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haze
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『今日の7時頃にはそっち着く』
昂良から連絡が入ったのは、翌日の正午――――彼が他地域に赴いてから五日が経過した頃だった。
今し方食事を済ませたばかりの朔斗は、汁だけが残っているカップ麺を前に発話する。
「夜ご飯どうする? 食べてくる?」
『ううん、駅で弁当買おうと思ってる』
「そう」
これで会話は終わりかと思いきや、昂良が『あのさぁ』と口にした。
『駅まで迎えに来たりしない? ……一緒に弁当選んで、一緒に帰りたい』
「ん、いいよ」
即答に、昂良が一驚の声を上げ、それから間を置いて感謝の言葉を述べた。通話を終えてから、時計を一瞥する。まだまだ時間はある。部屋を見渡し、まずは昼食の後片付けに着手する。
退屈な毎日からやっと抜け出せる。そう思い心が華やいだのも束の間、たった五日間でこの有様かと自分が情けなくなった。
17時になり、あたりに薄闇が広がり始めた。
昂良と二人で帰宅したら、いの一番に何をしようかと考える。部屋を暖めて家を出るか、すぐに入浴出来るようにお湯を溜めておくか、野菜スープを作っておいた方がいいのか、そんな事も一緒に黙考する。
帰って、弁当を食べて、シャワーを浴びたら、それからは。
思い立つが、少し躊躇する。だが、五日ぶりに彼と会うのだ。今夜体を求めてくるだろうという予想は、忽ち確信に変わる。
朔斗はもう一度時刻を確認し、居間を後にした。
帰宅ラッシュの駅内は、身動きがぎこちなくなる程にごった返していた。壁際を伝って歩いていき、比較的人が少ない場所で立ち止まる。改札からは少し離れているが、見つけやすさを選ぶなら丁度いいはずだ。店舗や広告といった、目印になるものをメッセージで伝達し、ぼうっと待つ。
何もせずに立っていると、密閉空間でも無いのに人熱で汗ばんでくる。マフラーを緩め、風通しを良くすれば暑さは和らぐのだが、それも一瞬だ。出口に近い場所に移動しようかと爪先の方向を変えたその時、名前を呼ばれた。
主人を見つけた犬の如く走ってきた昂良に抱き付かれそうになって、すかさず制止する。
「人いるところではやめて。……お疲れ様」
言いながら、両手をポケットに突っ込む。彼の表情に翳りが落ち、心苦しくなるが、こんな人混みで勘違いされるようなことはしたくなかった。
「……弁当見に行くか」
苦笑し、昂良が前を歩き始める。予定通り、地下に降りて夕食に食べる弁当を二人で選んだ。その間何度も、昂良の指先が体に触れかけていたのを、朔斗は一度たりとも見逃しはしなかった。
昂良から連絡が入ったのは、翌日の正午――――彼が他地域に赴いてから五日が経過した頃だった。
今し方食事を済ませたばかりの朔斗は、汁だけが残っているカップ麺を前に発話する。
「夜ご飯どうする? 食べてくる?」
『ううん、駅で弁当買おうと思ってる』
「そう」
これで会話は終わりかと思いきや、昂良が『あのさぁ』と口にした。
『駅まで迎えに来たりしない? ……一緒に弁当選んで、一緒に帰りたい』
「ん、いいよ」
即答に、昂良が一驚の声を上げ、それから間を置いて感謝の言葉を述べた。通話を終えてから、時計を一瞥する。まだまだ時間はある。部屋を見渡し、まずは昼食の後片付けに着手する。
退屈な毎日からやっと抜け出せる。そう思い心が華やいだのも束の間、たった五日間でこの有様かと自分が情けなくなった。
17時になり、あたりに薄闇が広がり始めた。
昂良と二人で帰宅したら、いの一番に何をしようかと考える。部屋を暖めて家を出るか、すぐに入浴出来るようにお湯を溜めておくか、野菜スープを作っておいた方がいいのか、そんな事も一緒に黙考する。
帰って、弁当を食べて、シャワーを浴びたら、それからは。
思い立つが、少し躊躇する。だが、五日ぶりに彼と会うのだ。今夜体を求めてくるだろうという予想は、忽ち確信に変わる。
朔斗はもう一度時刻を確認し、居間を後にした。
帰宅ラッシュの駅内は、身動きがぎこちなくなる程にごった返していた。壁際を伝って歩いていき、比較的人が少ない場所で立ち止まる。改札からは少し離れているが、見つけやすさを選ぶなら丁度いいはずだ。店舗や広告といった、目印になるものをメッセージで伝達し、ぼうっと待つ。
何もせずに立っていると、密閉空間でも無いのに人熱で汗ばんでくる。マフラーを緩め、風通しを良くすれば暑さは和らぐのだが、それも一瞬だ。出口に近い場所に移動しようかと爪先の方向を変えたその時、名前を呼ばれた。
主人を見つけた犬の如く走ってきた昂良に抱き付かれそうになって、すかさず制止する。
「人いるところではやめて。……お疲れ様」
言いながら、両手をポケットに突っ込む。彼の表情に翳りが落ち、心苦しくなるが、こんな人混みで勘違いされるようなことはしたくなかった。
「……弁当見に行くか」
苦笑し、昂良が前を歩き始める。予定通り、地下に降りて夕食に食べる弁当を二人で選んだ。その間何度も、昂良の指先が体に触れかけていたのを、朔斗は一度たりとも見逃しはしなかった。
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