だけで良い。それ以外には毅然とした態度をとっていただきたい。
「私は、間違えたか?大翔とあの友人を引き離すことは、正しいことか?教えてくれ…この選択で、間違っていないか?」
銀行に向かう車内であの方は吐露した。私は絶対に間違いないと断言した。あんな子供に、大翔様の全てをわかっているかのように言われて腹立たしかった。
そしてその後、藤野佳奈多の言葉が現実となり、余計に腹が立った。
藤野佳奈多の消えた大翔様は、人が変わってしまった。姿を消した藤野佳奈多に失望し、先に進んでくれるものと思っていた。あの二人の結束は思っていた以上に強固なものだった。
大翔様はこちらの言葉を何一つ受け入れず、藤野佳奈多を探し続けた。こちらも金を惜しまず妨害したおかげで中々藤野佳奈多に行き着かなかったようだ。しかし大翔様はめげずに藤野佳奈多を追っていた。その執念は一体何なのか。このままでは大翔様は、見つけ次第、藤野佳奈多に取り返しのつかないことをするのではないか。そんな懸念が頭をよぎった頃、大翔様が藤野佳奈多を見つけたようだと連絡が入った。
私はすぐさま、あの方と藤野佳奈多の職場に向かった。二度と見たくもないと思っていた少年は、こちらが言っていた通り大翔様を拒絶した。
想定外だったのは大翔様だった。いつも毅然として王様のようだった彼は、藤野佳奈多の前だと幼い子供のようだった。藤野佳奈多に縋るように伸ばした大翔様の両腕は、彼に拒絶されて地面に落ちた。
『…ひろくん、ずっと、見張ってください。僕がいないと、死んじゃいます』
『あなた達が、そうしたんです』
藤野佳奈多が以前言っていた。誇張でも過大評価でもなかった。
大翔様は王様だった。それは次代の頭取として素晴らしい素質だ。その大翔様が、あのような姿を晒した。
少しだけ、己の選択が間違っていたのではないかと思ってしまった。無理に引き離したことは、間違いだったのではないか。彼らの絆の深さを見誤った。あの二人の絆は想定よりも遥かに闇深いものだった。
あの方は大翔様に対して必死だった。それは次期頭取としての期待だけではないように思えた。我が子に対する心配、懸念、愛情。兄である上の息子にできなかったことを、大翔様にしているのではないだろうか。
馬鹿息子は本当に馬鹿だった。下手に利口で甘やかす母親と、弱気でひたすら甘い父親のせいで簡単に転がり落ちていった。母親の利口さが、少しでもあれば良かったのに。松本家の甘い蜜に全身まで浸りきった結果だろう。最後は薬物に手を出して逮捕されるという最悪の結末を迎えた。まだ死んではいない。しかし、死んだも同然のことをしでかしてくれた。
逮捕による後始末で騒がしい最中、大翔様は大学に復学した。アルバイトをしながら大学に通う、落ち着いたらもう金はいらない、と言う。大翔様が去ってからあの方は穏やかに笑った。
「大翔はきちんと自立しようとしている。素晴らしいことだ」
50
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ようよう白くなりゆく
たかせまこと
BL
大学時代からつきあっていた相手に、実は二股かけられていた。
失恋して心機一転を図ったおれ――生方 郁――が、出会った人たちと絆を結んでいく話。
別サイトにも掲載しています。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる