彼は誰

Rg

文字の大きさ
上 下
12 / 17
五話

5-1

しおりを挟む
「……どこか痛む?」

 夜明け前、隣から聞こえてくる唸り声で目が覚めた。
 起き上がり、携帯の液晶画面で衣知を照らしてみる。
 まだ、眠っている。
 悪夢に魘されているようだ。
 学生時代や職場での薄汚い思い出が、衣知を苦しめているのかもしれない。

「辛かったな、衣知……」

 あ、と声が落ちた。衣知が目覚めたのだ。
 衣知はこちらを一瞥したが、すぐに目を背けてしまった。

「怖い夢でも見た?」
「……朝陽さ、いつからそんな風になったんだよ……」

 問い掛けの内容とは全く関係のない回答に、朝陽はきょとんとした。

「いつから……いつから好きだったかってこと? それはもうだいぶ前から……」
「いつからおかしくなったかって聞いてるんだ」

 衣知が勢いよく上体を起こす。
 荒げた声とは裏腹に、瞳は濡れている。暗がりの中、頬を伝う涙が白く光っていた。

「……なんのことだか」
「やっぱり正気じゃないだろ、朝陽おかしいよ……! お前は狂ってる!」
「まだ夜明け前だよ衣知」

 主人に叱咤された犬の如く威勢を失った衣知だが、逃げようとはしなかった。
 朝陽は向き直り、そっと衣知の両手を握った。

「……衣知、何でそんなこと言うんだ……? ここならお前を守ってやれるんだ。汚い世界に汚されなくても済む。お前は俺の一番だ、俺もお前の一番なんだ。……そうだろ? それが恋人ってもんだ」 

 空が明るくなってきた。
 目の前には、瞠目しながら吐息を震わせる衣知がいる。何か言いたげに、唇を動かしている。血色の悪い口唇は、忽ち欲情を掻き乱した。

「本当に愛してるんだよ」

 一笑し、勢い良く手を引く。そのまま押し倒すと、彼の目にはさらに涙が滲んだ。
 恋人に酷い事を言ってしまった罪悪感を感じて、自責しているのかもしれない。
 朝焼けで窓の外がオレンジ色に染まり始めると同時に、視界も鮮明になってきた。
 怯えた様子で開き掛けた衣知の唇を、朝陽の唇が塞いだ。

 謝らなくてもいい。許すどころか、怒っていないのだからその必要性は全く無い。

 そう心で語りかける。
 愛を具現化する、呼吸すらも奪うような口付けを、朝陽は何度も何度も繰り返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

解放

papiko
BL
過去にCommandされ、名前を忘れた白銀の髪を持つ青年。年齢も分からず、前のDomさえ分からない。瞳は暗く影が落ち、黒ずんで何も映さない。 偶々、甘やかしたいタイプのアルベルに拾われ名前を貰った白銀の青年、ロイハルト。 アルベルが何十という数のDomに頼み込んで、ロイハルトをDropから救い出そうとした。 ――――そして、アルベル苦渋の決断の末、選ばれたアルベルの唯一無二の親友ヴァイス。 これは、白銀の青年が解放される話。 〘本編完結済み〙 ※ダイナミクスの設定を理解してる上で進めています。一応、説明じみたものはあります。 ※ダイナミクスのオリジナル要素あります。 ※3Pのつもりですが全くやってません。 ※番外編、書けたら書こうと思います。 【リクエストがあれば執筆します。】

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。 終始彼の視点で話が進みます。 浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。 ※誰とも関係はほぼ進展しません。 ※pixivにて公開している物と同内容です。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

処理中です...