Rely on -each other-

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nameless

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 夕食とシャワーが済んだら、寝室で過ごすのがルーティンになっている。此処で本を読むのは、軟禁生活の名残だ。読書をする朔斗の傍らで、昂良がノートパソコンを弄っているのも普段よく目にする光景である。

「明日も仕事?」
「仕事……だけど明日は在宅」

 適当に返事をして、文字列に視線を落とす。時々、昂良が何か言いたげにこちらを瞥見する。様子を窺っていると、彼は子供が親にそうするように、控えめに裾を引っ張った。

「朔斗、今日ってさ……していいの?」

 表情に翳りと憂いを垣間見る。昂良は朔斗以上に、去年のことを気にしているようだ。当時の被害者である自覚を持ちながらも、顔色ひとつ変えずに頷く。それでも昂良の憂いが払拭されることは無かった。

「本当に良い……?」
「いいよ、僕もう気にしてないし。いつもとする事変わらないじゃん」

 昂良の指先が躊躇いを携えて頬に触れる。普段は彼の『したい』の一言で大体の準備が整ってしまうのに、今日はやけに悠長だ。

 いつもよりもずっと優しい手つきが寧ろ、あの日を意識させているとも知らずに。

 朔斗は昂良からのキスを受け、本を閉じた。ベッドに手を付いたまま、繰り返される彼の口付けをただ受け入れる。
 だが、唇が首筋を伝い始めると先程までの余裕は欠片ほど小さくなってしまう。単純に、擽ったいので苦手なのだ。

 僅かに触れた吐息から、昂良の感情が昂まってきている事は手に取るように分かった。厚い胸をやんわりと押しのけて、一度彼を制止する。

「……電気」

 呟くと、昂良はすぐにナイトテーブルに手を伸ばした。机上にある木箱から5つ連なったコンドームを取り出して、それから照明が落とされた。
 
 行為中には明かりを消す、と言うのも暗黙の了解になっている。以前は昂良の都合で、今は朔斗が羞恥心を軽減する為だ。

 ヘッドボードに本を置いて服を脱ぐ。薄暗い視界に曝け出された昂良の体は程よい筋肉を有していて、白い肌は月光に透けているように見えた。

 再び唇を重ねる。後頭部に手を添えられ、同時に唇を押し付けられるとバランスが保っていられなくなり、必然的に上体を倒す形になった。

「ケーキ食べてる時から我慢してたでしょ」
「なんか悪いかなって……」
「昂良って変なところで臆病だね」

 昂良は返答の代わりに鼻で笑った。彼は言い訳をしない代わりに、困惑すると黙り込んでしまう。そして、すぐにキスで誤魔化す。

 幼稚な誤魔化しにも、接吻という行為にも随分慣れた。軟禁生活においても、ほぼ習慣化していたからだ。

 昂良が性行為に留まらず、唇同士を合わせるキスをし始めたのにはちゃんとした理由があった。

 ――――昂良は朔斗の事を愛している。

 それを知りながら、朔斗も此処に留まっている。

 しかし、朔斗は昂良に対して同じ感情を抱いているわけではない。もう何度も彼とセックスをしたが、求められたら応じると言うだけで、それ以上の感情は無かった。
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