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「うん。帰ろうね、かなちゃん」
大翔は穏やかに笑う。戦意はなくなったようだ。しかし、佳奈多を抱き上げる力強い腕が、まだ昂っていると言っている。家に帰った後を思うと、怖い。しかし、山田の大翔への想いを踏みにじった自分への罰だと、佳奈多は歯を食いしばって涙を堪えた。
それから夏休みまで、佳奈多は大翔から離れずにいた。大翔も佳奈多を放さず、いつも一緒にいた。今までの姫達程とはいかないが、佳奈多は極力大翔の肉体と精神を気遣うようにした。大翔が今何を欲しているのか、どうしてほしいのか。普段学校では表情を変えない大翔だが、近くで見ているとわかる。大翔はとても柔和になった。見た目に変化はないが、佳奈多に対しても気を張っていたようだ。中学生の頃とも高校に進学した頃とも違う大翔がいた。
何度も体を重ねるようになって、ますます大翔は愛情深く穏やかになった。行為に恐怖よりも恥ずかしさが上回るようになった頃には、佳奈多は大翔を受け入れられるようになっていた。
山田の一件以来、大翔に近づく生徒はいなくなった。取り巻き達も山田も退学にも停学にもなっておらず、どうやら喧嘩両成敗ということで終わったようだ。山田が大翔に近づくことはなかった。いつも山田は逃げるように大翔の前からいなくなる。
好きになった人からあんな敵意を向けられて、どれだけ怖かったことだろう。
あの時の自分にはああするしかなかった。しかし、もっと別の方法があったのではないかと、佳奈多は今でも後悔している。
夏休み中盤、佳奈多は大翔とお墓参りに行った。大翔の父が建てたというお墓はとても立派なものだった。
他人の自分が訪れて良いものなのか不安だったが、来てほしいと食い下がる大翔に佳奈多は頷いた。佳奈多が渋る時はすぐに身を引く大翔が佳奈多に再度「来てくれると嬉しい」と言った。きっと佳奈多に来てほしい理由があったのだろう。佳奈多は最初に不安を口にしてしまったことを申し訳なく思った。
大翔の母は小学校に入学する頃に亡くなった。あの頃の大翔のように、快活な人だった。墓を目の前にして、改めて大翔の母はこの世にいないのだと佳奈多は痛感した。葬儀にも参列したのに、成長するにつれて実感が薄れていた。佳奈多の頭の何処かに、嘘であって欲しいという想いがあったのかもしれない。
以前は月命日には訪れていたそうだ。佳奈多と暮らすようになって遠慮してくれていたのだろう。初めに手を合わせたが、改めて佳奈多は手を合わせた。大翔の学校でのこと、今一緒に暮らしていること、大翔と恋人として付き合っていること。
恋人というより、佳奈多は大翔をいいよう利用していること。
生前、大翔の母はとても優しかった。父に叱られる消極的な性格を、大人しくて可愛いと褒めてくれた。そんな母を持つ大翔に今までたくさん守ってもらってきた。守らせてきた。佳奈多は手を合わせて、自分が大翔にさせてきたことの酷さと己の浅はかさを改めて思い知った。
今の大翔と佳奈多を見たら、大翔の母は悲しむ。佳奈多は自分の居場所を守るために、大翔と体を重ねるようになった。
優しくて快活だったた大翔の母は、大翔を大切にしていた。大切な大翔の心を、佳奈多はいいように利用している。これを本当に恋人同士と言えるのだろうか。
佳奈多は大翔の母に懺悔した。
(僕は、大翔君と、お付き合いしています。男なのに、ごめんなさい。僕は、大翔君の、恋人です。…ごめんなさい)
「そんなに長く、何話してるの?」
大翔に声をかけられて、佳奈多は顔を上げた。何を思っていたのかを伝えると、からかわれてしまった。大翔は屈託なく笑う。学校では見せないが、二人でいると大翔は色んな表情を見せてくれる。
