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森之宮家の三兄弟

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微笑む幸四郎を、伊吹は睨む。この男は一体なんなのか。親の力で入社したことを馬鹿にしたいのか、自分を使って父に取り入りたいのか、果たしてどちらなのか。
幸四郎は目を丸くして伊吹を見た。
「それは何か、いけないことですか?それに、七光りで入れるほど、御社は優しくないと思いますが。実は…私、森之宮製薬に落ちましてね」
幸四郎は微妙な笑顔を浮かべた。今度は伊吹が目を丸くした。それは転職活動をしていた、ということだろうか。そんな話をこの場でしていいのだろうか。幸四郎は慌てて両手を振った。
「あっ、転職じゃないですよ?大学生の頃、第一志望で。で、落ちまして。若い方が社長をなさってると聞いて、まぁ…その…面接を、舐めてかかりまして。最終面接でお父様とお会いしたのですが、今までどんな研究を行ったか、まぁ、自信満々に語ったわけです。が、お父様はご存知で、熟知されていまして。薬学部を出た後に経営学を学んだと伺っていたので薬学は片手間に学んだ程度だろうと思っていたんですね。お恥ずかしい話です…お父様に論破されまして。何が足りなかったのか、何をすべきだったのか」
幸四郎は頭をかいた。一体何の話だろうか。気づけば伊吹は口を開けて聞き入ってしまっている。幸四郎は早口で話を続けた。
「お父様の洞察力と見識には驚かされました。どうせわからないだろうと、高をくくっていたんですが…お話をして、この方の下で働きたいと思いました。しかし、『よく学んでいますが、人を見る目はもう少し養うべきだ』、と…全くもってその通りです。年齢と、失礼ながら若々しい見た目と経歴で勝手に判断してしまいました。森之宮さんのお父様は、他人を見抜く力をお持ちです。そんなあなたを入社させたということは、伊吹さんも大変優秀な方なのだろうと思います」
伊吹は口を開けたまま、首を傾げた。まさか父の聞くことになるなんて思ってもいなかった。幸四郎はまだ、裕司がいかに優秀か、いかに実物が格好良かったかを早口で熱くまくし立てている。なぜそんな話をしたのだろうかと考えて伊吹は思った。
自分に、ひいては森之宮製薬に取り入りたいのだろう。それこそ転職を考えているのかもしれない。
「これから、仕事をご一緒させていただけるなんて、楽しみです」
「そーっすね」
微笑む幸四郎に、そうはいくかと伊吹は無意識に彼を睨みつけてしまっていた。


その翌週。早速幸四郎と打ち合わせをすることになった。新薬について共同研究開発することで認可までの期間を早めようということらしい。今後のスケジュールについてを、顔を合わせて話し合う。
「また、お会いできましたね」
ニコニコ笑っている幸四郎に、伊吹は訝しげな顔を向けた。この無害そうな笑顔に騙されてなるものか。この男は森之宮製薬に取り入ろうとしている。転職、なんなら伊吹の研究員としてのポジションを狙っているかもしれない。
森之宮へのパイプ役なんか絶対しない。父の威光を借りている伊吹が下手な真似をすることはできない。兄の咲也と弟の開斗の顔が浮かぶ。彼らに失望されたり嘲笑されるようなことはしない。華を悲しませるような結果にはしない。
伊吹はあまり懐に飛び込ませないように、キレないように、注意を払った。
「この検証が終わらないと次の段階には行けないから…」
「ええ、検証に関してもこちらと共同で。伊吹さん、こちらの薬品については御社でお願いできないでしょうか、弊社に扱った経験のあるものがいなくて…」
「それは俺がやる。できる」
「本当ですか!?やはり、素晴らしい、です…では、スケジュールはここまで削りましょう。大幅に短縮できましたね」
「何いってんだよ、もっと詰められるだろ」
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