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五話
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「……どこか痛む?」
夜明け前、隣から聞こえてくる唸り声で目が覚めた。
起き上がり、携帯の液晶画面で衣知を照らしてみる。
まだ、眠っている。
悪夢に魘されているようだ。
学生時代や職場での薄汚い思い出が、衣知を苦しめているのかもしれない。
「辛かったな、衣知……」
あ、と声が落ちた。衣知が目覚めたのだ。
衣知はこちらを一瞥したが、すぐに目を背けてしまった。
「怖い夢でも見た?」
「……朝陽さ、いつからそんな風になったんだよ……」
問い掛けの内容とは全く関係のない回答に、朝陽はきょとんとした。
「いつから……いつから好きだったかってこと? それはもうだいぶ前から……」
「いつからおかしくなったかって聞いてるんだ」
衣知が勢いよく上体を起こす。
荒げた声とは裏腹に、瞳は濡れている。暗がりの中、頬を伝う涙が白く光っていた。
「……なんのことだか」
「やっぱり正気じゃないだろ、朝陽おかしいよ……! お前は狂ってる!」
「まだ夜明け前だよ衣知」
主人に叱咤された犬の如く威勢を失った衣知だが、逃げようとはしなかった。
朝陽は向き直り、そっと衣知の両手を握った。
「……衣知、何でそんなこと言うんだ……? ここならお前を守ってやれるんだ。汚い世界に汚されなくても済む。お前は俺の一番だ、俺もお前の一番なんだ。……そうだろ? それが恋人ってもんだ」
空が明るくなってきた。
目の前には、瞠目しながら吐息を震わせる衣知がいる。何か言いたげに、唇を動かしている。血色の悪い口唇は、忽ち欲情を掻き乱した。
「本当に愛してるんだよ」
一笑し、勢い良く手を引く。そのまま押し倒すと、彼の目にはさらに涙が滲んだ。
恋人に酷い事を言ってしまった罪悪感を感じて、自責しているのかもしれない。
朝焼けで窓の外がオレンジ色に染まり始めると同時に、視界も鮮明になってきた。
怯えた様子で開き掛けた衣知の唇を、朝陽の唇が塞いだ。
謝らなくてもいい。許すどころか、怒っていないのだからその必要性は全く無い。
そう心で語りかける。
愛を具現化する、呼吸すらも奪うような口付けを、朝陽は何度も何度も繰り返した。
夜明け前、隣から聞こえてくる唸り声で目が覚めた。
起き上がり、携帯の液晶画面で衣知を照らしてみる。
まだ、眠っている。
悪夢に魘されているようだ。
学生時代や職場での薄汚い思い出が、衣知を苦しめているのかもしれない。
「辛かったな、衣知……」
あ、と声が落ちた。衣知が目覚めたのだ。
衣知はこちらを一瞥したが、すぐに目を背けてしまった。
「怖い夢でも見た?」
「……朝陽さ、いつからそんな風になったんだよ……」
問い掛けの内容とは全く関係のない回答に、朝陽はきょとんとした。
「いつから……いつから好きだったかってこと? それはもうだいぶ前から……」
「いつからおかしくなったかって聞いてるんだ」
衣知が勢いよく上体を起こす。
荒げた声とは裏腹に、瞳は濡れている。暗がりの中、頬を伝う涙が白く光っていた。
「……なんのことだか」
「やっぱり正気じゃないだろ、朝陽おかしいよ……! お前は狂ってる!」
「まだ夜明け前だよ衣知」
主人に叱咤された犬の如く威勢を失った衣知だが、逃げようとはしなかった。
朝陽は向き直り、そっと衣知の両手を握った。
「……衣知、何でそんなこと言うんだ……? ここならお前を守ってやれるんだ。汚い世界に汚されなくても済む。お前は俺の一番だ、俺もお前の一番なんだ。……そうだろ? それが恋人ってもんだ」
空が明るくなってきた。
目の前には、瞠目しながら吐息を震わせる衣知がいる。何か言いたげに、唇を動かしている。血色の悪い口唇は、忽ち欲情を掻き乱した。
「本当に愛してるんだよ」
一笑し、勢い良く手を引く。そのまま押し倒すと、彼の目にはさらに涙が滲んだ。
恋人に酷い事を言ってしまった罪悪感を感じて、自責しているのかもしれない。
朝焼けで窓の外がオレンジ色に染まり始めると同時に、視界も鮮明になってきた。
怯えた様子で開き掛けた衣知の唇を、朝陽の唇が塞いだ。
謝らなくてもいい。許すどころか、怒っていないのだからその必要性は全く無い。
そう心で語りかける。
愛を具現化する、呼吸すらも奪うような口付けを、朝陽は何度も何度も繰り返した。
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