オシッコラム

年越し我慢

そう、あれは何年か前の元旦の話である。
元旦と言えば神社。
神様的なものを碌に信じていない連中もこぞって神社に出向きお賽銭を投げ、無駄遣いをする。

私の場合、お参りではなく、一攫千金を願い夜店出店のためそこにいたものである。
結果は中々に痛々しいものである。反省すべき点は山のようにあったが、そもそも大晦日、正月は儲からない。

人出自体上々なれど、彼らが欲しいのは破魔矢やら御札といった宗教グッズであり、お好み焼きではなかった。よくよく考える以前に大晦日に神社でお好み焼きを食べる酔狂な方はそれ程多くない。
それもケチャップが美味しい洋風お好み焼き。美味しいが定番ではない。

目の前のサーターアンダギー屋も苦戦のようである。ちなみに関東の神社の話である。


そして色々なものが終わった。
1年が終わり、商売が終わり。
とはいえ最後にお参りだけして行こう。私は。
気を取り直せないまま、神様に文句のひとつも言ってやる気でいた。


人も疎らになった境内。
商売繁盛の御札を買っておこう。

髪を染めたコスプレしているような若い巫女さんが笑顔を振り撒いている。御利益がありそうな気はしてくる。

その彼女が
同僚の巫女さんに小声で、けど感情を込めて言う。
「あたし膀胱炎になりそう。去年からずっと我慢してる」

私は耳が良い。
思わず彼女を見てしまい目があう。笑顔。
私は御札を買って、逃げるようにその場をはなれた。

それにしても去年からずっとおしっこを我慢しているというシチュエーションはかなりレアな気がする。
恐らくは1月1日の日の出前にしか考えられない状況であろう。

1月2日になれば多分成り立たない台詞である。それも去年からトイレに行ってないではなく、去年からトイレを我慢しているだ。
恐らく催したのは12月31日の夜。


とりあえず、彼女が一刻も早く無事に済ませられるよう祈りつつ、彼女のことを考えた。
巫女さんにとっては年越し我慢が年中行事なのかもしれないが、これは一種の神秘体験なのではと何故かふと思った。

そして、いつかおしっこについて調査文書化しておこうと何故か思った。
そして、この体験がこのコラム集に繋がることになる。