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第41話 いや待てどうしてこうなった?

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 炎王の、無駄に整った顔が超至近距離にある。
 炎を閉じ込めたような赤い眼が、どーしてこんなに近いんでしょう。
 そして、なんでそんな、愛おしげに、俺を見るんだよ。

 いや、違う……精霊は、人を愛したりしないって、誰かがいってなかったか?
 うん、言ってたね。
 だからこれはさ、俺の見間違いってゆーか、勘違い、なんだよね。

「主」

 炎王の声が、無駄に甘く感じたのも、俺の勘違いだよな……そんなことよりも、炎王、そこで喋ると唇が、当たっちゃ……。

 手遅れだった。
 今のは意図的に、ですかね?
 それとも突発的な衝突事故……な、わけないですよね、こいつ当てて来やがったもんねー。
 んんー?
 あれれー?
 もしやこれはアレカナ?
 前世の知識でいうところの【チュー】ってやつかな?
【キッス】とか【ベーゼ】ってやつなのかな?
 うん、そのようだ。
 さて……。

 お前なにしてくれちゃってんだよ守護精霊ぃぃぃぃ!!!

 ナジィカさんのファーストキスだぞ、おぃぃぃ!!
 メアリーにもされたことないのに、ってナジィカさんが落ち込んじゃったらどーするんだよ!ナジィカさんは根暗でシツコイんだぞ!【ヤンデレ】じゃなくてマジで【病んでる】んだぞ!しかもると言ったら捨て身でるぞ。

「いやいやいやお前なにやってんの!」

「違ったか?」

 接触はほんの1、2秒で、直ぐに離れた相手は俺の背中を撫でたときと同じ反応をした。

「人族は、幼子を愛でるときに唇であらゆる所に触れるのだろう」

「なんですか、その微妙に間違った知識は……」

 大体『あらゆるところ』って、お前の中でいったいどんなところまでなの……いや、いい答えるな、知りたくない。

「違うのか?」

「えっ、と……親が子どもの額に、とか、子どもが親のほっぺにとかなら、まぁあるけど、それは家族だからです。誰でも彼でもじゃねぇーです」

「ふむ。そうか」

 じゃあもう一回と、何故だか再び顔を近づけてきて……慌てて止めた。
 何やってんの。死にたいの?
 ナジィカさんが暴走したらどーしてくれるよ。
 今は何故だか大人しいけれど、怒らせたらホント怖いんだからね?此処だけの話し、原作のナジィカは精霊も消滅させやがったから、お前が消される可能性もゼロじゃないんだよ?
 なんて……そんな事を説明しようものなら『なんでそんな事を知っている』とかなんとか追及されそうだから言えないんだけどね。

「いやいや、話聞いてた?」

「失礼な。聞いていた」

 止められて、なにやら不満そうな炎王さまです。なんでだよ。不満なのは俺の方だからね。

「家族なら間違いではないのだろう?」

「そ、そうだよ」

「俺や水の精霊は家族だと、主は言ったな?」

 ならば何も間違ってはいないだろう、と俺の守護精霊が主張しました。

 そ、そうだけどさ。その通りだけどさ、でもなんか違うよね?俺が間違ってるわけじゃないよね?

 うぐっと、黙りこんだ俺に満足したのか、もう一回と顔を近づけて来やがった炎王に、セカンドも奪われた。
 なにかが間違っている。
 大いに間違っている。
 炎王の体を押しやって、すぐに離れました。
 そんな不満そうな顔をしてもダメだからね。

「……たっ、タイムを要求する!」

 Tの字を両手でつくって、一時停止を主張します。
 立ち上がってちょっとだけ距離をとった。別に、逃げているわけではないよ。ただ、ちょっとお前の迫力が凄すぎて、俺の、ってゆーかナジィカの繊細な精神と心臓が持ちそうにないからね?
 それにしても、ナジィカさんが反応なくてホント良かった。

 どぎまぎしている俺を見上げながら、炎王は首を傾げた。

「『たっ、たいむ』とはなんだ?」

 いいえ、タイムです。
 英語は異世界の壁を越えるくらいパネェんだろ……こんな時だけ通じねぇとかわざとか?わざとなのか!

「もう、タイムでダメならポーズでもフリーズでも何でもいいよ!兎に角、ちょっと離れて落ち着いて!」

「俺は冷静だが?」

 分かってるよぉぉぉ!!にこやか爆弾スマイルとか突然のちゅーとか、いつの間にキャラ変したのって全力で突っ込みたいとこは多々あるけどお前は冷静だよ見りゃわかるよテンパってるのは俺だけだよちくしょーめ!だがなコレだけは言わせろ!俺は純日本人です、前世は!奥ゆかしい日本人だったんだよ!

「かっ、家族でも口にちゅーはしないんです!!それは恋人同士の行為なの!!特別で大事なヒトだけの特権だから気軽にするとかダメ!」

 びしりっと相手を指差し言い切った。
 ふ、言ってやった!言ってやったぞ!文化によっては家族でも口にちゅーはするんじゃね?と思わないでもないが、余計な事は言わないでおこう、俺の身の安全の為に。
 俺だって頭を使うときは使うのさ!何度も好き勝手にちゅっちゅっされてる俺だと思うなよ!

「そうか、なら次からは額か頬にすればいいんだな」

 さらり、と炎王はそんな事を言いました。

「…………」

 いや……別に、でこちゅーもほっぺにちゅーも、なにかが減る訳じゃねぇし、別にいーんですけどね……。
 ただ、そんな簡単に納得するなら、最初から口にちゅーとかしてくんなよって思いました。
 あー、なんだろ、この、なんとも言えない、もやっと感は……なんでしょーかねー。
 なんなんですかね、コイツ。
 こっちは俺の中のナジィカさんがブチ切れて、【ご主人様VS炎の守護精霊】の魂まで破壊尽くすようなバトルが勃発しやしないかと、ハラハラドキドキしてるってーのに。
 二回もする必要ないよね?
 そもそもさ、お前どこで仕入れてきたのその情報?
 どっかで俺の知らない相手と、ちゅっちゅっして来やがったんですかね?
 イー感じのおねぇさん相手に習ってきたとかですかね?
 俺がお前を呼ぶのにも答えずにそんな羨ましい事をしてやがったんですかねそーなんですかねこのヤろう。

 ふー。落ち着け坂谷くん。なんか思考が斜めに走っめるから、一旦落ち着け。あれだ、炎王を納得させられたのは良かったじゃないか。
 人前で事あるごとにキスなんてされたら、変な勘違いをされそうだからな。うん、唇同士の接触を阻止できたのはファインプレーだ、坂谷くん。やったね。
 だがしかし、なんでしょうかね、この妙に、いらっとする感じは……。

 あぁ、こんな時に使える、素敵な台詞を俺は知ってますよ。
 全力で叫んでいいかな?
 よし、叫ぼう。

「イケメン爆ぜろ!」

 もしくは禿げろ!
 叫んだ後、炎王を放置して走り出す。
 捨てゼリフのチョイスを間違った気がしないでもないが、すこーしだけ気分が晴れたから良しとしよう。
 まぁ、意味はまったく伝わりませんでしたけどね。

    
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