馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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犬牙、犬吠、その身に喰らえ

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 唇で触れるだけのキスを何度も落として、話してくれるまで待ち続ける。師匠の気持ちいいところに触らないように、注意して体を撫でる。今は気持ち良くするんじゃなくて、安心して心を緩めてもらうのが大事だ。

「……回復薬、まだ残ってるか」

 ただ、ようやく口を開いてくれたかと思ったらそんなセリフだったから、一気にほわほわした気持ちが引いた。

「……どっか怪我してるんですか」

 俺の攻撃は当たってなかったはずだから、魔物にやられたのかフェニックスの火球のせいか、どっちかだ。急いで体を起こして師匠を確かめるけど、傷跡が増えていることくらいしかわからない。そうだ、傷跡のことも後で聞かないといけない。今はこっちが先だけど。
 背中側も確かめようとしたら、ひっくり返そうとした腕を師匠に掴まれた。

「違ぇよ俺じゃねぇ、テメェだ」
「え」

 起き上がった師匠が、俺の脇腹に手を当ててぐっと押してくる。

「いッ」
「……気になって、ヤるどころじゃねぇんだよ」

 まだ回復薬残ってたっけ。これたぶん、治さないとヤらせてもらえない。
 せっかくいい感じになりかけてたのにとは思うけど、師匠が俺を心配してくれるのは嬉しい。キスしても、ちゃんと受け入れてくれるところも。

「飲んで治したら、してもいい?」

 啄むように唇を触れ合わせて、師匠の肌を撫でる。ウィルマさんの回復薬だったらすぐ治ると思うけど、モンドールさんのところでもらったやつだとたぶん治りきらない。せっかく師匠を見つけたのに、お預けは嫌だ。

「…………どんだけヤりてぇんだよ……」
「今すぐ奥まで突っ込んでぐっちゃぐちゃ痛ってぇ!」

 蹴り飛ばされた。手加減はされてるけど、痛いものは痛い。師匠の眉間に出来た谷が深いから、大人しく飛ばされた先で荷物袋を漁る。荷物の方に蹴り飛ばした辺りは、優しさだと思う。たぶん。
 剣の手入れ道具とか、着替えとか、保存食を引っかき回して、さっき入れた空の回復薬の容器も放り出す。一つあった、けど、これはウィルマさんのじゃない。テーブルの上に置いて、ウィルマさんがくれたやつを探す。師匠に何かあった時用に全部残してたはずだから、まだ残ってはいるはずだ。

「あっ、た」

 蓋を外してすぐに飲み干す。腕を見ていたら、まだらになっていた痣がだんだん消えていった。さっき蹴られて痛かったところも平気になっていく。これなら師匠も許してくれるはずだ。
 ちょうど目に付いた傷薬を手に取って、師匠のところに戻る。潤滑油まではさすがに持ってきてないから、これで代用するつもり。

「治った」

 無言で後ろを向くように指を回されたから、上衣を脱いで背中も見せる。下穿きも脱いでまとめてその辺に投げたら、後ろから大きくため息が聞こえた。
 そんなにしたくないのか。だったら俺が我慢した方がいいのかもしれない。振り返ったら手招きされて、傍に座る。

「……ヤりてぇのか」
「うん」

 師匠がしたくないなら我慢するつもりはあるけど、師匠を気持ち良くしたいし師匠で気持ち良くなりたい。まだ許可が出ていないからちゃんと手を出さないようにして、じっと宝石のような目を見つめる。

「師匠、ご褒美が欲しい」

 師匠を見つけたご褒美。勝てなかったけど、強くなったご褒美。もらってもいいはずだ。めちゃくちゃ頑張った。

 ずっと、師匠だけ追いかけてきた。

 呆れたような顔で笑って、師匠の眉間の皺がなくなったから、跳び付いて抱きしめる。強くて、綺麗で、格好良くて、可愛い、俺の特別な人。ぎゅって返してもらうのは嬉しい。

「調子に乗んな、馬鹿犬」

 言い方は厳しいけど、声は笑ってるからこれは拒否じゃない。頭を撫でてくれてるから、怒られてるわけでもない。嬉しくなって頬をすり寄せたら、師匠も小さく声を上げて笑ってくれた。

「……まあ、今日は許してやる」
「気持ち良くします!」
「……当然だろ」

 師匠からしてもらうキスは、格別だった。
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