うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第73話

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 サッカーの助っ人の対価は学食+α。

 仲介者の俺には、真面目にやりなさいって条件をのんで返す。
 暗にこれで貸し借りは無しだぞって言ってるのだと思う。

 ウリ……カラダの対価は現金で、秘密を保持する為ならばヒトを脅すことも躊躇しない。

 実際に、脅されたしね。


(あれから、まだ一ヶ月しか過ぎてねぇとか……密度濃すぎ)

 スマホのボイレコで、アレな音声を録音されたのが約一ヶ月前。
 あん時はマジでぶっ殺してやろうかと思ったな。
 音声はナガノさんが消してくれたから良かったけど、取引材料が無くなった久賀に「なんでも要求してください、ご主人様」なんて発言をされて、取引がねぇと信用もされないのかと傷ついた。

 あの日、俺と久賀の関係はバラバラの粉々に壊れて……いや、最初から何もなかったんだよな。俺が勝手にダチだと思っていただけ。その真実に気づき、愕然となった。

 それから一ヶ月。
 本当の友人になるためにがむしゃらに足掻いた。

 にっこり笑顔で拒否られて、マジな声音で脅されて、安いトモダチごっこなら余所でやれよと吐き捨てられた。

 それでも、がむしゃらに後を追いかけた俺って、やっぱりちょっと変なのかな。
 変だ変だって久賀に連呼されるんだよね。

 ま……確かに、友情を主張するには、かなり変だよな。

 だって恋だから。
 足掻くうちに気づいた感情は、友情じゃなくて、恋だった。

 悲しいと辛いと苦しいを何度も感じながら、夜にこっそり泣いて、ガキみたいに怒って、しつこく構って追いかけて、屋根から飛んだり、ドックレースばりに走ったり、噛み合わない会話を繰り返し、繰り返して……久賀に近づきたいと、側にいたいと思う気持ちこころに従った。

 卑屈にもなった、嫉妬もした、ちょっとしたことで心は天国まで飛んでいけるし、地獄にだって落とされる。
 やめようと思わなかったわけじゃない。
 諦めようとしなかったわけじゃない。
 だけど、何度心が痛んでも、好きは消えなかったし、恋を捨てられなかった。
 ただそれだけだ。

 忘れようかと迷う度に、諦めようかと空を見上げる度に、雨の日の久賀の姿が蘇った。

 寂しそうな横顔に恋をした。

 あの日のアイツが、今もまだきっとひとりっきりで、雨の日に立ち尽くしている。そんな気がする。

 何かに傷ついて、涙も流せずに泣いているのなら、何も出来なくてもその隣に寄り添いたいと思った。

 だから、頑張っているだけ。


 何か欲しいモノのがあるから、ダチをやってるワケじゃねぇんだよ、久賀さん?

 そりゃあ、俺のために活躍してやるなんて言われて、嬉しくないわけがないんだけどね。
 だけど対価を得るために、お前に何かをしてるワケじゃねぇんだ。ダチだからだよ。好きだから。
 大切にしたいから、勝手にそうしてるだけなんだ。


 もし、もし何か、得たいモノがあるとすれば、それはあいつの心くらいだろう。
 一番じゃなくていい。特別じゃなくてもいい。心の端っこでいいから、俺の存在を、久賀の中に置いて欲しい。
 なんて、こんな事を考えてることが知られたら、きっとトモダチのフリすらしてくれないだろうな。


「おっがみー」

 きゃぴきゃぴした声に視線を動かしたら大山がいた。
いつも通りのにこやかさでフィールドを見渡して騒ぐ。いきなしウルサくなった。

「ダーリンは活躍中ですかー?」

 誰がダーリンだ。
 ……もしかしてコイツには、バレちゃってたりするのかな?
 いや、大山はいつもこんなカンジか。

「お前さぁ、坂本と帰るって言ってなかった?」

「振られちゃった。大山くんハートブレイク」

 大山はくすん、と泣き真似をはじめた。あー、きっといつもの調子でふざけて……ふざけすぎて、坂本を怒らせたんだろうな。
 
「どーせバカな事を言って怒らせたんだろう」

 坂本は普段はそーでもないんだけど、大山相手だとちょっと短気になるんだよね。
 そういえば坂本が「大山あいつの前だと調子が狂うからムカつく」なんてことを昔言ってたなぁ。それでも、不思議と仲が良い二人なのだ。

 大山と並んで観戦をはじめると程なく、大きな歓声が女子陣を中心に湧き上がった。
 遠く離れたフィールドを走る久賀と、一瞬視線が合った気がした。
 気のせいだ。
 そんなコトが可能な距離じゃない。

 鮮やかにゴールを決めたアイツは、七色の可視光線に包まれている。
 もちろんコレも気のせいだ。
 でも、ホントに発光してるんじゃないの?ってくらい目立っているのは事実。

『後半のシュートはお前にあげる』

 気まぐれに発せられたセリフが脳内をリプレイする。
 シュートしたボールをしっかりゴールさせるところが、アイツの憎らしいくらいカッコイイところだ。
 そりゃモテるよな。

 カッコイイもん。

 気まぐれを本気にしたら、痛い目にあうぞ。と自分に言い聞かせるけど、心臓のドキドキは大きくて煩いばかりだ。

(タラシ。おちょーしもの。下半身男。キザやろー)

 悪口を並べて、心を静めようとしたけど、ダメだった。


 キラキラの、七色可視光線。
 魂ごと持っていかれる。
 わけも分からずに、泣きそうだ。
 いつか……いつかきっと、切なさに押しつぶされる。そんな気がする。

「おおうっー!今度はナイスアシスト。すっげー!サスガ我がクラスのスーパーヒーロー!」

 ぴょんと飛び跳ねる大山を横目でみた。
「いやぁぁぁーん!久賀君ったら素敵よぉぉぉん」と、おふざけ口調の黄色い声援を送っている。……恥ずかしいヤツだな。
 ホレ見ろ、女子陣に笑われてるぞ。
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