上 下
14 / 22

14 sideレイ

しおりを挟む
side レイ




あのドラマ撮影から数日経ち、レイはマリアの店へ向かっていた。タクヤの事務所の人に車を出してもらい、近くで降ろしてもらった。目的のビルを探していると、マイの姿が目に入った。そばにより、声をかける。
「マイ。今日は女装じゃないんだな」
「あ~ほら、今日メイクしてもらうし…つか、いじんなよぉ…」
マイは赤くなった顔を両手で隠した。なんだか仕草まで女性っぽさが増した気がする。女装アイドルにとっては良い兆候なのだろうが、マリアがバリタチの件もあり、レイは心配になった。
「あの…余計なお世話だとは思うんだが…お前とマリアさんは、どういう…」
「ん?」
「すみませ~ん、ツインズのレイさんですよね?ちょっとお話、いいですか?」
急に声をかけられて、レイは驚いて振り返った。記者と思われる人物が無遠慮にレイの写真を撮りだした。あまりの遠慮のなさに、レイは眉間にシワを寄せてしまった。よりにもよって
いつもこういう輩から守ってくれるタクヤの事務所の人間と別れたばかりだ。タイミングが悪すぎる。もしかしたら記者は狙っていたのかもしれない。記者は名刺を差し出しながら話しだした。
「どうなんですか?タクヤと付き合ってるんですか?どこまでやってます?タクヤさん、『お友達』としか言わないんで、みんな気になってるんですよ~」
ヘラヘラと笑う記者に、レイの心は氷のように冷めた。タクヤの名前が出たことと、話の内容の不躾さに、レイの頭は芯まで冷えていた。表情を変えたレイに、記者はぴくりと体を揺らした。
「…彼が『友達』だと言うのなら、そうなんだと思います」
レイは意味深に、薄っすらと微笑んで答えた。これがどういう結果になるかはわからない。答えるべきではないかもしれない。しかし、この記者がどう思おうがどう書こうが、構わない。なんなら勘違いしてとんでもない記事を書いてくれればいい。それが話題になってくれれば、より顔を売るきっかけになる。
(こんな下世話な記者のいる雑誌なら、利用してやろうじゃねぇか)
胸の中でタクヤのような口調で吐き捨てる。微笑むレイに、記者はゴクリと生唾を飲んだ。固まる記者に、レイは頭を下げて名刺を受け取る。
「念のため、彼の事務所を通してから記事にして下さいね?」
レイが問うと、記者は何度も頷いた。レイは記者に背中を向けた。

マイのあとについてビルに入る。エレベーターで二人きりになると、マイがようやく口を開いた。
「あ、あのさ、タクヤのこと、」
「本当は友達ですらないけどな。あのcolorSのセンターと、友達なわけない。なれるわけがない」
「いや、あの、彼…『彼』って、なんか…」
「なんだ?」
マイは真っ赤になっている。何が言いたいのかわからずマイの言葉を待ったが、マイの答えを聞く前に、エレベーターは到着してしまった。
「いらっしゃ~い♡」
「待ってたわよぉ♡」
ド派手な女装姿のマリアともう一人、ド派手で面白メイクのお姉さんに、レイは度肝を抜かれた。驚きのあまり、マイの事は頭からすっぽり抜けていってしまった。


レイはマリアにメイクを施され、メイクを落とさずにそのままタクヤの家に帰ってきた。マリアが『このメイク、タクヤが絶対に喜ぶわよ♡』と言ってメイクを落とさせてくれなかったからだ。今日は『柔らか猫目メイク』だそうだ。タクヤは猫好きなのだろうか。それにしてもマリアとのメイク談義は実に有意義なものだった。メイク道具の意外な使い道だったり、絶対使わないと思っていた色の使い方だったり。そしてマイが益々美しさに磨きがかかっていた。メイクをすると、普段の細マッチョで健康的な男子が嘘のように色っぽくなってしまう。女の子らしさからは程遠いのに、マイらしい美しさが際立ち魅力的だった。
(やっぱり、マリアさんに特別にしてもらっているんだろうか…)
バリタチ、という言葉が頭をかすめてレイは頭を振った。


夕飯の準備をしているとスマホがなった。タクヤから『今から帰るから飯よろ~』とメッセージが来ていた。適当なスタンプを押して帰りを待つ。早くメイクを落としたくて、タクヤの帰りを今か今かと待ちわびた。しばらくして、タクヤはリビングに姿を見せた。レイはタクヤの前に飛び出していった。
「おかえり」
「ただい…まっ?!」
「このメイク、どうだ?嬉しいか?」
思ったよりも至近距離になってしまったが、レイよりも少し背の高いタクヤを見上げる。タクヤはみるみる顔が赤くなっていった。
「はぁっ?お前、その顔…俺を、喜ばそうとしてんの?」
「嬉しくないのか?」
「う、嬉しい。すげぇ、可愛い」
「そうか。良かった」
これでメイクが落とせる。ホッとして、レイは風呂場の脱衣所へ向かった。マリアもマイも可愛い可愛いと褒めてくれたが所詮自分の、男の顔だ。自己流メイクよりも女装が映えるメイクはとてもありがたいが、かといってずっと顔面に何かをつけたままでいるのは居心地が悪い。マリアにタクヤが嬉しそうだったと送っておこう。そう思ったとき、レイはタクヤに腕を取られた。
「どこ行くんだよ」
「メイクを落としに」
「なんでだよ。もう少し、そのままでいろよ」
真剣な表情のタクヤに、レイはしょんぼりとうつむいて口を尖らせた。やっとメイクを落とせると思ったのに。タクヤは慌てて腕を開放してくれた。
「悪い、腕、痛かったか?」
「いや、全然」
「じゃあなんだよ、その顔…いちいち、可愛い顔すんなよ」
腕が痛いわけじゃなく、早くメイクを落としたいだけだ。そう伝えたかったが、タクヤは頭を掻いて早々に自室に消えていった。着替えるのだろう。女装をしても違和感がない顔面にしてもらった。落とすのはもったいないとおもいつつ、普段、ステージ以外でメイクをしないレイはメイクを落としたくて仕方なかった。もう少しの我慢だ、と、レイはため息をついて食事を食卓に並べていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

俺の小学生時代に童貞を奪ったえっちなお兄さんに再会してしまいました

湊戸アサギリ
BL
今年の一月にピクシブにアップしたものを。 男子小学生×隣のエロお兄さんで直接的ではありませんが性描写があります。念の為R15になります。成長してから小学生時代に出会ったお兄さんと再会してしまうところで幕な内容になっています ※成人男性が小学生に手を出しています 2023.6.18 表紙をAIイラストに変更しました

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

処理中です...