45 / 116
忠犬、馬鹿犬、貴方のために
1-1
しおりを挟む
気に入らない。気に入らないけど、師匠にいい子にしてろって言われたから大人しくしてないといけない。ここでは誰にも噛み付くなって言われたから、噛み付いちゃいけない。けど、あまりにも、あまりにもだ。
「ああっ、さすがバルトロウ様ですわ! この首、この肩、この腕、この胸」
「……それくらいにしておいてくれ」
「あら、失礼いたしました。私ったらつい」
上半身裸になった師匠をあんなにべたべた触られたら、メジャーをびっびっと躍らせて採寸しまくる仕立屋にイライラしても仕方ないと思う。絶対無駄に触ってるあいつ。そんなふうにねちっこく撫でなくていいはずだ。
イライラするイライラするイライラする。
イライラしすぎて頭が痛くなってきた気がしたから、せっかくの師匠の体から目を離して、窓の外を眺めた。まだ日は高い。少し遠くに壁があって、その上に立ってる誰かの兜が光って見えた。どうせなら外に行って剣を振り回していた方がマシな気がする。一人で出歩くなって言われてるから、それも出来ないけど。
ここのところ全然体を動かせてない。朝一でこっそり、部屋の中で型をなぞるくらいしかしてないから、腕も落ちてる気がする。また師匠が遠ざかる。イライラする。
「それにしても、いつもの通り体形がちっとも変わっていらっしゃいませんわね? 何だか張り合いがありませんわ」
「そう言われてもな……」
確かに仕立屋の言う通り、師匠はほとんど体形が変わらない。俺を拾ってくれた時から、少し背が伸びて、傷跡が増えたくらい、だと思う。お酒は飲むけど暴飲ってほどじゃないし、食事量も多い方じゃない。普段からきちんと基礎的なトレーニングはするし、旅続きの生活だから、動かないという日がない。
こうやって仕立屋とか、壁際に控えている人たちに肌を見られたり傅かれたりするのに慣れていて、テーブルマナーとか偉い人相手の礼儀とかも問題ない人が、どうしてそんな生活をしているのか、俺はその理由をまるで知らない。知らなくていいのかと、思わなかったわけじゃないけど、知ったらなんか、師匠に手が届かなくなる気がして黙ってる。
俺が欲しい人はあの人だけなのに、そのたった一人が遠くなるのは嫌だ。
「……少し待っていてくれるか」
「承知いたしましたわ!」
師匠の気配が近付いてきたから、顔を上げた。周りの人に椅子を勧められたけどなんか落ちつかなくて、隅っこで床に座ってたから、目の前には師匠しか見えない。しゃがんで、目線を合わせてくれる。
「いい子で待ってろっつっただろ」
「……噛み付いてない。大人しくしてる」
「そんだけ周り威圧してて何言ってやがる」
威圧してたつもりは、ないけど。たぶんイライラしすぎて、機嫌悪いのを隠せなくなってるせいだ。いい言葉が思い浮かばなくて喉の奥で唸ってたら、やれやれって感じで撫でられた。師匠に撫でてもらえるのは嬉しい。
「俺の採寸と、テメェの採寸が終わったら今日は仕舞いだ。いい子にしてたら、遊んでやる」
「……ほんと?」
師匠に遊んでもらえる。いい子にしてたら。
ここにいると部屋から出られなかったり知らない人と話をさせられたりして、全然いつもの通りじゃない。ヒューさんからもらった剣を慣らしたいのに、時間も機会もなくて、寂しくなってきてたから嬉しい。師匠が手合わせしてくれるんだったら全力を出せるし、楽しいし、一瞬で終わってつまらないなんてこともない。
からかうように鼻を摘ままれたから、頭を振って逃げて、戻っていった師匠の言い付け通りいい子で待つ。遊んでもらえるとわかったからには、いくらでも待てる。
師匠の周りを飛ぶようにぐるぐる回って、仕立屋が採寸した結果を書き留めていく。
「本当に、本当に理想のお体……」
「……ベティ、俺の分は終わっただろう」
恍惚とした顔で師匠の体を撫で始めたから、もしかして若干危ない人かと思い始めたところで、師匠が仕立屋を引っぺがした。
「ああっ、さすがバルトロウ様ですわ! この首、この肩、この腕、この胸」
「……それくらいにしておいてくれ」
「あら、失礼いたしました。私ったらつい」
上半身裸になった師匠をあんなにべたべた触られたら、メジャーをびっびっと躍らせて採寸しまくる仕立屋にイライラしても仕方ないと思う。絶対無駄に触ってるあいつ。そんなふうにねちっこく撫でなくていいはずだ。
イライラするイライラするイライラする。
