馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
上 下
69 / 116
野良犬、迷い犬、あの手が恋しい

1-1

しおりを挟む
 城の中をどれだけ探しても師匠は見つからなくて、王様は第二騎士団とモンドールさんの家の人まで駆り出したらしい。それでも王都にもどこにもいなかったから、しおしおと崩れ落ちて仕事にならなくなったそうだ。それで俺が何か知らないかと、ミーチャさんが走ってきたらしい。
 俺も、何も知らなかったけど。

「……ルイさん、その、大丈夫ですか?」

 驚いて固まってたら、王子に触られて余計にびっくりした。近付いてきてたのに全然気付いてなかった。結構長い時間、呆然としてたみたいだ。
 大丈夫、なわけじゃないけど、でも、師匠がいないならやることは一つしかない。

「探さなきゃ」

 師匠はわざわざ戻ってきてくれるような人じゃない。自分で見つけ出して自分から傍に行かないと、このままずっと会えなくなる。絶対やだ。行き先に心当たりはないから、手がかりを見つけて探さないといけない。
 俺が持ってる手札は少ないし、誰か協力してくれる人が必要だ。

「……ミーチャさん、王様と話って、出来ますか」

 だったら、権力者を使うのが一番いい。師匠がわざわざ王様に俺の名前を頼んだのも、そういうことかもしれない。

 頷いたミーチャさんについて、城の中を歩く。前は俺が歩いていると訝しげな顔をされたけど、名前と称号をもらってからは違う雰囲気の視線を寄越される。
 話し掛けられても答えるつもりはないけど、名前で識別して属性で態度を決めるって師匠が言ってたのは、たぶんこういうことなんだと思う。属性なんて、一対一で向き合った時には何の関係もないのに。王様だろうと貴族だろうと、師匠に何かするなら殺すし、俺の邪魔をするなら殺す。それは属性に関係のない話だ。

 ミーチャさんに連れられて入った部屋には大きな机があって、紙の束が山ほど乗っていた。机に向かって王様が座ってはいるけど、椅子にぐったりもたれかかっていて動いていない。隣で王妃が紙の山を片付ける作業をしている。護衛の騎士が立っているのは椅子の少し後ろだ。近くにいるなら騎士も手伝えばいいのにと思うけど、護衛だから仕事が違うんだろう。

「陛下、妃殿下、勇士様をお連れ致しました」
「ありがとう、ミーチャ」

 王妃が王様を立たせようとしたけど、全く力が入らないみたいでふにゃふにゃだったから、騎士とミーチャさんが両側から抱えて移動させた。隣の部屋にあった長椅子に座らせたけど、そこでもぐんにゃり椅子に埋まっていく。
 王様が、人だったはずだけど、スライムみたいになってる。

「クライヴがいなくなるといつもこうなの……ごめんなさいね」

 師匠がたまに城に来るとめちゃくちゃ元気になって、用事が終わって城からいなくなると、しばらくスライムになるらしい。その間はほとんど仕事にならないので、王様でないとダメなもの以外は王妃が代行するそうだ。
 王様の横に王妃が座って、ミーチャさんに勧められて向かい側の椅子に座る。騎士はまた王様たちの少し後ろだ。

「ルイくんは、クライヴの行った先に心当たりはあって?」

 ミーチャさんが用意してくれたお茶を飲みながら、王妃に聞かれて首を横に振る。そのつもりで、師匠は俺に何も言わなかったんだとは思う。俺が追い掛けられないように。俺を城に残すことじゃなくて、たぶん、俺の前からいなくなるのが目的だ。

 絶対探し出してやる。

「そう……今まで、何も言わずに出て行くなんてこと、なかったから……」

 心配しているの、とため息をついた王妃の横で、スライム、じゃなかった、王様がぽつりと零した。

「育ててる子がいるから、安心してたのに……結局クライヴが逃げちゃったじゃないか……」

 一気に頭と腹が冷えた。

「…………師匠は逃げない」

 王様から視線が逸らせない。城では大人しくしろって、噛み付くなって言われたけど、でも、違う。
 師匠は何にも背中を向けたりなんかしない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

主神の祝福

かすがみずほ@11/15コミカライズ開始
BL
褐色の肌と琥珀色の瞳を持つ有能な兵士ヴィクトルは、王都を警備する神殿騎士団の一員だった。 神々に感謝を捧げる春祭りの日、美しい白髪の青年に出会ってから、彼の運命は一変し――。 ドSな触手男(一応、主神)に取り憑かれた強気な美青年の、悲喜こもごもの物語。 美麗な表紙は沢内サチヨ様に描いていただきました!! https://www.pixiv.net/users/131210 https://mobile.twitter.com/sachiyo_happy 誠に有難うございました♡♡ 本作は拙作「聖騎士の盾」シリーズの派生作品ですが、単品でも読めなくはないかと思います。 (「神々の祭日」で当て馬攻だったヴィクトルが受になっています) 脇カプの話が余りに長くなってしまったので申し訳ないのもあり、本編から独立しました。 冒頭に本編カプのラブシーンあり。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...