うそつきな友情(改訂版)

あきる

文字の大きさ
上 下
95 / 135

番外編 僕らの友情8

しおりを挟む
 悩みを聞き出せたら、第二関門クリアで、悩みをスパッと解決できたらオールクリアおめでとーになるんですがね。なかなかどーして強情じゃないか、弟よ。
 そろそろ尾上があがってくるかな……妖精さんとしては、極秘活動を目撃されるのは芳しくない。
 だって恥ずかしいじゃん、てへ。

「兄ちゃ……兄貴に、頼まれたの?」

「ふぁい?!」

 ドアの方をちらちら気にしていると、アキ坊にそう尋ねられた。すっとんきょうな声だったのが気にくわなかったのか、再びムスッとしちゃった弟に「だからっ」とちょっぴりイライラされちった。

「兄貴に俺の機嫌とってこいって言われたのかって聞いてんだよ!」

「は、い?え?言われてねぇよ。お前の兄ちゃんは、そんな風に誰かを利用してやろうなんて、思いつきもしねぇでしょ?」

 尾上は、真っ直ぐだからさ。
 頭は悪くねぇよ。だけど愚かなぐらい真っ直ぐ過ぎる。
 後、物凄く頑張り屋さんだからさ、辛くても誰かに助けてって言わないんだよね。
 
 もっと頼って欲しいですけど、頼ってねって伝えても『もうたくさん頼ってます』って返されちゃう。俺的には全然じゃんって思うんだけど、あんまり口出しすると今度は尾上のプライドとか傷つけちゃいそうで、難しいよね。

 たくさん助けて貰ったのに、返せるモノが無いことが悲しいよ。

 体調を崩して、寮の部屋で苦しんでいた時。

 世界から弾き出されちゃったみたいな孤独と、発熱による辛さと苦しさに、どーしようもなくひとりで堪えていた時。
 尾上の、眩しいくらい真っ直ぐな精神が、俺を救ってくれた。大袈裟だって笑いたければ笑えばいいよ。

 俺にとったらホント、その名前通りの存在に感じたんだよ。

 誰かを大切に思う理由なんて、それだけあれば十分だろう。

 視線の先には複雑そうな顔をしたアキ坊が居て、俺がハテナを浮かべながら首を傾げると、きょろりと視線を彷徨わせた。

「じゃあなんで、俺に構うの……」

 それは心底わかりませんという問いかけ。

「いや、なんでって……そりゃあ、普通、知ってる子が落ち込んでたら、心配するだろーよ」

「へえ……顔見知り程度でもここまでお節介焼けちゃうんだ。広い心の持ち主ですね。お人好し」

 なんで怒るのそこで?
 余計なお節介だって言われたら、そりゃあ、まあ反論は出来ないけど……ぶっちゃけ、世話やき代表の尾上ファミリーさんには負けます。
 もしや、世話を焼くのは好きだけど、焼かれるのは大嫌い。ってヤツですか?おっふ。非常にややこしい。

「いやいや、別に俺はさ、広い心とかは持ち合わせてねぇよ?好きなヤツにしかお節介も焼かないしって、あれれ、なんだかこの会話、つい最近したような?」

 つい最近ってゆーか、数時間前に坂もっちゃんとこの話題をしましたね。
 むむ。俺ってそんなにオヒトヨシか?自分では冷たい男だと思っているんだけどな。ああ、坂もっちゃんのアレはイヤミが半分くらい含まれていたか?

「……………好き?」

 うーん。ちゃんと尾上と坂もっちゃんの事は他より一段高い場所に置くくらいの気持ちで、愛してるんだけどな。
 深く、高く、広く、愛しているんだけどな。

 坂もっちゃんには『お前の暑苦しい愛などいらん』って言われるし、尾上には『ハイハイ知ってるよ。俺も好きですよ。暑いから離れろや』って言われるし、あれれ……愛すれ違い。大山くんは悲しいなっ。こんなに大好きなのにさ!

「サエは、俺が好きなの?」

「そうそう、大好き…………うん?」

 あれ、なんか今、間違った?
 いや。間違いではない。間違いではないハズだ。
 アキ坊のこともモチロン好きさ。
 ヒカリさんの事も好きだし、春野くんと田村くんと……えーと、あとは?

