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エピローグ 5
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「いいから黙って聞いとけよ。華が小さい時と笑い方がそっくりなんだよ。覚えてるだろ?お前も」
「そうだな、可愛かったな」
「おい、誰に可愛いとか言ってんだよ。俺の嫁だぞ」
「このやりとりは5回…しつこいな、お前も。疲れてるのか?」
「やっぱ咲也は華に似るな。可愛いし。これから顔が変わるんだ。絶対…そういや華、降りてこないな」
裕司は疲れているようだ。健司の言葉が通じていない。
裕司が顔を上げて、時計を見た。華が部屋に行ってからだいぶ時間が経っている。健司は裕司と共に応接室を出て階段を上がった。華の部屋は2階にある。華の部屋の扉を開けて二人は驚いた。
そこには誰も、いなかった。
「華!?」
バスルームまで覗いたが、華はもちろん咲也の姿もない。裕司と手分けして室内を見るが、さほど大きくない室内にはやはり、誰もいなかった。
「一体、どこに…」
「…もしかして」
裕司は部屋を出ていった。健司が追いかけると、裕司は自分の部屋に入っていった。裕司の部屋は華の部屋から階段を挟んで反対側にある。なぜか扉が開いていた。健司が裕司の部屋に入ると、そこには執事がいた。執事の腕に咲也が抱かれている。
「あぁ、裕司様。咲也様が、お目覚めになられまして…お越しいただけて助かりました」
裕司が執事の腕から咲也を受け取る。
裕司が歩み寄った先にはベッドで眠る華がいた。遠目にもわかるほど、華はぐっすり眠っている。
「いつから、華はここに?」
「1時間ほどではないでしょうか…裕司様のお部屋に入られるお姿を拝見しております。今しがた、扉が開いていたのでお二人の姿が目に入りまして…咲也様は、恐らく私の気配で目覚めてしまわれたのかと。華様がよく眠っておられるので、お声掛けするのも憚られまして…」
執事は話しながら腰を叩いていた。この屋敷に長く努めている彼は父よりも遥かに年上だ。先々代の頃から勤めてくれている彼に、赤子を抱っこし続けるのは中々の苦行だったのかもしれない。
「悪かった。ありがとう、起こさないでくれて…疲れたよな、華」
裕司は少し困った顔で、優しく華に微笑んだ。健司は初めて見る。兄弟の知らない顔だった。
咲也は裕司の腕に抱かれてあーやらうーやら声を発している。咲也が華に手を伸ばして一際大きく声を発した時、華が反応を見せた。
「ん…ぅ…ぇ、え?…えっ!?」
華は辺りを見渡して驚いていた。執事と健司を見て目を丸くする。驚いたのはこっちなのだが。華は何度も辺りを見渡した。
「ぼく、もしかして、…寝てた?」
「超~爆睡。そろそろ帰ろ。顔、洗ってから」
裕司に口元を触れられて、華はようやく自分がよだれを流していたことに気づいたようだ。華は顔を赤くしてバスルームに駆け込んでいった。
一時間ほど前となると、応接室を出た時間と変わらない。なぜ華は自室にいなかったのか。
「華は、どうしてここに…」
「…裕司様のお部屋に入られる前に、ご自身のお部屋の前にいらっしゃいました。階段の途中から見えましたが、しばらくいらしたのではないでしょうか…あの部屋は、華様にとってあまり立ち入りたくない場所なのかも、しれませんなぁ…」
執事は最後、ぽつりと呟いた。華の部屋は、華が発情期に閉じ込められた場所だ。恐れを抱いても不思議ではない。
顔を清めた華と共に裕司の部屋を出る。
「また来よう、華。いつでも来れるから」
「…うん」
裕司の部屋を出て階下を目指す。華は自室に目を向けず、まっすぐ前を向いて階段を降りていった。
「そうだな、可愛かったな」
「おい、誰に可愛いとか言ってんだよ。俺の嫁だぞ」
「このやりとりは5回…しつこいな、お前も。疲れてるのか?」
「やっぱ咲也は華に似るな。可愛いし。これから顔が変わるんだ。絶対…そういや華、降りてこないな」
裕司は疲れているようだ。健司の言葉が通じていない。
裕司が顔を上げて、時計を見た。華が部屋に行ってからだいぶ時間が経っている。健司は裕司と共に応接室を出て階段を上がった。華の部屋は2階にある。華の部屋の扉を開けて二人は驚いた。
そこには誰も、いなかった。
「華!?」
バスルームまで覗いたが、華はもちろん咲也の姿もない。裕司と手分けして室内を見るが、さほど大きくない室内にはやはり、誰もいなかった。
「一体、どこに…」
「…もしかして」
裕司は部屋を出ていった。健司が追いかけると、裕司は自分の部屋に入っていった。裕司の部屋は華の部屋から階段を挟んで反対側にある。なぜか扉が開いていた。健司が裕司の部屋に入ると、そこには執事がいた。執事の腕に咲也が抱かれている。
「あぁ、裕司様。咲也様が、お目覚めになられまして…お越しいただけて助かりました」
裕司が執事の腕から咲也を受け取る。
裕司が歩み寄った先にはベッドで眠る華がいた。遠目にもわかるほど、華はぐっすり眠っている。
「いつから、華はここに?」
「1時間ほどではないでしょうか…裕司様のお部屋に入られるお姿を拝見しております。今しがた、扉が開いていたのでお二人の姿が目に入りまして…咲也様は、恐らく私の気配で目覚めてしまわれたのかと。華様がよく眠っておられるので、お声掛けするのも憚られまして…」
執事は話しながら腰を叩いていた。この屋敷に長く努めている彼は父よりも遥かに年上だ。先々代の頃から勤めてくれている彼に、赤子を抱っこし続けるのは中々の苦行だったのかもしれない。
「悪かった。ありがとう、起こさないでくれて…疲れたよな、華」
裕司は少し困った顔で、優しく華に微笑んだ。健司は初めて見る。兄弟の知らない顔だった。
咲也は裕司の腕に抱かれてあーやらうーやら声を発している。咲也が華に手を伸ばして一際大きく声を発した時、華が反応を見せた。
「ん…ぅ…ぇ、え?…えっ!?」
華は辺りを見渡して驚いていた。執事と健司を見て目を丸くする。驚いたのはこっちなのだが。華は何度も辺りを見渡した。
「ぼく、もしかして、…寝てた?」
「超~爆睡。そろそろ帰ろ。顔、洗ってから」
裕司に口元を触れられて、華はようやく自分がよだれを流していたことに気づいたようだ。華は顔を赤くしてバスルームに駆け込んでいった。
一時間ほど前となると、応接室を出た時間と変わらない。なぜ華は自室にいなかったのか。
「華は、どうしてここに…」
「…裕司様のお部屋に入られる前に、ご自身のお部屋の前にいらっしゃいました。階段の途中から見えましたが、しばらくいらしたのではないでしょうか…あの部屋は、華様にとってあまり立ち入りたくない場所なのかも、しれませんなぁ…」
執事は最後、ぽつりと呟いた。華の部屋は、華が発情期に閉じ込められた場所だ。恐れを抱いても不思議ではない。
顔を清めた華と共に裕司の部屋を出る。
「また来よう、華。いつでも来れるから」
「…うん」
裕司の部屋を出て階下を目指す。華は自室に目を向けず、まっすぐ前を向いて階段を降りていった。
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