大翔の唇が耳に近づく。
大翔は穏やかに笑う。戦意はなくなったようだ。しかし、佳奈多を抱き上げる力強い腕が、まだ昂っていると言っている。家に帰った後を思うと、怖い。しかし、山田の大翔への想いを踏みにじった自分への罰だと、佳奈多は歯を食いしばって涙を堪えた。
それから夏休みまで、佳奈多は大翔から離れずにいた。大翔も佳奈多を放さず、いつも一緒にいた。今までの姫達程とはいかないが、佳奈多は極力大翔の肉体と精神を気遣うようにした。大翔が今何を欲しているのか、どうしてほしいのか。普段学校では表情を変えない大翔だが、近くで見ているとわかる。大翔はとても柔和になった。見た目に変化はないが、佳奈多に対しても気を張っていたようだ。中学生の頃とも高校に進学した頃とも違う大翔がいた。
何度も体を重ねるようになって、ますます大翔は愛情深く穏やかになった。行為に恐怖よりも恥ずかしさが上回るようになった頃には、佳奈多は大翔を受け入れられるようになっていた。
山田の一件以来、大翔に近づく生徒はいなくなった。取り巻き達も山田も退学にも停学にもなっておらず、どうやら喧嘩両成敗ということで終わったようだ。山田が大翔に近づくことはなかった。いつも山田は逃げるように大翔の前からいなくなる。
好きになった人からあんな敵意を向けられて、どれだけ怖かったことだろう。
あの時の自分にはああするしかなかった。しかし、もっと別の方法があったのではないかと、佳奈多は今でも後悔している。
夏休み中盤、佳奈多は大翔とお墓参りに行った。大翔の父が建てたというお墓はとても立派なものだった。
他人の自分が訪れて良いものなのか不安だったが、来てほしいと食い下がる大翔に佳奈多は頷いた。佳奈多が渋る時はすぐに身を引く大翔が佳奈多に再度「来てくれると嬉しい」と言った。きっと佳奈多に来てほしい理由があったのだろう。佳奈多は最初に不安を口にしてしまったことを申し訳なく思った。
大翔の母は小学校に入学する頃に亡くなった。あの頃の大翔のように、快活な人だった。墓を目の前にして、改めて大翔の母はこの世にいないのだと佳奈多は痛感した。葬儀にも参列したのに、成長するにつれて実感が薄れていた。佳奈多の頭の何処かに、嘘であって欲しいという想いがあったのかもしれない。
以前は月命日には訪れていたそうだ。佳奈多と暮らすようになって遠慮してくれていたのだろう。初めに手を合わせたが、改めて佳奈多は手を合わせた。大翔の学校でのこと、今一緒に暮らしていること、大翔と恋人として付き合っていること。
恋人というより、佳奈多は大翔をいいよう利用していること。
生前、大翔の母はとても優しかった。父に叱られる消極的な性格を、大人しくて可愛いと褒めてくれた。そんな母を持つ大翔に今までたくさん守ってもらってきた。守らせてきた。佳奈多は手を合わせて、自分が大翔にさせてきたことの酷さと己の浅はかさを改めて思い知った。
今の大翔と佳奈多を見たら、大翔の母は悲しむ。佳奈多は自分の居場所を守るために、大翔と体を重ねるようになった。
優しくて快活だったた大翔の母は、大翔を大切にしていた。大切な大翔の心を、佳奈多はいいように利用している。これを本当に恋人同士と言えるのだろうか。
佳奈多は大翔の母に懺悔した。
(僕は、大翔君と、お付き合いしています。男なのに、ごめんなさい。僕は、大翔君の、恋人です。…ごめんなさい)
「そんなに長く、何話してるの?」
大翔に声をかけられて、佳奈多は顔を上げた。何を思っていたのかを伝えると、からかわれてしまった。大翔は屈託なく笑う。学校では見せないが、二人でいると大翔は色んな表情を見せてくれる。
大翔の唇が耳に近づく。
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