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第11話
しおりを挟む画面に表示されているのは
選択したファイルを削除します
キャンセル ・ OK
だった。
ナガノさんは俺に画面を向けたまま、OKを選択する。
削除しました。
その表示を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
「これでいいか?」
余裕ある大人の笑みを浮かべて訊ねられ、こくこくと首を縦に振った。
良いヒトだ!ナガノさんは良いヒトだっ!
ぶっちゃけ、男子高校生と金が絡んだアレなヤり取りをしているなんて、どこの変態野郎だ、コイツ!っなんてこっそり思ってたかもだけど、ちょっと認識改める……必要が、ある、か?
いや、やっぱダメだよな。売春ダメ絶対!やっぱ変態は変態だ。だけど、久賀よりはちょっとマトモっていうか、あれ……もしかして、久賀がヒトとしてダメすぎるって、事ですか?
「……正気かよ永野さん」
ちっと、小さな舌打ちが聞こえて視線を向ける。
目が合うなりぷいっと顔を逸らした同級生は「いつまで乗ってんの、邪魔」と実に冷たい口調で言った。
さっきまでのフザケた雰囲気は何処へ行ったのか、年相応……というか若干ガキっぽい態度だ。
腹の上から退いてやると、その場にあぐらをかいた久賀が、ナガノさんをちらりと見やりふんと顔を逸らす。
足の上に肘をつき、掌にアゴを乗せて「それで?」と言葉を発した。
なにが、それで?
黙っているとじろりと睨まれて、俺に言ったのかよとちょっぴり身を引く。
目つき悪ぃなコイツ。
なんか冷気が漂ってるぞ。
「それでってなにが?」
「だから、俺はどーしたらいーわけ。セックスがダメなら金でも払えばいいんでしょうか?」
えーと、なに言ってんのコイツ。
「どーゆー事だよ、意味わかんね」
そう訊ねると、馬鹿かお前とでも言いたげな、面倒くさそうな顔をされた。
いちいち失礼なヤツだな。お前の説明が足りないんだよ。
「……だから、俺と永野さんの関係バラすんだろ、お前。で、黙秘を要求する代わりに助けたけど、助け方がお気に召さないと。こっちの予備の取引材料も永野さんが消しちゃったし、正直お手上げ。『何でもお申し付けくださいませご主人サマ』状態だっつーの。あー……くそっ。なんで勝手に消すかな」
睨みつける久賀に「フェアじゃないだろう」とナガノが返し、「どーなっても知らねぇーよ」と久賀は鼻で笑った。
もしかしてさっきの音声は。
「……行為中の音声集めるのが趣味ってワケじゃないんだ」
「あ?そんな趣味ねぇよ」
あくまでも、アレは取引材料。武器の一つなのか。
変態って言ったのは取り消そう。狡猾なだけだ。どっちにしろ、サイテーな事に変わりはない。
やっぱりこいつはヒトとしてダメな部類に入るようだ。
「お前さ、ちょっとは反省するとかねぇの」
「反省しなけりゃいけない理由が分かりませんので。どこをどう反省したらヨイデスかねご主人サマ」
そのフザケた口調とか、ヒトを馬鹿にした態度とか、あげたらキリがない。
「で、俺に何を要求するの?」
早く決めたらと、久賀が目だけを動かした。
カラダで払えなきゃ、金で。それでもダメなら何が良い?
久賀のバイトを知らんぷりするタメの取引だ。
なんかさ、こいつ。取引とか、そんなのがないと、ダレも信用しねぇのか?
なんとなく寂しい気持ちになった。何でだろう。ま、いいや。そんなことよりこいつに要求する内容だ。
そんなもん、ひとつしか思い浮かばない。
「じゃぁ。ウリ止めろよ」
謝罪とか、土下座とか、何発か殴らせろや、なんてことより、真っ先に浮かんできた望みはそれだった。
俺の言葉に、久賀が何の感情も籠もらない目で見上げてくる。
怒りも喜びも悲しみも、何も抱いていない目。
なに。なんでそんな、空っぽな目をするんだ?
「却下」
あっさりと、拒否られた。
この野郎『何でもお申し付けくださいませご主人サマ』って言ったのは何処の誰だ。
「おい!ハナシが違う」
「誰と寝るのも、金貰うのも俺の勝手」
「はぁフザケんな!バラすぞ」
これ脅しだよな。脅しだ。
でもさ、何かイヤなんだよな。
コイツが金の為に誰かと寝てるってゆーのが。
とてつもなく嫌だ。
久賀はちらりとナガノさんに視線を向け、はぁっと小さく溜め息を吐き出した。
「……ウリ止めたら、尾上が養ってくれんの?」
冷たい目を向けられた。
獣みたいな鋭い目だ。
ぞわりと背中に悪寒が走る。
「どーゆー意味?」
聞き返したら、久賀はへらりっと緩んだ笑みをつくる。
それでも、空気の冷たさは変わらない。
「言葉通りだよ。俺はね、生きるために手っ取り早く稼げるお仕事をしてるだけだよー。ねぇ、学費とか生活費とか、普通に生きるだけでどれくらい金が必要か知ってる?」
今日一番の綺麗な笑みだ。
酷い言葉や悲しい言葉なんて、少しも似合わない綺麗な笑顔だ。
「真っ当なオシゴトだと高校生じゃ時給千円が良いところで、学校終わって夜中まで働いても精々5、6千円の稼ぎしかない。それに比べて、このバイトは軽く10倍稼げるよ。上客捕まえたら、一晩に六桁のお金が手にはいるの」
どう、すげぇでしょ?と、まるでテストで百点満点を取った子どもみたいに笑う。
漂う空気だけが冷たい。
笑ってなんて、少しもいなかった。今も、今までも。
ホントを覆い隠す、うそつきの笑顔を被っていただけだ。
「お前、親と離れて暮らしてんの?仕送りとか?」
「俺の家族の事を話す義務はないよね?もっともソレが取引条件なら答えてあげるけど」
学校で接しているときのような、トモダチの顔をして久賀が笑う。
友人なんかじゃなかった。少しも好かれてなんていない。
俺が勝手に仲良くなれたと、そう思っていたんだ。
久賀はずっと、うそつきの友情を演じていただけだった。
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