イライラしすぎて頭が痛くなってきた気がしたから、せっかくの師匠の体から目を離して、窓の外を眺めた。まだ日は高い。少し遠くに壁があって、その上に立ってる誰かの兜が光って見えた。どうせなら外に行って剣を振り回していた方がマシな気がする。一人で出歩くなって言われてるから、それも出来ないけど。
ここのところ全然体を動かせてない。朝一でこっそり、部屋の中で型をなぞるくらいしかしてないから、腕も落ちてる気がする。また師匠が遠ざかる。イライラする。
「それにしても、いつもの通り体形がちっとも変わっていらっしゃいませんわね? 何だか張り合いがありませんわ」
「そう言われてもな……」
確かに仕立屋の言う通り、師匠はほとんど体形が変わらない。俺を拾ってくれた時から、少し背が伸びて、傷跡が増えたくらい、だと思う。お酒は飲むけど暴飲ってほどじゃないし、食事量も多い方じゃない。普段からきちんと基礎的なトレーニングはするし、旅続きの生活だから、動かないという日がない。
こうやって仕立屋とか、壁際に控えている人たちに肌を見られたり傅かれたりするのに慣れていて、テーブルマナーとか偉い人相手の礼儀とかも問題ない人が、どうしてそんな生活をしているのか、俺はその理由をまるで知らない。知らなくていいのかと、思わなかったわけじゃないけど、知ったらなんか、師匠に手が届かなくなる気がして黙ってる。
俺が欲しい人はあの人だけなのに、そのたった一人が遠くなるのは嫌だ。
「……少し待っていてくれるか」
「承知いたしましたわ!」
師匠の気配が近付いてきたから、顔を上げた。周りの人に椅子を勧められたけどなんか落ちつかなくて、隅っこで床に座ってたから、目の前には師匠しか見えない。しゃがんで、目線を合わせてくれる。
「いい子で待ってろっつっただろ」
「……噛み付いてない。大人しくしてる」
「そんだけ周り威圧してて何言ってやがる」
威圧してたつもりは、ないけど。たぶんイライラしすぎて、機嫌悪いのを隠せなくなってるせいだ。いい言葉が思い浮かばなくて喉の奥で唸ってたら、やれやれって感じで撫でられた。師匠に撫でてもらえるのは嬉しい。
「俺の採寸と、テメェの採寸が終わったら今日は仕舞いだ。いい子にしてたら、遊んでやる」
「……ほんと?」
師匠に遊んでもらえる。いい子にしてたら。
ここにいると部屋から出られなかったり知らない人と話をさせられたりして、全然いつもの通りじゃない。ヒューさんからもらった剣を慣らしたいのに、時間も機会もなくて、寂しくなってきてたから嬉しい。師匠が手合わせしてくれるんだったら全力を出せるし、楽しいし、一瞬で終わってつまらないなんてこともない。
からかうように鼻を摘ままれたから、頭を振って逃げて、戻っていった師匠の言い付け通りいい子で待つ。遊んでもらえるとわかったからには、いくらでも待てる。
師匠の周りを飛ぶようにぐるぐる回って、仕立屋が採寸した結果を書き留めていく。
「本当に、本当に理想のお体……」
「……ベティ、俺の分は終わっただろう」
恍惚とした顔で師匠の体を撫で始めたから、もしかして若干危ない人かと思い始めたところで、師匠が仕立屋を引っぺがした。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
主神の祝福
かすがみずほ@11/15コミカライズ開始
BL
褐色の肌と琥珀色の瞳を持つ有能な兵士ヴィクトルは、王都を警備する神殿騎士団の一員だった。
神々に感謝を捧げる春祭りの日、美しい白髪の青年に出会ってから、彼の運命は一変し――。
ドSな触手男(一応、主神)に取り憑かれた強気な美青年の、悲喜こもごもの物語。
美麗な表紙は沢内サチヨ様に描いていただきました!!
https://www.pixiv.net/users/131210
https://mobile.twitter.com/sachiyo_happy
誠に有難うございました♡♡
本作は拙作「聖騎士の盾」シリーズの派生作品ですが、単品でも読めなくはないかと思います。
(「神々の祭日」で当て馬攻だったヴィクトルが受になっています)
脇カプの話が余りに長くなってしまったので申し訳ないのもあり、本編から独立しました。
冒頭に本編カプのラブシーンあり。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる