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そんな顔をしてもダメですからね!

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「マチルダお嬢様、学園に到着致しました。」

馬車が止まり、従者がマチルダに声をかける。

「そう、まだ掛かりそうね。」

窓から外に視線を向けると前方には馬車が列をなしている。
平民の方たちを除いて、ほとんどの者が馬車で通学する為、どうしても渋滞が起きてしまう。

「明日からはもう少し早く出ようかしらね。」と従者に話しかけながら、マチルダは昨日の事を思い出していた。


アリスを守るには自分一人では心もとないと考えたマチルダは、リネンブルグ家の侍女 リサに早馬で手紙を送っていた。


その内容と言うのは、アリスのもう一人の友達であるベニー・バールレッドに学園内でアリスを気にかけてもらうようにリサからお願いしてもらえないかと言うものだ。
リサからのお願いなら喜んで引き受けるだろうと、手を回したのであった。
友達の恋心を利用する辺り、中々の小悪魔である。



もちろん、アリス命!のリサは手紙を読み終えるなり『アリスお嬢様を守るお手伝いが出来るなら!』とすぐさまベニーに手紙書き、同時にベニーに手紙を書いた旨をしたためた手紙をマチルダへ返送していた。


哀れベニーは二人の女の手のひらの上で踊らされているのたが、彼がそれに気づくことはないだろう。
いや、彼なら自ら進んでリサの手のひらの上に飛び乗り、いつまでも躍り続けるに違いない。


そんな事を考えている内に、自分の降りる番がやって来たマチルダは従者のエスコートで馬車を降りた。


この学園は国内で一番と言うだけあって、壮観な門構えをしていて、思わず立ち止まり見上げてしまった。
その門の両脇には屈強な兵士が数人で警備している。
『流石、王城に次ぎ安全だと言われているだけあるわね~。』と心の中で感嘆しつつ門を潜った。


すると何処からともなく走って来るような足音が聞こえてきた。


スタスタスタスタッタッタッタッタ
 



どなたか存じませんが、こんな貴族だらけの所で走る方がいるなんて…
きっと平民の方で、学園での作法がわからず走ってしまったに違いないわ!


周りの生徒達も皆同じ気持ちなのだろう。誰がそんな不作法を働いているのかと、辺りを見回している者もいる。


これはきちんと教えて差し上げなければ可哀想ですわね。


入学早々やらかしてしまったであろう者に、貴族のルールを教えてあげなくてはと親切心からマチルダは走って来る方に顔を向けた。


「…えっ?まさか、アリス…?」


「マチルダーーーー!」


満面の笑みを浮かべたアリスがマチルダ目掛けて走って来る。

それも手をブンブン振って



ひぃぃ~!!ちょっと!手をブンブン振るのはおよしになってーーーー!!!


これ以上親友の醜態を晒すわけにはいかないと、マチルダは自分からも早足で近づいた。

「マチルダ~?」
「ちょっと此方にっ!」


マチルダがアリスを道の端に引っ張って行く間、走ってきたのがどう見ても平民の出で立ちでなく、その姿も今まで見たことがないほど可愛らしかった為、嫌みのひとつでも投げ掛けようとしていた貴族が困惑した表現を浮かべていた。


「アリス!令嬢が走るなんてはしたない事ですわよ!それにそんなに大きく手を振ってはいけません!」


「ごめんなさい、マチルダ。マチルダに会えたのが嬉しくてつい…」


「…。」


急にシュンとして可愛い子犬が項垂れているかのような姿にきゅんとしてしまい、何も言えなくなるマチルダだが、ここは心を鬼にしてちゃんと分かってもらわないと!と自分を叱咤して何とかアリスに注意する。

そんな可愛いらしいお顔をしてもダメですからね!
これも親友の努めですわ!


「つい…ではありません!ちゃんとこれからは淑女に相応しい振る舞いをしましょうね?」


「分かったわ!マチルダ。注意してくれてありがとう。私、たまに突っ走ってしまうでしょう?だから、注意してくれるマチルダには本当に感謝してるの。いつもありがとう!(ニッコリ)」


ハッ!


この場にいた者達はアリスのあまりに可愛いらしい笑顔に、息を飲んだ。



そしてこう思った。


『さっき、走ってきたのは幻想だ。』

『まぁ、誰にでも走らなければならない時もあるさ。きっと余程急いでいたのだ』

『もう、走ってたって手を大きく振ってたって、どうだっていいじゃないか』

などなど、各々自分を納得させるのであった。


「いえ、友達なのですから当然ですわ!さぁ、講堂に向かいましょう。」



そうして歩き出したアリスとマチルダの後ろに連なって、何故かそこにいた生徒達が後をついてくるというハーメルンの笛吹状態になっていた。

それに気付いたマチルダが後ろを振り向き、「コホン」と咳払いをすると蜘蛛の子を散らしたように後ろに付いてきていた生徒達が散っていく。


アリスの学園生活は私が守らなくては!との思いを新たにするマチルダであった。












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