馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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忠犬、馬鹿犬、貴方のために

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「……嫌だったら」

 だめだ。ご褒美なしって言われたとしても、止まる自信がない。ただの剣術や体術だけじゃ勝てないし、魔術を組み合わせたら何とかなるだろうか。

「もっと早く師匠誘拐してここ出てる」

 師匠を連れ出すのが一番大変だと思う。団長にも騎士にも、オーウェンさんにも勝てそうだったし、人数が多くても魔術である程度対応出来る。
 ただ師匠に抵抗されたら、その時だけ大変だ。剣じゃまだ勝てない。魔術を使えば何とかなるかもしれないけど、怪我をさせたくない。今ある傷跡含めて全部師匠だけど、俺が増やしたいわけじゃない。

「……誘拐」

 くつくつ笑う声が聞こえて、顔を上げて師匠に向き直る。可愛い。抱きたい。

「英雄捕まえて攫うなんざ言い出すの、テメェくらいのもんだろうな」

 師匠の腕が俺の体に回る。え、抱きしめられ、え。

「……ちゃんと名前やれて、よかった」

 だめ、今のはだめ、本当にだめ。師匠が悪い。

 俺の部屋の方向どっちだ。転移、術式は見たことあるけど、上手くいくだろうか。
 いやもう悩んでる場合じゃない、今すぐ抱く。ヤる。ぐちゃぐちゃにする。

「……馬鹿犬、何考えてやがる」
「師匠、ちょっといい子にしてて」
「……ァア?」

 魔道具だと転移先にも魔道具が必要だったけど、魔術で発動する場合はどうだろう。転移先を把握出来てないと難しい気もする。俺の部屋、そうだ、バルコニーにしよう。あそこなら周りの景色を見たから、だいたいの位置がわかる。ここのバルコニーを起点にして、そこからの移動を考えればいい。障害物が少ない方が、きっと簡単だ。

「……待て、馬鹿犬、今考えてることを正直に話せ」
「転移魔術使えないか考えてる」
「待て、今すぐやめろ、落ちつけ」

 抱きしめてた師匠が体を離そうとするから、仕方なく腕を緩める。今は絶対手放したくないのに。
 くそ、考える時間与えたから師匠の落ちついてる。

「抱きたい、ヤりたい、我慢したくない」
「…………ヤらせてやるから、ちょっと待て……」
「今すぐ」
「……待てっつってんだろこの馬鹿犬!」

 蹴り飛ばされた。慌てて入ってきた警備の人に師匠が何か言ってる。その間に起き上がって、もう一度師匠に後ろからくっついた。背中から抱きしめさせてくれるの、俺に対して警戒心ないって感じがして嬉しい。
 警備の人が呼びに行ったらしいラクレイン団長がバルコニーに来て、師匠と師匠に張り付いてる俺を交互に見る。

「……俺は何で呼ばれたんだ?」
「…………犬が発情期でな」

 俺を見て、なるほど、と団長が頷いた。確かに犬には発情期があるけど、俺を見てどこがなるほどなのかよくわからない。それに、季節限定じゃなくて俺は毎日がいい。師匠とヤるのは気持ちいいし、エロくて綺麗だし、師匠がとろとろになった顔は毎日見たい。
 後ろからこっそり腰を押し付けたら、足を踏まれた。痛い。

「退出してぇから、後始末」
「……なるほど」

 俺が主役だから、勝手にいなくなると困るんだそうだ。本当は、王様に挨拶して、周りの人にも断りつつ広間を出ないといけないらしいけど、そんなことより早くしたい。師匠の肌に触れたい、キスしたい、突っ込みたい、とろとろになった顔が見たい。
 団長の前で股間を撫でたら怒られそうだから、回した手で師匠の下腹を撫でる。

「……なるほど」

 団長がもう一度呟いた。

「っの、駄犬!」
「もういい?」
「あー、いいぞいいぞー、ごゆっくりー」
「ラクレインこの野郎!」

 団長と警備の人が帳の向こうに歩いていったから、後ろから押し付けて、耳朶を噛みながら囁く。

「ご褒美」
「……部屋、戻んぞ」

 撫でるなって腕を外されたけど、それを掴んだまま師匠が部屋まで引っ張っていってくれたから、いっぱい気持ち良くしようって決めた。
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