馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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忠犬、馬鹿犬、貴方のために

8-2

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 服の刺繍も意味があるらしくて、師匠と王様が考えてくれたと後から聞いた。炎は教会の印の一部で、聖女の巡礼を護衛したのと、法王と俺が知り合いになったから使っていいって言われたそうだ。
 剣はもちろん、英雄の弟子の意味。
 それから羽ペンが『消失』に関する発見をしたことの印になるらしい。こっちはウィルマさんが『東の魔女』の称号を使った上で王様に推薦してくれたそうだ。俺は知らなかったけど、ウィルマさんはその称号を出すだけでこの国への侵攻を諦めさせるほど、すごい人らしい。強いのはわかるけど、すごい変人にしか見えなかった。

 とにかくその辺が、俺の名前を付けろって師匠が王様に要求出来るだけの理由になる、らしい。寄越せって言えるだけの何かがないと、さすがに師匠でも王様は動かせないみたいだ。聖女候補の護衛をして無事聖女が生まれたこと、王都近郊の魔物の掃討とワイバーンの討伐に尽力したこと、『消失』に関する歴史的発見をしたこと、が俺の功績で、国として褒美を与えるに相応しいんだそうだ。全部師匠にお膳立てしてもらったことだから、俺が褒めてもらうことなのかどうか、疑問はある。もらえるならもらっておくけど。

 それから、剣の師匠は英雄で、魔術の先生が東の魔女だから、剣術や魔術の使い手としても期待大、だそうだ。前にウォツバルで外国の間諜に狙われたのも、逸材だから自分の国に連れ帰って自国のために働かせよう、という理由だった。師匠がすごいだけで俺は特に何もしてなかったのに、何でそう考えたのかは知らない。その外国からも狙われている、のでさらに、王様が自分の国の人間だと主張しないといけないそうだ。前にアカシが俺のことをうまそうな餌に育ってるって言ってたけど、まあそういうことなんだろう。

 そんな感じのことを師匠じゃなくてミーチャさんが教えてくれたけど、政治的な話過ぎて、俺には全然わからなかった。ひとまず、俺に名前とか地位とか与えて、この国のものですよ、というパフォーマンスをした方がいい、と師匠が王様を言いくるめたのはわかった。王様もそうかなって思うくらいの根拠はあったんだろう。師匠が俺にあれこれやらせてくれたおかげだし、俺のこと馬鹿犬って言ったり蹴ったりするわりに師匠俺のこと大事にしてくれてるじゃねぇかチクショウ抱かせろって思った。
 城に来てから夜一人で抜くくらいしかしてない。

「まあ、後ろ盾に英雄と東の魔女と法王がついてるってわかりゃ、充分だろ」

 ふ、と口角を上げた師匠が俺から離れて、衝立の方に向かう。

「俺の分を頼む」
「承知致しましたわ!」

 師匠が離れていって、残念な気持ちと同時に助かったと思った。

 あのままいいにおいがして一方的に触られる状態が続いてたら、確実に勃ってた。ため息をついて師匠が座っていた椅子に腰を下ろす。ここに座ってじっとしてれば、ムラムラきてるのも治まるはずだ。
 落ちついて、ウィルマさんのところで火炙りにされそうになったり溺死させられそうになったり生き埋めにされそうになったりしたことを思い出していたら、逆に辛くなってきた。魔術の修行といいつつ殺されかけた記憶ばっかりだ。あとは血を取られたり涙取られたり、魔力を補充させられたり、俺便利に使われてただけじゃないだろうか。確かに魔術も教えてもらったけど。

「そういえば、お弟子様はご覧になったことがございませんわよね?」
「え?」

 ちょっと悲しくなってきてたら、仕立屋に声を掛けられて顔を上げる。見たことないって何がだ。

「ベティ、これ前より派手になってないか?」

 言いながら出てきた師匠を見て、死ぬかと思った。
 いや、たぶん一回心臓止まった。

「お弟子様!?」

 椅子から床に転げ落ちた。服が破けそうだからのたうち回るのは必死で我慢した。

 瞳と同じ碧の布地に、金糸でドラゴンの刺繍が入った服を着た師匠なんて、なんて、むり、直視したら眩しすぎて俺の目が潰れる。いや、呼吸が止まる? どっちにしろ死ぬ。

「……放っとけ、ベティ」

 師匠の声は、心底呆れているように聞こえた。
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