 くりくりのおめめが、真摯な熱を含んで見上げてくる。
 真っ直ぐ見上げてくるその色は、どこかで見た覚えがないだろうか。

 不意に耳の奥で、ほんの数時間前の歓声が蘇った。
 フィールドを走る選手たち。
 キラキラに輝く青春の1ページ。女の子たちの歓声と拍手。

 オレンジ色の太陽が照らす横顔には、切なさと愛しさが滲み出す瞳があった。
 声にならない想いが、友の中で渦を巻いている事を感じ取って、なにも言えずに立ち竦んだ。
 掛ける言葉ひとつ持たなくて、なんの力にもなってやれなくて…………ただ、隣に立つ友人が、羨ましいと、そう思った。

 ひたすらに真っ直ぐに、たったひとりに向かうそのひたむきさが、羨ましいと思った。

 例えば。
 例えば常識や体面や自尊心なんかぶっ飛ぶような、そんな恋をしたとしたら。
 そんな風に誰かを想えたら。

「本当に?サエは俺が好きで、だから優しくしたり、かまったり……してくれんの?」

 例えば。
 例えば、常識や体面や自尊心なんかぶっ飛ぶような。
 ただひたすらに真っ直ぐ、誰かに好きだと言われたのなら。誰かがそう言ってくれたなら。

「兄ちゃんより俺が大事?」

 誰かがそう言って、側に居てくれたら、そうしたら心の隙間も、埋まったりするのだろうかか?スカスカと風が吹き抜ける心の奥底。
 そこにあったのはバカなガキが信じていた何かだ。
 指切りげんまん。一生友だちの約束。帰ってこなかった手紙。うそつきなアイツ。
 開かないように鍵をかけて、捨てられないから、心の奥にしまい込んだ。

 果たされなかった約束が、ぽっかりと穴をつくっている。

 声なんか忘れた、顔だって朧気で、名前なんか絶対に思い出してやらない。
 裏切り者だと蔑んだりもしない。
 傷つけられたと嘆いたりもしない。
 なにひとつ感じたりするものか。
 俺の人生にも、生活にも、メンタルにも、カケラ程の影響だって与えてやるモノか。
 そう思う。
 そう思っているのに、それなのに、今もまだ穴が塞がらないのだ。

 新しい土地に移り住み、あの日の出来事が遠い昔の物語になった今も、まだ穴は埋まらない。

 何も何一つ影響されるモノかと、そう思っているのに……あんな風に無くすならもう二度と、誰にも心を寄せたりはしないとも、思っている。矛盾している。

 矛盾を抱えて、だけど、それから目を逸らしながら生きてきた。

 耳の奥で、ドクドクと血が巡る音が聞こえる。
 目眩でも起こしたのだろうか。自分を取り巻く世界は朧気だ。

 ただ挑むように真っ直ぐな瞳が、すぐそこにあった。
 それは親友の目にとてもよく似ている。
 だけど、儚さすら感じさせた悲しみと切なさを含む瞳よりも、この目は随分と力強い。
 
 まるでレーザービームだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

4人の人類国王子は他種族に孕まされ花嫁となる

クズ惚れつ
BL
遥か未来、この世界には人類、獣類、爬虫類、鳥類、軟体類の5つの種族がいた。 人類は王族から国民までほとんどが、他種族に対し「低知能」だと差別思想を持っていた。 獣類、爬虫類、鳥類、軟体類のトップである4人の王は、人類の独占状態と差別的な態度に不満を抱いていた。そこで一つの恐ろしい計画を立てる。 人類の王子である4人の王の息子をそれぞれ誘拐し、王や王子、要人の花嫁として孕ませて、人類の血(中でも王族という優秀な血)を持った強い同族を増やし、ついでに跡取りを一気に失った人類も衰退させようという計画。 他種族の国に誘拐された王子たちは、孕まされ、花嫁とされてしまうのであった…。 ※淫語、♡喘ぎなどを含む過激エロです、R18には*つけます。 ※毎日18時投稿予定です ※一章ずつ書き終えてから投稿するので、間が空くかもです

エロ垢バレた俺が幼馴染に性処理してもらってるって、マ?

