うそつきな友情(改訂版)

あきる

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番外編 僕らの友情7

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 そんなわけで、転勤族の子どもに生まれちゃったヤツらに与えられたら宿命“ヒトよりも若干 多い出会いと別れ”を繰り返すうちに、もし兄弟がいて、ひとりじゃなかったら、寂しいのも辛いのも少しはマシなのかなぁって、小さい頃はよく考えた。

 弟でも妹でもいいから欲しかったな。
 そしたらきっと、心のどこかがスカスカする、へんな感覚が消えるんじゃねぇかって、そんなことを思っていた。

 残念ながら、16歳になった今も俺はひとりっこで、しかも中学生の時から寮生活(因みに高校敷地内の学生寮は女子用で男子寮はちょっぴし離れた場所にあります。歩きで10分くらいですかね)をしているわけだから、家族ともしばらくあっていないんですよ。

 情に薄いってわけじゃねぇけど、4年近くも寮生活していると両親もなれちゃったのか、必要以上の干渉をしてこない。
 最後に会話をしたのは3ヶ月前に電話で母にお誕生日おめでとうコールをした時だ。
 自由ってすばらしい。

 素晴らしいけど、寂しいは多少ついてくる。
特に体調が悪いときなんかさ、心細さマックスになるでしょう?そんな時は、親しいヒトが遠くにいることが、悲しくてどーしようもない。

 あ。そう言えば、尾上家族と仲良くなったのは、俺が体調を崩していた時だったな。

 確か尾上と話すようになって、暫くしてからだ。

 はじめての寮生活で精神が疲れちゃったのか、俺は風邪を引いてダウンした。

 寮の入居者数の関係で、運良くか、運悪くなのか、ひとり部屋だった俺は頼れる相手もいなくて、薬だけを飲んで後はひたすら寝て過ごしたっけ。
 二日。たった二日、学校を休んだだけなのに、尾上が部屋を訪ねてきてくれた。

 まだそれほど仲が良いと言えるような間柄じゃあ無かったよな。たまたま席が近いから、喋ったり、昼飯を一緒に食ったりするくらいで。

 それなのに、尾上は物凄く心配してくれて、勝手に重病あつかいしてさ。「体調悪いのに寮でひとりだとか駄目だろ。よし、俺ん家へ来いよ」と男前決断。
 尾上はもちろん、親父さんもおふくろさんもお姉さんも、今はツンツンしちゃってるアキ坊だって、大袈裟なくらい心配性で世話焼きだ。

 寄ってたかって心配されて、どーしたらいーのかわかんねぇのが半分と、とっても嬉しいが半分。

 明るくて騒がしくて優しい人たちは、それが当然だってカンジで俺を輪の中にいれてくれた。もう何年もの長い付き合いがあるんじゃねぇのってくらい、強引なまでの遠慮のなさだった。

『ごめんな。うちの家族って、みんなお節介で強引なんだよなぁ』

 と、強引代表的な働き(寮の外泊願いをさっさと出しちゃったりとか、有無もいわさず俺を連行したりとかね)をした尾上が、にししっとガキッぽく笑って『しんどかったら遠慮せずに言えよ?』って言ってくれた。

 ヒトの優しさに泣きそうになったのはこの時が初めてだったかもしれない。
 家族って良いなぁとか、兄弟っていいなぁとか、尾上がいて良かったなぁ、なんてしみじみ思った。
 あれから、外面の俺じゃなくて、素の自分で尾上と接するようになって……うん、感謝してるよ、ホント。
 尾上にも、尾上家族にも、大きな恩があるわけだ。だからさ、俺に出来ることなら助力は惜しまないし、俺はね、やっぱり、尾上と耿さんとアキ坊が、三人とも仲良しさんなのが、いいんだよねー……俺も兄弟が欲しいなぁ。

「……え、サエってば!」

「うへぃぃ?ビビった!何だよいきなし大声出して」

「いきなりじゃないし、何度も呼んだし。あのさ、勝手にヒトの部屋でトリップしないでくれない?すっっっごく迷惑」

「そんな力一杯言わないで。凹む。……って、いうか、いまさ」

 物凄く馴染みはある、しかし最近は全く呼ばれなれてない名前が聞こえたような……。

 出来れば音として受け止めるのにとっても勇気がいるので止めていただきたいというか、街中で呼ばれたら、ダッシュで逃げたいその名前は……。

「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよな、馬鹿サエ」

 ごふっ。二回目。
 どうやら聞き間違いではなかったですね。

 大山くんは、本日最大のダメージを受けました。

「ちょっ……おまえ、誰に聞いたの、って尾上か?尾上がうっかり口を滑らしたのか?」

「はぁ?何のハナシ。それに俺も“尾上”なんですけど?」

「おおぅ。尾上ばっかでややこしい。そりゃそうだって、そんなコトは端っこにいったんよけといて……いや、俺の名前をね……何で知ってるのかなぁってさ」

 尾上には口止めしていたはずなのに……しゃぁーない、アイツは、ほわんほわんしてるからね。

 皆様ご存じ大山くんのお名前は、大きな山が冴えると書いて大山冴。【おおやまさえ】と読むのです。

 因みに今までで一番屈辱を受けた、かつスタンダードなあだ名はサエコちゃん。

 うん。何も聞かないで、何もいわないで、大山くん泣いちゃうから。

「アキ坊、アキ坊、もう二度とアキ坊って呼ばないから、俺のことも大山って呼んで。この際、呼び捨てでも許しちゃう」

「すでにアキ坊って言ってんじゃん。あほサエ」

「ううっ。イジメられていた頃の嫌な思い出が走馬燈のように浮かんでは消え、浮かんでは消え、浮かんでは」

「…………わかったよ。そんなに嫌なら止めたげるよ。そんかし二度とアキ坊とか呼ばないで」

「イエッサー少佐殿!大山三等兵、極秘任務を遂行いたします!」

「鳴いたからすがもう笑ったよ……うるさいから凹ましたままでいれば良かった」

 どうしましょう、この子ったらお兄ちゃんにはないS体質の片鱗が見えるわ。
 どうか坂もっちゃんの影響じゃ、ありませんように。

「で、ハナシを戻すけど、なぜなにお悩みそーだん室の営業時間がまもなく終了になっちゃうから、ちょっと焦ってるんだけどね大山くんは」

「知らないし。ってゆーか営業時間ってなんなの?」

「えー。だって、オガミ……お兄ちゃんにバレたら余計な気ぃつかわれそーでいやだろー。こっそりさり気なく、さながら妖精さんみたいな働きをしてみたかったのだよ」

 知らないうちに部屋が片づいてたり、無くした物が戻ってきたり、喧嘩中のおにいちゃんと仲直りできちゃったり、それは全部、妖精さんのおかげさ!

「もしもし救急車一台お願いします。大至急で」

「ちょっとぉぉぉ!!!!アキ坊何やってるのっっ!!どこに電話しちゃってるの!!!ちょっとしたジョークだからねー!」

「俺もちょっとしたジョークですけどなにか?本当に救急車よんであげようか?サエって絶対頭の血管が何本か切れてると思うんだよね」

「なんて冷たいお言葉でしょう。あとサエって呼ぶな」

「先にアキ坊つっのはあんただし」

「あれ?言いましたかしら?」

「やっぱ呼ぶ?救急車」

 ぶんぶんと頭を横に振ると、犬みたいと笑われた。犬なのはお前の兄ちゃんだよ、と心で思ったけど、言葉にはしなかった。

 やっと機嫌が治ったのか、笑顔が見えたので第一関門はクリアかな。
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