じゅん
BL
「紘汰の性処理は俺がする。」 SNSの裏アカウント“エロアカ”が幼馴染の壮馬に見つかってしまった紘汰。絶交を覚悟した紘汰に、壮馬の提案は斜め上過ぎて――?【R18】 【登場人物】 □榎本紘汰 えのもと こうた 高2  茶髪童顔。小学生の頃に悪戯されて男に興味がわいた。 ■應本壮馬 おうもと そうま 高2  紘汰の幼馴染。黒髪。紘汰のことが好き。 □赤間悠翔 あかま ゆうと 高2  紘汰のクラスメイト。赤髪。同年代に対してコミュ障(紘汰は除く) ■内匠楓馬 たくみ ふうま 高1  紘汰の後輩。黒髪。 ※2024年9月より大幅に加筆修正して、最初から投稿し直しています。 ※ストーリーはエロ多めと、多少のギャグで進んでいきます。重めな描写はあまり無い予定で、基本的に主人公たちはハッピーエンドを目指します。 ※作者未経験のため、お手柔らかに読んでいただけると幸いです。 ※その他お知らせは「近況ボード」に掲載していく予定です。

[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん
BL
【縦読み推奨】 ■ 第一章(第1話〜第9話)  アラディーム国の第七王子であるノモクは、騎士団長ローエの招きを受けて保養地オシヤクを訪れた。ノモクは滞在先であるローエの館で、男奴隷エシフと出会う。  滞在初日の夜、エシフが「夜のデザート」と称し、女奴隷とともにノモクの部屋を訪れる。しかし純潔を重んじるノモクは、「初体験の手ほどき」を断り、エシフたちを部屋から追い返してしまう。 ■ 第二章(第1話〜第10話)  ノモクが「夜のデザート」を断ったことで、エシフは司祭ゼーゲンの立合いのもと、ローエから拷問を受けることになってしまう。  拷問のあと、ノモクは司祭ゼーゲンにエシフを自分の部屋に運ぶように依頼した。それは、持参した薬草でエシフを治療してあげるためだった。しかしノモクは、その意図を悟られないように、エシフの前で「拷問の仕方を覚えたい」と嘘をついてしまう。 ■ 第三章(第1話〜第11話)  ノモクは乳母の教えに従い、薬草をエシフの傷口に塗り、口吻をしていたが、途中でエシフが目を覚ましてしまう。奴隷ごっこがしたいのなら、とエシフはノモクに口交を強要する。 ■ 第四章(第1話〜第9話)  ノモクは、修道僧エークから地下の拷問部屋へと誘われる。そこではギーフとナコシュのふたりが、女奴隷たちを相手に淫らな戯れに興じていた。エークは、驚くノモクに拷問の手引き書を渡し、エシフをうまく拷問に掛ければ勇敢な騎士として認めてもらえるだろうと助言する。 ◾️第五章(第1話〜第10話)  「わたしは奴隷です。あなたを悦ばせるためなら……」  こう云ってエシフは、ノモクと交わる。 ◾️第六章(第1話〜第10話)  ノモクはエシフから新しい名「イェロード」を与えられ、またエシフの本当の名が「シュード」であることを知らされる。  さらにイェロード(=ノモク)は、滞在先であるローエの館の秘密を目の当たりにすることになる。 ◾️第七章(第1話〜第12話)  現在、まとめ中。 ◾️第八章(第1話〜第10話)  現在、まとめ中。 ◾️第九章(第一話〜)  現在、執筆中。 【地雷について】  「第一章第4話」と「第四章第3話」に男女の絡みシーンが出てきます(後者には「小スカ」もあり)。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。  「第二章第10話」に拷問シーンが出てきます。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

カラダだけが目当てなの!?

きみいち
BL
上野和伊はどこにでもいる平凡なDK 夏休み初日、ひきこもりの幼なじみをたずねたら、初めてを奪われてしまう ひきこもり俺様幼なじみには鬼畜プレイを強要され、クラスメートで学校のアイドルにはでろでろに甘やかされる日々 えっちを追求(?)するためだけのお話です! 2019/11/10 第二部学校編開始しました !)隠語多めなので、ご注意

処理中です...